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企業の仮想化最前線 普及度合いと効果は? 現場の悩みは?実践! 仮想化――ビジネスに効く、真の仮想化とは(2/3 ページ)

» 2010年07月29日 08時00分 公開
[構成:尾崎和行,ITmedia]

仮想化活用に必要なのは「仮想化脳」と「トップダウン」

日立製作所 ソフトウェア事業部クラウド・コンピューティング推進室長 稲場 淳二 日立製作所 ソフトウェア事業部クラウド・コンピューティング推進室長 稲場 淳二

宮原氏 わたしはセミナーなどで「仮想化脳」という表現を使っています。これまではハードウェアが安かったので機能とハードウェアを1対1で考えるということが多かったと思います。しかし仮想化ではリソースプールという考え方を取り入れていますので、わたしはこれを「羊羹」に例えて説明しています。羊羹を食べたい量だけ切って渡す、というイメージです。大きく切った方がいいのか、小さめに3つに分けて使うのか、こうした点は経験による部分が大きいかもしれません。そのためにはまず、物理サーバを分割して使ってみて、とにかく仮想化の運用の感覚に慣れてください、と発信しています。

稲場氏 日立の社内でもここ2、3年で仮想化が浸透した感じがします。サーバ数を把握し、コストを計算すると、実際には10分の1の台数でいいのではないか、という議論も起こります。しかし、ある機器はほかの部門の所有物で、その部門にとっては必要だということになると切り捨てられない。ボトムアップ式では各部門の都合が優先され、結果的に物理サーバがそれほど減らない可能性が高いのです。そのため、ある程度のトップダウン的な導入、つまり全体を俯瞰した統合や仮想化が重要だと思います。なぜかというと、現場のエンジニアにとって、自分たちが培ってきたノウハウや構築のナレッジが使えなくなることへの恐怖感が抵抗感となって現れているからです。

宮原氏 変化への恐れや漠然とした不安が根底にあることは感じます。性能が落ちるのではないか、障害発生時における障害箇所の特定が難しくなるのではないか、メンテナンスはどうか、といったことですね。仮想化を導入するに当たっては、目標を明確にすることが重要だと思います。分かりやすく言えばデータセンタのラックのコストとか、電気料金だとか、外側にあるコストを減らしたいといったところですね。そうした点から攻めると仮想化のメリットが伝えやすいように感じます。内側から「利用率」などをキーワードに攻めても、なかなか弱いのはそのせいかと思います。

減らすべきコストと生産性を高めるコスト

宮原氏 仮想化でコスト削減を成功させる要因として重要なのは、稲場さんがおっしゃるように「ITコストを削減せよ」というような、経営層による明確な方針の打ち出しが必要だと思います。なぜなら仮想化は手段であって目的ではないからです。

稲場氏 そのとおりですね。コストが本当はどこにかかっているか、ハードウェア費や保守費、ソフトウェアライセンス費など精密な調査は可能だとは思いますし、それらを運用するコストも算出する必要があります。

宮原氏 ITコストの削減という経営目標があれば、次に来る大項目は「ハードウェアにいくらかかっているのか」「ソフトウェアにいくら」「運用にいくら」、ほかにも「データセンタのコスト(マシンルーム代、通信料、電気代)」などです。その次に手段の選択ということで仮想化が登場します。しかし「仮想化ありき」で話が進んでしまうと、「コスト削減」というテーマと不一致が起こってしまう。ここが現場の技術者にとっては実感がわきにくいところなのだと思います。そのためにはCIO的なポジションの人物がITコストについて検討をする必要があると思います。

稲場氏 コストの中には保守などの業務を担当している社員の給与などもありますが、こうしたコストを業務内容との突き合わせをしながら見極めることも大切になってきますね。

宮原氏 社内のスタッフに払っている給与がどのくらいのパフォーマンスになっているか、これは計算しにくいですよね(笑)。

 社員が1日8時間の勤務の中で、障害対応に追われていると、それだけでコストがかかっていますので、これは「ネガティブコスト」です。障害が発生しなければそのコストは生じません。一方、ポジティブコストは、「意思決定システムを開発する」とか「流通を改善する」といった、業務をより良くしていくためのコストなので、「利益になって返ってくる投資」と言えます。その内訳が見えているか、見えていないかの違いですね。

稲場氏 ここ数年の傾向では、すぐにできるコスト削減の対象が「保守費の削減」なのです。これはサービスレベルを下げてでも費用を抑える、という考え方です。管理者も「今期の利益」に目が向きがちで、企業が本当に必要としている新しい統合基盤などを意識はしていても、手っ取り早い方法として保守費が削減されてしまうのですね。そのためわたしも「削減した額のせめて半分を『新しい投資』に回しましょう」と提案をしています。

宮原氏 コストには、抑えるべき部分と、費用対効果の高いものを産み出していくものの2種類があります。その両方をやらないと、真のコスト削減ではないと思います。つまり、コストの削減ではなく、「コストの適正化」です。コスト削減は減らす方だけの見方なので、生産するためのコストも考えることが必要だと感じます。

顧客ニーズに応える新時代の予算設計

稲場氏 適切な金額を、最適に使い分けることが必要だという考えに同感です。特にコンシューマー向けサービスを展開している顧客のターゲットの中には若年者も少なくありません。携帯電話やタブレット型端末など先進的なガジェットが登場している今、旧来の常識と物差しで考えていては、ユーザーニーズを汲み取りながら、先手を打ってサービスを展開するといったことが難しくなってしまいます。

 IT環境は変わらないものと思い込んで、コスト削減を訴えてもダメなのです。エンドユーザーより半歩でも前へ、企業は先行していなければいけない。そのためには、プラットフォームを最新にするとともに、環境の変化に柔軟に対応できるようさまざまな仮想化技術をうまく活用していくことが大切だと思います。「来期のサーバはどれだけ必要か」なんて議論をしても、6カ月後には市場がガラッと変わっている可能性もあるのですから。

宮原氏 多くの経営者や技術者が、旧態依然とした考え方から抜け出ていないと感じます。現在の年度予算の取り方では、まずハード、次にソフト、そして保守費、という積算根拠なのでこれではコスト削減にならないと感じます。

稲場氏 そうですね。SaaSに代表される従量課金の普及が何を意味しているかというと、サービス導入のハードルがどんどん低下しているということかと思います。今後はスモールスタートが一層重要になってくるのではないか、と予測していて、仮想化の導入にも同じことが言えると思います。

宮原氏 わたしも今後はスモールスタートしてからスケールアウトしていくという方法が増えていくと考えています。仮想化のメリットの1つはオンデマンドなことですから、1カ月単位のようなタイムスパンで需給をみていくことで最適化ができます。一方でハードウェアの追加には発注から納品までの時間も必要ですので、やはり四半期というタイムスパンで見ていくことが適していると思います。

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