第7回 クラウドのメリット・デメリット、経営者目線での注意点会社を強くする経営者のためのセキュリティ講座(1/2 ページ)

事業を支えるITのシステムがセキュリティ上の危険に晒されると、どのような影響があるのでしょうか。今回ははやり言葉である「クラウド」をテーマに、経営者が知っておくべき注意点をセキュリティ専門家の萩原栄幸氏が解説します。

» 2010年12月14日 08時10分 公開
[萩原栄幸,ITmedia]

あまりに流行する「クラウド」という言葉

 ここ数年、「クラウド」というキーワードがさまざまな場面に登場しています。例えば仕事のメールだけを見ても、その割合は相当なものです。私は迷惑メールを含めてすべてのメールをそのまま保存しています。その量は半年間で5〜6万通になりますが、この中で本文中に「クラウド」という単語が登場するメールがどのくらい含まれるのかを調べてみました。

  • 2008年10月〜2009年3月(6カ月)……1178通
  • 2010年10月〜11月(2カ月)……2851通

(ある程度フィルタリングしていますので受信したすべてのメールではありません)

 つまり期間を考慮するなら、2年前に比べ7倍以上に増えています。セミナーの打ち合わせなどでも、「クラウドと題しただけでセミナー参加者が増加するので何とか付けたい」というイベント営業者もいました。

「クラウド」とは何か?

 そのような状況にある「クラウド」ですが、実はほとんどの方が内容について正しく認識されていないように感じます。学会などの場でも「クラウド」に関する定義は定まっていませんし、米国流の解釈を見てもしっくり感じるものはないのが実状です。メーカーが都合のいいように解釈している風潮すらもあります。「クラウド風○○」が横行していると感じるのは私だけではないでしょう。私の講演でも「クラウド」を冠した内容が増えています。

 情報セキュリティやシステム構築などに関して顧問先の企業とクラウドの話題をする際に、「ITの仕事を地道にしてきた人間からすると、クラウドの過熱ぶりは奇異に感じる」と話す人が少なくありません。私自身はクラウドに対して、ひょっとすると今までのシステムエンジニアの考えを180度ひっくり返してしまうほど、経営的にみても魅力的なシステム形態の1つではないとか考えています。現実に会社を経営する私の友人は、「クラウド化でシステムの構築費用や運用コストを少なくとも6割はカットできたよ」と話をしていました。

 2010年7月に講師を担当したあるセミナーでは、LAC 最高執行役員の西本逸郎氏がクラウドについて「平成の黒船来たる!」と講演をされました。幕末のペリー艦隊に例えてのことです。私も今後クラウドがどういう方向で定着するのか、それとも、5年後には「そうやって騒いでいた時期もあったね」となるか、非常に関心があります。また、日本クラウドユーザー会のセミナーでは「クラウドの暗黒面」という講演を務めました。その時に気が付いたのは、「経営者の視点」で見た場合のクラウドは技術者の視点とまったく違って見えるものだということでした。

 クラウドの仕組みは簡単にイメージしやすいものでしょう。利用者が使いたいハードやソフトを、使いたい時間帯に使いたい環境で利用できるといったものです。メリットには、今まで散々苦労してきた自前でのサーバ管理やネットワークの調整など、そのような作業から解放されるということもあるでしょう。NHKの番組「ITホワイトボックス」でクラウドを解説した中では、零細企業がクラウドをうまく利用することで作業の改善率に大きく改善したことが紹介されていました。

 経営者の視点で見れば、クラウドに関係する「SaaS」や「PaaS」「IaaS」といった分類はあまり関係ありません。重要なことは、ITの選択肢が1つ増え、状況によってはそれを活用することでドラスティックにコストを下げられるという事実だけなのです。ですが、クラウドを導入する上では、技術的な視点でもどのような長所と短所があるのかを理解しておかなければなりません。

 現場の技術者があまりに多忙なため、クラウドの長所と短所についての調査ができないと、そこに付け入る自称“コンサルタント”や“専門会社”もいます。わたしが提案書を分析してみるとまったくクラウドには触れておらず、指摘すると適当な理由をつけて契約を迫るような事業者が少なからずいます。従来と異なる方法を導入するときは、きちんと検討することが非常に重要です。

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