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» 2009年10月17日 00時00分 UPDATE

朝のカフェで鍛える 実践的マーケティング力(4):競合他社の出現は、売り上げ低迷の理由にならない (1/4)

久美は問題と対策を整理しているが、なかなかまとまらない。どのように問題を分析して対策を立てればよいのだろうか?

[永井孝尚,ITmedia]

 日本アイ・ビー・エムで長年マーケティングマネジャーを担当してきた筆者が上梓した書籍「朝のカフェで鍛える実戦的マーケティング力」から、4回にわたり幾つかの章を紹介します。

 本連載では、筆者が業務を通じて学んだことを物語仕立てで整理し、みなさまにお伝えすることで、マーケティングの実際の仕事を実践的に理解してもらうことを狙いとします。今回は、わたし達が陥りがちな問題分析と対策のわなについて取り上げ、どのようにすれば真の問題解決を図ることができるのかを考えていきます。

本連載では、「朝のカフェで鍛える実戦的マーケティング力」の一部を加筆・修正し、許可を得て掲載しています

プロローグ

登場人物

宮前久美:主人公。33歳。中堅会計ソフト会社A社に新卒で入社し、セールスを10年経験した後、希望の商品企画部に異動。物語が始まる時点では33歳で、職位は主任。本記事では36歳で、職位はグループリーダー。

与田誠:主人公の叔父。55歳。大手企業マーケティング部長を経て大学院でマーケティングを教えている。物語が始まる時点では55歳。


 これまでのコーチングを基に、久美はA社で会計ソフトの新商品「ミスター会計参謀」の開発を手掛けた。発売から半年が過ぎ、先進ユーザーが続々とミスター会計参謀の採用を始めた。採用企業の経営者からは、「会計業務の手間も削減できたし、経営の見える化も出来て、経営力強化を実現できた」という感謝の声が集まってきた。

 この成果が世の中に伝わり、ミスター会計参謀の案件数は急増。販売パートナーを拡大した発売2年目の中ごろになると売り上げは急速に拡大し、売り上げ目標を大きく上回るようになった。

 発売3年目、ミスター会計参謀の企画を担当した久美は昇進して、課長待遇となるグループリーダーになった。また、営業部の5年上の先輩と結婚した。仕事でもプライベートでも充実した日々を過ごす久美であったが、皮肉なことに、この時期からミスター会計参謀の売り上げは急激に停滞し始めた。

 今までは様子見で競合しなかったライバルのX社も類似サービスを開始し、市場に参入してきた。直接競合して負ける案件も出てきた。さらに多くの他社も参入してきた。市場全体は成長しているものの、競争は激化してきた。

 このままではミスター会計参謀はじり貧だ。久美はグループリーダーとして対策を考えることになった。しかし、なかなか対策が進まない。久美は再び誠のコーチングを受けることにした。

競合が激しいことは、売り上げ低迷の理由にはならない

 朝、早い時間にカフェに行くのは久しぶりだ。既に誠は席についてコーヒーを飲みながら新聞を読んでいた。

久美 誠おじさん、おはようございます。

 おはよう、久美ちゃん。ご活躍のようだね。こうやって会うのも久し振りだね。

久美 あの時はいろいろと教えていただいて、本当にありがとうございました。

 久美は頭を下げた。リーダーとしての風格もついてきたようだ。

 ところで売り上げはあまり芳しくないようだね。

久美 そうなんです。それで、まず商品の機能強化をしようとしています。

 どんな内容かな?

久美 ユーザーの要望をまとめたものです。要望をたくさんいただいているので、これを全部整理して、特に優先順位が高いものに対応します。

 ううむ、なるほどね。

久美 ほかにも、いろいろな問題が起こっているんです。例えばコールセンターに問い合わせがたくさん来ていて、電話がなかなかつながらないので、対応するオペレーター数を増やす予定です。ほかにも営業資料を作ったりとか、価格競争になっているパートナーさんの値引き要求に個別対応したりしています。ここに現在の対応を全部まとめてみました。

 久美は分厚い資料をバッグから取り出した。発生している問題に対して、現在の対応状況がぎっしりと細かくまとまっている。誠は資料にさっと目を通して、質問する。

 ミスター会計参謀の売り上げが伸び悩んでいる本当の理由は、何なのかな?

久美 競合が激しくなったからだと思います。X社さんも同じようなサービスを始めました。ほかにも競合が次々と出てきています。

 競合が激しくなったこの市場でも、伸びている会社はあるんだよね。競合が激しくなったから伸びなくなったというのは、必ずしも正しくないかもしれないよ。

久美 でも、競合が激しくなって、一部のお客さんはX社に乗り換え始めているのは事実です。現場でも競合で大変なんですよ。

 確かに競合は激しくなったかもしれない。しかし競合が激しくなったからといって、それがA社さんの売り上げが伸び悩んだ理由にはならないんじゃないかな?

久美 でも、競合が激しくなると、売り上げは伸び悩むんじゃないんですか?

 なかなか納得しない久美に対して、誠は話題を変える。

 久美ちゃん、ドライビールって知っている?

久美 アサヒのスーパードライですよね。

 スーパードライは、20年前に今までなかった「ドライビール」という新しい市場を切り開いて爆発的に売れたんだ。でもその後、他社も次々とドライビールを出して、「ドライ戦争」と呼ばれる販売合戦をした。その結果、ドライビール市場はどんどん拡大した。でも、久美ちゃん、アサヒのスーパードライ以外のドライビールって、どのくらい知っているかな?

 久美は頭をかしげて考えながら、答える。

久美 あんまりビールは詳しくないですけど……。スーパードライ以外は知りませんね。

 結果はスーパードライの一人勝ちで、今はドライビールを出している会社はほとんどない。「ドライといえばスーパードライ」と消費者が認知したからだ。

久美 競争が激しいからといって、売り上げが落ちた訳ではなかったんですね。

 そう。A社さんも最初からこの市場にいたんだから、後発の他社よりも経験が豊富だし、本来は有利な立場なはずだ。しかも市場は伸びているし、売り上げを伸ばしている他社もあるんだよね。競合が激しいことは、売り上げが低迷している理由にはならないはずだ。

久美 競合以外に理由があるということですか?

 恐らくA社さん自身に原因があるはずだ。

 久美は分厚い資料に目を落とす。

久美 じゃあ、この分析資料の中に、その原因があるんですね。

 この資料には一通り目を通したけど、ここに書かれているのは、いろいろなところで発生している問題をまとめたものだよね。

久美 その通りです。

 ここにはない、久美ちゃん達が気付いていない隠れた大きな原因があるかもしれない。

久美 え、そうなんですか? でも、これは全社で起こっている問題のほとんど全部をまとめたものですよ。

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