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» 2011年01月21日 13時30分 UPDATE

リーダーシップと実現力:“あるべき論”からの卒業――企業進化の体現者に学ぶ (1/2)

変革に挑む中で理想と現実の壁にぶつかるという経験は、リーダーならだれも経験する。長い歴史を刻む企業には、その壁を乗り越えて変革を実現させたリーダーが存在し、それを後押ししてくれる文化があるという。変革と持続を手にする企業には、どのようなリーダーが存在するのか。

[國谷武史,ITmedia]

 「企業30年説」という言葉がある。日経ビジネスが1983年に唱えたもので、どんなに輝かしい企業でも、設立から30年を経ると存亡の危機に直面するという説だ。日本経済新聞社が2004年に検証した記事によれば、この説は妥当であり、自己変革を継続していくことが30年を超えても輝く企業であり続ける秘訣だと結論付けている。

 カード発行機の世界最大手企業である米Datacardの日本法人、日本データカードの取締役 常務執行役員を務める土田聡氏は、1981年に設立された同社の変革を担う立場にある。カード発行機ビジネスで成功した同社は、「企業30年説に照らせば、変革を実現しなければならない過程にある」(土田氏)という。

 近年は「おサイフケータイ」やオンラインショッピングなどの普及が進み、カードが必要される機会が少なくなった。新規にカードを発行する需要が減少すれば、当然ながら今後の成長を見込むことは難しい。だが最大手企業として果たすべき責任は大きく、ビジネスを縮小させることは容易にはできない。

文化と人に恵まれた企業

mr_tuschida.jpg バスケットボールからアマチュア無線まで「“多趣味”が趣味」と話す土田氏。最近は長年連れ添った愛犬と家族で一緒にすごす時間を大事にしているという

 2009年に日本データカードに参画した土田氏は、日本NCRの出身である。転職でキャリアを築くという傾向の強いIT業界にあって、土田氏は29年間在籍した日本NCRで「人事と総務、保守サービス以外の仕事はすべて経験した」と話すように、社内で多彩なキャリアを築いてきた経歴を持つ。

 その理由に、土田氏は企業としてのカルチャーと人間関係を挙げる。米NCRは1884年に世界で初めてキャッシュレジスターを発明し、世界中に普及させたことで有名だ。Datacardの設立は1969年だが、カード発行機を開発し、クレジットカードやキャッシュカードなど現代社会の生活に不可欠なカードのインフラを生み出した。

 「新しいものを生み出し、その付加価値を世界に広めたという点で2つの会社はとても似ている。革新や創造に挑戦するという精神が企業文化として定着しており、その文化が脈々と受け継がれてきた」(土田氏)

 2社の日本法人も同様に、設立者たちは米国で生み出された製品の付加価値を日本でいかにして広めるかという命題に挑戦し、成し遂げてきた。革新や創造への挑戦を“DNA”として受け継ぎ、さらに新しいものを生み出す。「50年先も存在する企業となるには、どれだけ革新性を持続できるかが勝負。そのチャレンジが続く日々」と土田氏は話す。

 NCRと似た経験と歴史を持つ日本データカードの変革を実現させることが、今の同氏のミッションである。

「あるべき論」に燃えた日々からの卒業

 営業職として日本NCRに入社した土田氏は、その後システム開発やプロジェクトマネジメント、セールスマネジャー、マーケティングマネジャーなどを経て、NCR本社でもマーケティングの要職を経験した。帰国後は再び日本NCRでプロダクトマネジメントの責任者を務めた。それぞれのビジネスを深く経験することはなかったというが、新しい役割を担い続ける中で、自身の理想をどう実現するかという点では豊富な経験を積み上げてきた。

 「40代までは燃えたぎるほどの情熱で“あるべき論”にこだわり、もがき続けてきた。新しい仕事をする上で、標準的な手法を学べる機会は充実していたが、それをどう実践していくかは自分自身で考えなければならず、厳しいチャレンジばかりだった」

 理想を追求するあまりに、周囲と衝突してしまう機会が幾度となく起こり、対立を物ともしないほど“あるべき論”に固執していた。だが、上司や同僚、顧客が土田氏に寄せた数々のアドバイスが転機になり、その姿勢は40代を過ぎて180度転換した。“組織は人で成り立つ”という点に帰結したという。

 「例えば30代のころは、顧客ニーズを100%満たさなければならないという信念が強くあった。しかし、限りあるリソースの中で現実にはできないこともある。まずは必要なニーズを確実に満たし、それを継続することが大事だということを、いろいろな人から学べた」

 当然ながら、単独でしゃにむに動いても、周囲の人間は協力してくれないものだと土田氏は語る。目標を実現していくには、各人が自分の役割を認識し、コミュニケーションを密にしながら、自分自身で仕事の難度を高めていくことが大事だという。そのような環境にしていくことが、土田氏の考えるリーダーの役割だ。

 グローバル企業においては、国内だけでなく、本社や他の地域と歩調を合わせながらビジネスを展開することが大前提になる。国籍や文化、個性が異なるさまざまな人間がかかわる環境では、日本人同士である以上に、メンバー間の足並みをそろえるようにする取り組みは難しい。「幸いにも日本NCRや当社では、先人の努力で日本とグローバルとの間に密な関係が築かれてきた。意思決定や創造性などの面で難しい調整を必要とする機会もあるが、各人が抱える理想を尊重しながら、全体をまとめていく土壌がある」

 周囲をいかにして束ね、組織として目標を実現していくか――50代になった土田氏は、日本NCRでの29年におよぶ経験から体得したリーダーの術を、今度は日本データカードの変革で発揮する道を選択する。「70歳まで仕事をしたいと考えていた。日本NCRに残る選択もあったが、外部でチャレンジしたいと理屈抜きで決心した」と語る。今のミッションを全身全霊で成し遂げたいというのが同氏の思いであるようだ。

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