最新調査にみる中小企業のIT事情Weekly Memo

中小企業のIT事情に関して、矢野経済研究所とシマンテックがこのほど相次いで最新の調査結果を発表した。そこから見えてくるものは——。

» 2011年12月05日 08時00分 公開
[松岡功,ITmedia]

注目度高まるクラウドとスマートフォン活用

 クラウド、スマートフォン、サイバー攻撃……このところ本コラムでもこうした新しいITトレンドを話題に取り上げることが多くなった。では、そうした新しいトレンドは、中小企業のIT化の動きにどのような影響を及ぼしているのか。最新の調査結果を基に考察してみたい。

 まず、矢野経済研究所が12月2日に発表した「中小企業のIT化市場に関する調査結果」を見てみよう。この調査は2011年9月から11月にかけて、中小企業のIT化について実績がある全国のソリューションベンダーを対象に実施し、13社への直接面談と100社への電話によるアンケート結果をまとめたものだ。

 それによると、中小企業向けにクラウドソリューションを適用することの有効性については、87%が「有効である」、8%が「今後は有効である」と答え、合わせて95%のベンダーが有効性を認めている結果となった。

 これを受けて同社では、「ベンダー各社は長期のトレンドとして、いずれクラウドへの対応が避けられないという見方で一致しており、今後どのような形でクラウドに事業を移行していくのかを検討すべき段階に来ている」と分析している。

 また、スマートフォンを活用したソリューションに対する中小企業からの需要については、76%が「需要がある」と回答。同社によると今回、ERPなど基幹システムやコラボレーションツールへの需要についても同様の調査を実施したが、「需要がある」との回答はスマートフォンがおよそ1割上回る結果となり、注目度の高さがうかがえるとしている。

 こうした結果を受け、同社では中小企業のIT化市場における今後の展望として、「中小企業のIT化における最も重要なポイントは、オーナー経営の割合が高いため、経営者もしくは経営に直結したニーズが把握しやすい、あるいは実現しやすいという点だ。人材の確保やコスト負担といった課題はあるが、クラウドサービスなどの新しいソリューションが普及し始めており、ベンダー各社は一層、経営者目線に立ったソリューション提案が求められるようになる」としている。

中小企業もサイバー攻撃の標的に

 一方、シマンテックが11月17日に発表したのは、「サイバー攻撃に対する中小企業の意識調査結果」である。この調査は2011年9月に、日本を含む世界各国の中小企業(従業員数5〜499人)1900社を対象として、各企業のIT責任者に電話でサイバー攻撃に関する質問を行ったものだ。

 それによると、まずサイバー攻撃に対するセキュリティ上の脅威については、過半数の企業が自社のビジネスに悪影響を及ぼすと回答。マルウェアだけでなく、特定の重要情報を狙い撃ちする標的型攻撃に対する認識率も高いことが分かった。

 ところがその一方で、半数の企業が「自社の事業規模からみてサイバー攻撃の標的になるとは考えていない」と回答。例えば、「社内のすべてのパソコンにウイルス対策を施している」と答えた企業は39%にとどまるなどの実態が明らかになった。

 こうした中小企業の受け止め方に対し、同社はセキュリティSaaSである「Symantec.cloud」での検知実績から、「2010年初頭以降に確認された標的型攻撃の40%が、従業員数500人未満の企業を対象にしている」と、中小企業が標的にならないというのは事実誤認だと警鐘を鳴らしている。

 会見に臨む米SymantecのSymantec.cloud担当シニアアナリスト、マーティン・リー氏 会見に臨む米SymantecのSymantec.cloud担当シニアアナリスト、マーティン・リー氏

 この調査結果が発表された後、「日本における標的型攻撃の現状」について11月29日に来日会見して語った米SymantecのSymantec.cloud担当シニアアナリスト、マーティン・リー氏は、こう注意喚起を強く促した。

 「標的型攻撃は企業規模に関係なく、革新的な知的財産を持っていれば狙われる傾向にある。むしろ、中小企業は社内にセキュリティ担当者がいないケースが多いので、攻撃者の格好のターゲットになっている」

 上記の調査結果を踏まえ、シマンテックでは中小企業がサイバー攻撃に備えて実施できる対策として、「セキュリティのガイドラインを作成して従業員への教育を行う」、「セキュリティ上のリスクおよび欠落を把握し、情報を保護するための対策を講じる」、「セキュリティ対策の計画を策定する」といった点を挙げている。

 最後に、今回の話の流れで、あるIT企業の経営者が自戒を込めて語っていた言葉を紹介しておきたい。

 「最近、IT企業の営業マンが、ITの新しい動向とそのメリットをきちんと顧客に説明できているかといえば、非常に心もとない。これでは顧客の興味を引けるわけがない」

 この言葉は、その経営者へのインタビュー時に、まさしくクラウドやスマートフォン、サイバー攻撃などの新しいITトレンドを話題にしている中で出たものだ。それは中小企業向けビジネスも全く同じである。

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