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» 2011年03月09日 18時00分 UPDATE

クラウドネットワークシンポジウム2011:日本のクラウド戦略とは?――高信頼・省電力そしてインタークラウド

「クラウドネットワークシンポジウム2011」が開催された。クラウドサービスを支える技術研究開発が総務省から企業、大学に委託されており、その成果発表が行われたとともに、これからの日本のクラウド戦略について活発な意見が出された。

[大西高弘,ITmedia]

世界でも重要なポジションに立ちたい

 3月7日、品川において「クラウドネットワークシンポジウム2011」が開催された。当日の天気はあいにくの雨模様だったが、会場は開始早々から満席となった。当日は各委託機関の成果の展示もされており、そちらも参加者の多くが説明を聞き入っていた。まさにクラウドに対する関心は今ピークを迎えているようだ。そしてこの熱気はしばらく冷めることはないだろう。

 開会のあいさつに立った総務省 総合通信基盤局長の桜井俊氏の言葉がまさに今の日本の現状を示している。

 「ICT分野においてクラウドサービスは大きなトレンドとなっています。日本としてもクラウドサービスにおいて世界でも重要なポジションに立たなくてはなりません。そういう意味で、技術研究開発をお願いした皆さまへの期待は大変高いものとなっています。医療、交通、教育など重要なインフラを今後支えていくものとしてクラウドサービスの信頼性、省電力性を高め、その成果を世界に問うていきたい」

 この技術研究開発委託は2010年度、2011年度、2012年度と3年連続で続けられるプロジェクトで、厳しい予算折衝が行われている中、大きな期待をかけられたものだ。

 技術研究開発のテーマは「クラウドサービスを支える高信頼・省電力ネットワーク制御技術の研究開発」というもの。社会インフラに十分に利用できる信頼性の高いクラウドサービス基盤を省電力というテーマとセットで研究せよ、というものだ。信頼性向上と省電力はトレードオフの関係かとも思うが、そこをどこまで追求できたのかがポイントとなる。

オープンソースとAPIが鍵に

米国Cloud.com CEOのSheng Liang氏 米国Cloud.com CEOのSheng Liang氏

 成果発表の前に招待講演者として登壇したのは、米国Cloud.com CEOのSheng Liang氏だ。氏は米Sun Microsystems時代、仮想化技術の専門家としてオリジナルJavaVMの開発チームをリードした実力者である。Cloud.comはCloudStackというソリューションで有名だ。これはマルチテナント型のIaaSとでもいうべきもので、プライベートクラウドとパブリッククラウドをシームレスに統合するソリューションだ。例えば、CloudStackを使えば、Amazon Web Services、VMwareの「vCloud」などのクラウドフレームワークをサポートし、統合運用ができるようになる。

 『クラウドコンピューティングはいかにして企業のIT基盤となるか』と題された講演でSheng Liang氏はCloudStackのような製品がその具体的な回答となり得ると語る。さまざまな仮想環境を統合運用して自動的に管理することでユーザーの利便性を高める、そしてそれこそが既存のオンプレミスのシステム基盤、プライベートクラウド、パブリッククラウドの3つを効率的に利活用したいという企業ユーザーのハイレベルな要求に応えるものだということなのだろう。

 鍵を握るのは、各仮想環境、各クラウド環境をつなぐAPIだ。Sheng Liang氏はそのサービスがクラウドであるか、そうでないかを見極めるポイントの1つとして「APIによるアクセスがあるか、どうか」ということを上げる。もはや単一の仮想環境がバラバラに稼働しているのではなく、複数の環境がAPIでシームレスに連携する姿こそがクラウドであり、さらにそれらのクラウド同士が容易に連携しなくては本来の要件を満たさないということだろう。そして同じAPIを使う、あるいは、別種のAPIを統合して管理運用することによって、ユーザーは無駄なアプリケーション開発から解放され、開発スピードが早くなることで、アプリケーションのチューニングに力を入れるようになる、というのがSheng Liang氏の意見だ。

 またSheng Liang氏によればAPIはオープンソースで作られるべきであり、標準化を目指すべきだとする。そうすることでユーザーはさらにシステムの利活用において大きな利便性を獲得するのだという。

サーバとネットワークを一体で負荷分散

 高品質と省電力は両立しないはずだが、バランスよく両立させるクラウドサービスはどうすれば実現できるか。

NTT サイバースペース研究所 所長 後藤厚宏氏 NTT サイバースペース研究所 所長 後藤厚宏氏

 この問題について、高品質化という側面から研究成果を発表したのは、NTT サイバースペース研究所 所長の後藤厚宏氏だ。求められているシステムの前提として後藤氏は次のように語る。

