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» 2011年12月10日 08時00分 UPDATE

萩原栄幸が斬る! IT時事刻々:安直なBCPにもの申す! 「だからいったじゃないですか、無理ですって……」 (1/2)

東日本大震災をきっかけに、あちらこちらでBCP(事業継続計画)の重要性が語られるようなったが、筆者は「今すぐのBCPは不要」と考える。BCPを急ぐことは大いに問題があるからだ。

[萩原栄幸,ITmedia]

 今回は専門家の立場からお伝えしたいことの第二弾として、BCP(事業継続計画)を取り上げたい。

「東日本大震災」のその後から

 さまざまな専門家(一部は専門家とは呼べない方もいる)が、一斉に「BCPを構築しよう」「こうすればBCPが効率よくできる」「BCPのない企業はだめだ」という感じでBCPの必要性を呼び掛けるようになった。筆者は、銀行員時代に仕事を通じてBCPやBCM(事業継続管理)を学び、コンティンジェンシープラン(緊急時対応計画)も何度となく作成したものである。ただし、10年以上も前の話ではあるが。

 筆者のコンサルタントの仕事の中でBCPの相談を受けることがある。震災前は年に1、2件ほどだったが、震災後は大いに増えた。しかし、過去の経験からは筆者だけは、異端児のように「今はBCPを考えるべきではない」と提唱してきた。震災から1カ月後には世の中が「BCPを作ろう」という意見で占められるようになったが、筆者はそれに抗い、「緊急対応をスムーズにする『コンティンジェンシープラン』を作成しよう」という記事をITmediaに投稿した。

 案の定、掲載後から非難が相次いだ。「こういう災害を経験しながらBCPを考えなくてもいいとは専門家ではない」「ふざけすぎだ。受け狙いにしてもあまりにも無責任だ!」などとなど。しかし、筆者の主張とは正反対にそうした風潮に流されBCPのプロジェクトチームが多数の企業で立ち上げられたようだ。筆者は無力さを感じたものである。

 筆者は、特に地方自治体でなぜBCPの推進が進んでいないのか良く知っている。統計からみても、震災前は9割以上の地方自治体がBCPを構築していなかったのである。BCPの推進に極めて積極的な中小企業庁の定義ではBCPがこう解説されている。

BCP(事業継続計画)とは、企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画のことです。


 BCPを本当に実効力のある資料として作成しようとするなら、とても片手間では作れないし、作れるはずがない。「うちは安価にBCPを策定した」という企業がよく登場するが、そうしたBCPを見てみると、現場視点ではなく、経営者視点だったり、明らかに外部の業者に丸投げ発注した「形」だけの資料となってしまったりするのが分かる。

 企業を取り巻く環境は地域性だけではない、標高、周辺の街並み、警察署、消防署、発電設備、港湾施設やコンビナート、工場、道路付、幹線道路、高速道路、鉄道、学校、病院、商店街、老人ホームなどの位置を把握し、企業が継続するための必要な「人」「物」「金」の調達をはじめ、「物流」「通信」「インフラ(上下水道、ガス、電気、電源)」とその他あらゆるものを想定した「平時」の活動内容の見直しが必要である。そして、緊急時(インフルエンザなどのパンデミックから放射線対応まで)の対応など幅広い検討を自社だけでなく取引先や警察、消防、病院にいたるまで、想定される緊急時の必要項目のさまざまな切り口から計画していく必要があるのだ。

ある会社にて

 安直なBCP構築ムードに踊らされたある中堅企業が、BCPの対策プロジェクトを立ち上げた。その1カ月後、筆者はその会社に偶然に面談することになった。面談内容の範囲ではなかったが、心配なのでBCPの取り組み状況を聞いてみたら、案の定、苦しんでいるメンバーがいた。なんと旧友だった。

 そもそも風呂敷をどのくらい広げるべきかで悩んでいたようで、さまざまな接点を持つ関係者と打ち合わせを行い、そのたびに次々と対象範囲を広げてしまっていたようだった。初心者が陥りやすい状況である。会社の担当者がそばにいたので少しだけ話ができたものの、筆者からアドバイスできる状況ではなかった。

 その後しばらくして、メンバーの旧友からこう聞かされた。

 「プロジェクトは取りあえず緊急時の連絡網を作成し、会社の棚に突っ張り棒を設置しました。備品に簡易トイレと5年保存が可能な水を買い足して解散しました」

 筆者が「BCP策定運用ガイドとか、その他の資料はどうした?」と聞くと、彼は「最初の2カ月ほどは各人で作業分担して手広く作っていました。しかし、外部の方との話から大きな温度差が生じ、社内だけでも関係部署がたくさんあって、その調整だけでもとても難しい状況となってしまいました。それなのに社外との調整事項にいたっては……。想像がつきますよね、その通りになってしまい、空中分解したというわけです」と。

 筆者は最後に「だからあの時に言ったじゃないですか。無理だって! 旧友だったあなただからこそ周囲に気づかれないように話したのに。まあ、これで経営者もBCPの困難さが分かっただけでも、まだ良かったかもしれない。ごまかすつもりなら、こういうものはいかようにでもごまかしがきくものだからね」と伝えた。

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