リアルタイムウェブという必然ITmedia エンタープライズ書評

「ITmedia エンタープライズ書評」第10回。今回は『リアルタイムウェブ-「なう」の時代(マイコミ新書)』をご紹介します。なお、本記事でご紹介する書籍は、抽選で2名の方にプレゼントさせていただきます。詳しくは記事下の応募欄をご覧ください。

» 2011年03月09日 11時05分 公開
[伊藤海彦ITmedia]
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可視化されていく時間

 人は時間を時計だけで知るわけではない。徹夜で原稿を書いて、いつのまにか朝が来たことを知るのは、窓の外がうっすら明るくなっていることに気付くからだ。読書に夢中になり、いつのまにかずいぶん時間が経ってしまったと思うのは、にぎやかだった外の喧騒がすっかり止んでしまったからだ。それはウェブにおいても変わらない。何気なくツイッターを開くと、ばずったーのHOTワードに「おはよう」が並んでいる。たとえタイムラインの全員が昼夜逆転生活を送っていたとしても、世界は朝を迎えたことが分かる。逆に深夜4時くらいにツイッターを開くと、何度更新しても、ほとんどタイムラインに変化がない。まるで世界が止まったかのように感じる。リアルの世界では、音や気温など目に見えない変化で時間を感じることがあるのに対し、ウェブ上の時間の変化は徹底的に可視化されている。そしてそんな世界が現れたのは、ごく最近の話だ。

リアルタイムウェブを生む3つの要素

 ウェブと時間の新しい関係を描いたのが、『リアルタイムウェブ―「なう」の時代(マイコミ新書)』である。人々がいま何をしているかという情報、いわゆる「なう」が大量のデータとして集まっていくことを著者の小林啓倫氏は「リアルタイム化」と呼ぶ。リアルタイム化は表面的にはツイッターなどのソーシャルメディアの普及によるところが大きいのだが、小林氏はさらにそれらを説明する要素として「ウェブ技術の進化」「モバイル技術の進化」「社会環境の変化」の3つを挙げている。ユーザーに対してサービス側から情報を通知するプッシュ技術が発達し、さらにモバイル端末が高性能化、普及することで、人々は自分の「いま」を簡単に発信できるようになり、他人の「いま」を簡単に把握できるようになった。これらはウェブサービスを用いてやりとりされるため、端末の別を問わない。さらに情報のスピード感の変化や、プライバシーの意識の変化によって、「いま」をウェブに発信することの意識的な壁は低くなった。

「なう」が時間認識を変える

 上述のように、ウェブを通じた情報受発信のリアルタイム化は、時間の流れを可視化させることでもある。このことは既存のウェブサービスやメディアにも大きな影響を与えている。リアルタイムウェブにおいて、検索は知りたいことに最もマッチする情報を返すツールではない。「いま」みんなが何を考えて何をしているのかを知るためのツールである。またテレビもリアルタイムウェブとの相性がよい。グーグルの「リアルタイム検索」でいま自分が見ているテレビの番組名や出演者の名前を検索すると、同じ番組を見ている人のつぶやきが次々と表示される。サッカー日本代表の試合が放映されていれば、選手がゴールを決めた時、タイムラインは歓喜のつぶやきで埋まる。誰かが/みんなが同じ光景を見ている。それを知ることで、同じ時間を共有していることを確認できる。大量の「なう」が1カ所に集中することで、私たちは「人」を単位にして時間を認識するようになったといえる。「なう」は人間の時間認識の方法を変えつつある。

リアルタイムウェブという必然

 小林氏が挙げたリアルタイム化を説明する3つの要素のうち、「社会環境の変化」は特に重要だ。社会環境の変化はリアルタイム化を促進させる。と同時にリアルタイム化の促進は人々の意識を変化させ、社会環境を変化させる。つまりリアルタイム化はフィードバックを繰り返しながら、急激に加速していく。いまのところ、リアルタイム化の中核を担っているツールはツイッターだが、今後急速に他のサービスやウェブ以外の領域でもこうした状況は生まれていくだろう。それはリアルタイムウェブの持つ必然的な性質であり、また社会の変化の必然でもあるのだ。

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