 「高品質といっても『可用性99.99%』であればいいということではない。社会インフラに活用できるクラウドサービスというものは、基本的に複数のクラウドサービスをうまく連携させることになると思う。それを前提にして考えれば可用性の数字だけでなく、セキュリテイ、システム監査、システムレスポンスなどさまざまな観点から品質をチェックしていく必要がある」

 後藤氏によると、全体の概要としては、次の4点が挙げられるという。

  • クラウド上のアプリケーションを分析し、品質要件を満たすクラウドリソースを算出する「クラウドリソース要件解析技術」
  • クラウド間でサーバ、ネットワーク等のリソースを融通して品質要件を満たす「クラウド間リソース融通技術」
  • クラウドシステムと連携してネットワーク資源を自律的に最適化する制御機構と、効率的な再構成が可能なネットワークノードの実現を目指す「自律最適化/ノード再構成技術」
  • 高応答が可能な高信頼リアルタイム分散処理向けインテリジェントノードを実現する「リアルタイム分散処理技術」

 後藤氏によると、2010年度での成果として、「クラウドリソース要件解析技術」において、さまざまなシステムにかかる負荷によってアプリケーションがどういう動きをするのかを測定する「Pantau」というツールを開発したこと、そして異なるクラウド事業者間での連携を実現させたことなどが上げられるという。そのほか、ネットワーク自律最適制御技術やリアルタイム分散処理の分野でも多くの成果を上げている。

 後藤氏は高信頼性を獲得していくには、サーバとネットワーク双方を連携させ、その上で負荷を同時に分散させるという発想が必要だと話す。

 「サーバは負荷分散させていても、ネットワーク側の例えばルータで過負荷状態になれば、システム全体が止まってしまう。そうしたことを避ける技術が今後必要になる」

 後藤氏は今後はクラウド連携の技術を標準化させるためのアピールをしていくことと、ここまで開発した要素技術を実際のクラウドシステムに当てはめ、実証実験をしていきたいとした。

徹底したモニタリングが省電力の近道

日立製作所のネットワークソリューション事業部 主幹 高瀬晶彦氏 日立製作所のネットワークソリューション事業部 主幹 高瀬晶彦氏

 一方、省電力の分野では、日立製作所のネットワークソリューション事業部 主幹 高瀬晶彦氏が登壇した。

 高瀬氏は、これまでクラウドシステムの省電力はデータセンターやネットワークでの物理的な機器、ファシリティ、半導体技術、光ネットワーク技術などサブシステムごとの効率化によって実現されてきたと話し、データセンターと広域ネットワークを連携させた省電力化が重要になるとした。

 「データセンターと広域ネットワークの連携によって省電力を図るには、稼働状況に応じたシステムのダイナミックな再構成が必要です。具体的にはデータセンター間のVM移動による集約、トラフィック変動やVM移動に適応したネットワーク上のルート集約です。こうしたことを大胆に行うには、当然システム制御のコストも勘案しておかなくてはならないでしょう。しかしこれによって、これまで実現できなかった省電力が実現できます」(高瀬氏)

 高瀬氏によれば、クラウドサービス全体のビューを把握し、システム制御技術を高度化することで大きな成果が得られるという。そこで研究陣は、まずクラウドネットワークを「メトロネットワーク」と「アクセス+データセンター」の2つに分けて考えることにした。「メトロネットワーク」はコアネットワークとも言えるもので、多様なトラフィックが重ね合わさるノードが多数存在する。「アクセス+データセンター」はアプリケーションや利用形態に依存する部分だ。つまり「メトロネットワーク」でのデータ量は多様なトラフィックが集積するが、全体のトラフィック量はそれほど大きく変動しない。一方で「アクセス+データセンター」では、トラフィック量が時間とともに大きく変動する。これらのそれぞれに対して、リソース管理を行うことで効率的なネットワーク制御が可能になるという発想だ。

 2010年度においては、ネットワーク設計やネットワーク運用技術を駆使することで合計約40%程度の省電力を実証したという。

 高瀬氏は「メトロネットワーク」「アクセス+データセンター」というように別のトラフィック特性を持った分野ごとに徹底したデータフローのモニタリングをすることで省電力の幅は大きく広がってくるはずだとする。今後は多様なユースケースの適用を観察し、事業者の協力を受けながら実証実験を進めていきたいとのことだ。

インタークラウドが秘める可能性

 ここまでの成果発表のベースにあるのは、クラウド間連携、インタークラウドという考え方だ。大胆かつ繊細な手法を織り交ぜながら、高信頼と省電力を両立させる技術は単一のクラウドシステムではなく、雲と雲がつながりあい、大きな利便性を素早く実現するために使われるべきものだ。

