世界で勝つ 強い日本企業のつくり方

アニマルスピリットで行け――元産業再生機構COOの日本再建論世界で勝つ 強い日本企業のつくり方(1/5 ページ)

産業再生機構のCOOとしてダイエーの再建などに携わり、最近では「JAL再生タスクフォース」にも加わった経営共創基盤の冨山和彦社長に、日本企業のアジア展開について聞いた。

» 2010年02月25日 08時00分 公開
[聞き手:怒賀新也, 土肥可名子,ITmedia]

 ダイエーやカネボウなどの再生を手掛け、2007年3月に役目を終え解散したのが産業再生機構だ。同機構の元代表取締役専務兼COO(最高執行責任者)、冨山和彦氏は、アジアを中心とした海外展開を仕掛ける日本企業をどのようにみているのか。最近では「JAL再生タスクフォース」をリードし、現在は事業再生を支援する経営共創基盤の社長を務める同氏に聞いた。


ITmedia 日本企業が新たな販売機会を求めて、中国などアジア諸国を中心とした海外市場に打って出ています。これについてどう見ていますか。

冨山 従来の日本企業による海外展開は国際分業のような形をとっていました。中国など、より労働コストの低い場所で生産し、国内や欧米の市場で商品を販売するものです。最近になり、生産地と販売市場が同じである「地産地消型」を志向する傾向があります。物流を考えても、生産地は消費地に近い方がいいし、為替レートのリスクもヘッジできます。ある意味で「フルグローバライゼーション」ともいえるかもしれません。

「アニマルスピリット」で努力するしかないと話す冨山氏

 国内は人口も減少していることから、需要の伸びが期待できず、ますます厳しくなるでしょう。介護などの所得再分配型の産業はパイがある間は高齢化に伴って成長しますが、再分配する原資はどこで稼いできているかというと、資源のない日本は(輸出を通じて)海外から稼ぎ出していることには変わりがありません。この構図はますます強まるでしょうから、内需か外需かというアプローチは実はナンセンスです。戦後60年を振り返っても、内需と外需は共によくなって、共に悪くなっています。外需は内需の鏡、内需は外需の鏡ですよ。

ITmedia 中国進出について、日本企業は欧米よりも有利な要素をもっていますか。

冨山 みな一緒でしょう。地理的には日本の方が近いですが、文化的には必ずしもそうとはいえない。人的交流は日中よりもむしろ中米の方が多いくらいです。中国から米国への留学生が急増しています。

ITmedia 現状、日本企業の抱えている問題点は何だと考えていますか。

冨山 日本企業の現場の強さによく焦点が当たりますが、問題は現場そのものがグローバル化する中で、日本的モデルが万国に通用するモデルなのかということです。答えはノーです。例えていえば、普遍性と固有性という縦糸と横糸を上手に絡み合わせて織物を作っていくような繊細さが必要とされます。縦糸と横糸の組み合わせやバランスを間違えると失敗するのと同じで、簡単なことではありません。価値観や経済的な目標、それらに対する指標などを作らなければいけないわけですが、やりすぎてしまうと、今度は地域の固有性が失われます。丁寧な仕分けが必要とされるのです。

 国によって法体系も違えば、文化も違う。働くことへの価値観も違いますから、一朝一夕にできることではありません。グローバル化とは「バイリンガル」だけではありません。いわば「マルチカルチュアル」です。文化の多様性を包含しながら、1つの企業としての共通の価値観を持つ。今まではどちらかというと機能的な国際化でしたが、それなら、現地に行っても租界地をつくり、閉じた世界でやっていればよかったわけです。

 しかし今は状況が違います。オープンシステムの中のグローバル化が求められているのです。いかに多様性や文化の固有性に対応しながらやっていくかが鍵を握ります。日本人はもともと多様性に慣れていないから、余計に苦労するでしょうね。

ITmedia 成功した企業やモデルケースはありますか。

冨山 まだまだこれからでしょう。どこも挑戦している途中ですから。残念ながら「魔法」はありません。失敗しながら乗り越えていくということでしょうね。これまで日本は世界第2位のGDP(国内総生産)を持っていましたから、わざわざリスクを抱えてマイナーな日本型経営を外に持って行く必要はなかったわけです。

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