モニタにまつわるエトセトラ悲しき女子ヘルプデスク物語(1/2 ページ)

ブラウン管式が主流だったPC用のモニタも、すっかり液晶ディスプレイに様変わり。時は移ろい、我が家の風物詩も1つ消えた。

» 2009年12月11日 08時00分 公開
[鐙貴絵,ITmedia]

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ウチの会社に七不思議ってあったっけ?

 「先輩って霊とか……お化けとか、妖怪とか信じています?」

 突然、こんなことを相談された。会社の飲み会も、もう終盤という時のこと。わたしが心地よく酔っ払った頃合を見計らい、会社の後輩が隣に座ってきた。何か相談があるのか、「あの、先輩」と前置きをし、一息呼吸おいたかと思うと、いきなりオカルトちっくなことを言い出したのだ。あまりにも唐突なので、飲みかけていたビールを噴き出しそうになった。

 酔いもかなりさめてしまった。せっかく(会社のお金で)いい気持ちだったのに、もったいない。とはいえ、深刻な表情で問いかけてくる後輩を放ってはおけない。「どうしたの?急に」と聞き返すわたし。

わたし 霊? おばけ?? 妖怪??? 金縛りにでもあったの

後輩 そういうわけじゃないんですが……

 本人はいたって真剣。普段は明るく、おしゃべりな後輩の口が重い。酒に酔っているのか? それとも、とても怖い思いでもしたのだろうか? できればこの先の話は聞きたくない。霊を信じているからといって、好きなわけじゃない(ちなみにわたしは、霊は何となく信じているけど、お化けや妖怪は信じないのよ)。ましてや、脅かされるとかホラーとかなんてのは、大の苦手。できればその手の話は避けて通りたい。かといって、ここで後輩を見捨てるわけにも行かない……と、後輩の口が開いた。

後輩 怪奇音がするんです。ラップ音って言うんでしょうか。毎日じゃなくて、本当に時々なんですけどね。忘れたころに“ぱきっ”って音がするんですよっ! ぱきって。

わたし えっ……。どこから?

後輩 それが、会社の……

 会社の中!? うちの会社に七不思議あったかな。この手の話を避けてきたわたしには、心当たりがあるような無いような。記憶をたどるわたしの前で、後輩は続きを話し始めた。

後輩 会社のパソコンからなんです。音がするのは。しかも、仕事をしていると突然に。その音と一緒に、画面が……画面が乱れるんですよっ! これって霊のシワザでしょうか?

 次の瞬間、笑いだしてしまったわたし。あまりにも真剣な顔で、真剣に話をしてくれた後輩がまた、笑いを誘う。笑いすぎて目から涙がこぼれてきた。あまりにも大笑いしたので、最初はぽかーんと口をあけていた後輩が、怒り出してしまった。ごめんごめん。本当にごめん。笑うつもりは無かったんだけど。確かに知らない人には怖い音に聞こえるかもね。

 後輩のPCに接続されているのは、いまや珍しくなったブラウン管タイプのディスプレイだ。どうやら、ディスプレイ内部の放電音と、その放電による画面の乱れが後輩を恐怖のどん底へ落としていたらしい。確かに知らない人には、ラップ音に聞こえるだろう。

 ブラウン管タイプのディスプレイは、故障前によく放電によるラップ音を出す。このラップ音が増えてくることが故障の合図になることもある。内部にある絶縁体やコンデンサの劣化が原因であることがほとんどだ。後輩が利用しているディスプレイもそろそろ廃棄の時期が来ているのだろう。できるだけ早く交換を考えるから、もうしばらくラップ音に付き合ってもらおう。事の真相を伝えたときの後輩は、安心するやら恥ずかしいやらでテンションをあげてごまかしていた――。


イラスト:本橋ゆうこ イラスト:本橋ゆうこ

 そういえば、わたしが個人的に手に入れた最初のPC用ディスプレイもブラウン管だ(当たり前か、10年以上も前の事だもの)。PCの業界で仕事をしようと勉強を始めたのはWindows95が発売になったころのこと。当時みんなの憧れだったナナオ製の「フレックススキャン56TS」の17インチを秋葉原で購入したのが最初だった(後から、みんなの憧れと知ったのだけれど。他にも三菱とか飯山(現iiyama)とかのディスプレイが憧れだったなあ)。PCについて何も知らない私は詳しい友人に教えてもらいながら、いわれるままに手に入れたものだった。

 素人の私にも分かるほど、会社で見るPCの画面と、ナナオ56TSの画面の見え方は違っていた。56TSの画面はとてもキメが細かく、目に優しい雰囲気の画面で、その表示の美しさを実感するたびに「このディスプレイを買ってよかった」と、ある種の優越感に浸っていたものだった。

 そんなディスプレイの前には、冬ともなると我が家の猫が横たわっていた。確かにディスプレイの上は暖かい。猫にとってはさぞかし気持ちいい場所なんだろう。それにしても贅沢な奴め。「いくらしたんだと思ってるのよおー。値段の高い“猫ベッド”だこと!」と寝ている猫に向かってつぶやいていたことも、当時の思い出だ。ん? ウチの猫、寝てばっかりか?

 駆け出しの頃のわたしは、右も左もわからずキーボードの品質などにこだわっていなかったけれど、キーボードといいモニタといい、やはり高いものには高いなりの理由があるのだと思う今日この頃だ。

 あれから10年以上の歳月が流れ、モニタの主流は、すっかり液晶ディスプレイになった。ノートPCの画面だけでなくデスクトップPCにも液晶ディスプレイが使われるのが当たり前になっている。技術の進歩もあるのだろう。解像度も上がってブラウン管より見やすく、目に優しい画面になったのではないだろうか。しかも、携帯電話や家電製品、果てには子供のおもちゃにまで液晶がついている。でも液晶にはラップ音がするとか、聞こえてくるなとどいった話は聞いたことがないし、経験も今のところない(使用年月が短いだけで、本当はあるのかもしれないけど)。

 ただ、液晶ディスプレイは表示可能な解像度がきちんと決まっている。例えば17インチや19インチのディスプレイは 1280×1024 の解像度で使うことが前提だ。もちろん 1024×768 の解像度も映るけれど、表示を無理に拡大するのでぼんやりとした表示になってしまうことが多い。

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