行政は「ITカルテル」から脱却すべき――米連邦政府のCIODreamforce 2011 Report

行政の無駄なITを省くには、既存のITカルテルから脱却しクラウド化を進める必要があるという。

» 2011年09月02日 12時00分 公開
[石森将文,ITmedia]

 米サンフランシスコで開催中の米salesforce.comの年次カンファレンスDreamforce 2011では、各国で電子行政を主導するキーマンが集うパネルディスカッションが企画された。日本からは原口一博 衆議院総務委員長が参加する予定だったが、民主党代表選に伴う政治的事情によりキャンセルされ、オバマ政権で連邦政府のCIOを務めたヴィヴェック・クンダラ氏と、欧州委員会のデジタルアジェンダ担当委員、ニーリー・クロエス氏が登壇した。

真ん中向かって左がクロエス氏、右がクンダラ氏

 オバマ政権下で「クラウドファースト」のイニシアチブを主導したクンダラ氏は「行政のITには膨大な非効率がある」と指摘する。その要因を同氏は「革新的でないITシステムが、単に行政の調達モデルに合致しているという理由だけで落札されてしまう」と話す。例えば国防総省では、人事システムの刷新に6.5億ドルも拠出したのに「10年かけて何もできなかった」(クンダラ氏)という。「行政は、古いITカルテルから脱却しなければならない。革新的か否かでシステムを判断し、生み出した成果を市民に還元するために」

 現在、米連邦政府が運営するデータセンターは2000以上。1998年には400件だったものが5倍に膨れ上がり、同氏によるとインフラの管理だけに年間240億ドル以上を要するという。そのほとんどが、重複したIT投資(行政の縦割り構造により同種のシステムを複数調達してしまう)によるものだといい、「既にあるものをまた買うというのは明らかに間違った投資」とクンダラ氏は指摘する。

 この病状を治癒できる唯一の方法が、クラウドだという。例えば同氏は、政府のメールシステムをクラウドのものにしただけで4200万ドルを削減できたとする。先ほど述べた、データセンター管理に要する240億ドルも、クラウド化することで50億ドルは削減できると見込んでいる。

 「ただでさえ行政のIT予算は削減のプレッシャーを受けているのだから、システムのクラウド化は大原則だ。クラウドについて“セキュリティは大丈夫なのか”“データの信頼性を担保できるのか”という圧力もあるが、現在政府は4700以上のシステムを外注していて、外注先がまた孫請けに発注している現状がある。いくら契約書で縛ったところで行政情報の拡散は避けられない」とクンダラ氏は指摘する。「クラウドのセキュリティだけ目の敵にするのはナンセンスだ」

 それに対しクロエス氏は「人権と意思の自由は民主主義の核だ」とクギを刺す。「これをITに置き換えれば、セキュリティとデータの信頼性だ。トラステッドでないクラウドは行政では使えない」

 クラウドがセキュアであることを重視するクロエス氏は「置いたデータが信頼できるというだけでなく、データを置いた場所を運営する団体が信頼できるものでないと不十分」と見解を示す。2011年のエジプト騒乱において当時のムバラク政権がネットワークを遮断する措置を取ったことについて、「行政や権力者は往々にして、対処に困ると通信を遮断したり制限したりすることがある。こうなると市民との信頼関係は完全に失われることを知るべきだ」と指摘した。

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