慶應義塾大学教授 青山友紀氏 慶應義塾大学教授 青山友紀氏

 次に登壇したグローバルクラウド基盤連携技術フォーラム(GICTF)会長で慶應義塾大学教授の青山友紀氏は、まさにインタークラウドの先導者として内外で活躍している。

 「クラウドという分野は、技術の標準化がほとんどなされていない状態になっています。しかし、ITU-TやIEEEを始め多くの団体、企業がクラウド技術の標準化を進めようとしています。GICTFは国内では先ごろ発足したジャパン・クラウド・コンソーシアムとも連携し標準化の動きを活発にしていきたいと考えています」と語る青山氏だが、標準化の動きとインタークラウドは対になっていると話す。

 「APIの標準化などは、まさにクラウド間連携の肝となる技術です。日本のクラウドは社会インフラを担うシステムサービスであることを前提にしていますから、できるだけフリーな形で特定のベンダーの意向に左右されない技術で構築されていくべきなのです」

 また、青山氏もインタークラウドは今後さらに多様な実証実験を重ねていくことが大切だとする。その際により重要になってくる技術がネットワークの仮想化だという。

 「インタークラウドは、今後ネットワークの仮想化の進展とともに、よりユーザーにとって使い勝手のよいものに変化していく可能性を持っています。インタークラウド内で、複数種類のサービスを利用するとき、それぞれのサービスの中から必要なものだけを自由に選んで使うということがこれまで以上に容易になるのです」

消えないガラパゴスの恐怖

パネルディスカッション『日本のクラウドをガラパゴスにさせないために』 パネルディスカッション『日本のクラウドをガラパゴスにさせないために』

 シンポジウムの最後は、パネルディスカッション『日本のクラウドをガラパゴスにさせないために』。高信頼と省電力の両立を目指していたら、いつのまにか、世界から取り残されるサービスになってしまう心配はないのか、という話とも受け取れる。なかなかスリリングなテーマだ。

 しかし、パネリストとして登壇したインターネットイニシアティブ サービス本部 プラットフォームサービス部 部長の立久井正和氏はいきなりこう切り出した。

 「外来種からの攻撃がないだけガラパゴスは、ある意味、うらやましい。こちらは毎日、アマゾンをはじめとする海外のクラウド事業者と競争していますよ」

 NTTコミュニケーションズ ITマネジメントサービス事業部 サーバマネジメントサービス部 担当部長の栗原秀樹氏も次のように話す。

 「日本のお客さまがどんどん海外に出ていく中で、われわれもどうお役に立てるのかという観点から海外にクラウドサービスを構築している。その上で日本や海外の事業者と競争しています。とてもガラパゴス状態ではいられない」

 クラウドビジネスの最前線で戦う2人の意見はもっともだが、一方で、米国の事業者がクラウドサービス市場のシェアの大半を握っているのも事実。「日本独自のクラウドを模索する」という大義名分がいつのまにか世界標準からずれてしまう懸念はなかなか消えない。

 米国のクラウドサービスを日本の事業者に紹介するなど、最先端のクラウド事情に詳しい、竹中パートナーズ 副社長の鈴木逸平氏は、技術の注力の仕方に日本の飛躍のヒントがあるのではないかと語る。

 「いまさら、新しいハイパーバイザーを開発しようとするベンダーはいないでしょう。そこの分野はプレーヤーが出そろっているからです。しかし、VMwareとCitrix XenServerの両方を管理しているユーザー向けにそれらを統括して管理できるソリューションはまだまだ開発の余地がある。クラウドサービスも同じではないのでしょうか。既存の仕組みに上からかぶせるように統合するソリューションがどんどん出てくると思います」

 クラウドの発展によって、ユーザーが大きなパワーを持ち始めたと鈴木氏は指摘する。インタークラウドが進展すれば、より複雑なシステムもユーザーが短時間で構築してしまうかもしれない。そうした状況の中でも独自性を保ちながら、クラウドビジネスの中でそれなりのポジションを獲得するのは並大抵のことではない。しかし、見方を変えればそれは挑戦するに値する目標ともいえるだろう。そのことは、ディスカッションでも論じられた。ユーザー企業として登壇した楽天の技術理事 吉岡弘隆氏は「もう少し自信をもってもいいのではないか。これだけの技術と能力、そしてリテラシーを持った人たちが豊富にいる国はなかなかないですよ」と話す。

 クラウドサービスにおける高信頼と省電力という課題、そしてインタークラウドの実現は未開の分野といえるだろう。それにユーザーの利便性をいかに支えるかということを常に意識し続けることが加われば、ガラパゴス化の心配など後々、笑い話になるのではないか。

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