富士通が説くSIにおける人材革新のツボWeekly Memo

クラウド時代を迎えて従来のSI事業の先細りが確実視される中、SIを担ってきたSEはどうなるのか。同事業で国内最大手の富士通が先週、見解を示した。

» 2012年01月23日 07時53分 公開
[松岡功,ITmedia]

スキルからロールへのシフトを実施

 「2015年ぐらいには、これまでITシステムを自社運用していた顧客企業の3割ほどが、システムを所有せずにクラウドサービスを活用するようになると見ている。(中略)顧客から個別にシステム構築を請け負うSI(システムインテグレーション)事業は、将来的に現状の半分くらいになるだろう」

 こう語るのは富士通の山本正已社長だ。日経ビジネス(2012年1月16日号)のインタビューに答えたもので、今後SIの代わりに市場規模の拡大が見込まれるクラウドサービス事業に力を入れると強調している。

 では、従来のSI事業の先細りが確実視される中、SIを担ってきたSE(システムエンジニア)はどうなるのか。クラウド時代を本格的に迎えた今、この問題がシステムインテグレーター(以下、SIer)に重くのしかかっている。

 これに対し、国内最大手のSIerでもある富士通が1月18日に開いたSI事業に関する会見で、人材革新への取り組みについて説明した。説明に立った同社サービステクノロジーグループ共通技術本部の柴田徹本部長は、以下の図を示しながらこう語った。

 富士通のSIにおける人材革新への取り組み(富士通の説明資料より) 富士通のSIにおける人材革新への取り組み(富士通の説明資料より)

 「これまでは、いわゆるモノづくりに焦点を当てた人材づくりを行ってきた。現在、SEが担っているスキルとしては、コンサルティングから入って、開発のためのプロジェクトマネジメント、業務アーキテクチャ、品質マネジメント、ITアーキテクチャ、プロダクトアーキテクチャ、そして運用・保守を行うサービスマネジメントがある。しかし、これからは顧客価値の実現に向けて顧客とともに考えていくという取り組みが一層求められるようになる」

 それが、図の上部に示されているところの「スキルからロールへのシフト」である。同社が新たな時代に向けて再定義したロール、すなわち「役割」に応じた職務は、「ビジネスプロデューサ」「フィールド・イノベータ」「コンサルタント」「サービスインテグレータ」の4つ。それぞれの役割について柴田氏は、顧客とのやりとりを想定してこう説明した。

 「まず、顧客の現状を把握・分析する技能を持つフィールド・イノベータが伺い、そこから出てきた課題の解決策をコンサルタントが提案し、その解決策の実現手段をサービスインテグレータが顧客とともに考えて具現化していく。ビジネスプロデューサは文字通り、案件ごとのビジネスをプロデュースする役割を担う」

 ちなみに、図には再定義された4つの職務の下に、アプリケーション保守、コンバージョン、開発、サービスマネジメントと記されているが、これらは従来のSIとともに、クラウドサービスでもカスタマイズや運用・保守を伴うものがあることを想定しての役割となる。

人材とともに求められる情報装備の支援体制

 では、「スキルからロールへのシフト」とはどういうことか。柴田氏によると、「これまでのスキルを生かしつつ、顧客価値の実現に向けて新しいロールを担ってもらおうという意味だ。つまり、新たな人材をつくっていくのではなく、これまでの人材に新たな役割を担ってもらうという考え方で対応していく」という。

 少々分かりづらい説明だが、つまりは明日からSEでなく新しい職務に就いてくれと言っているのではなく、SEのまま新しい役割を担ってもらいたい、ということか。グループ全体で約3万人のSEを抱える富士通としては、どれだけうまくシフトできるかが死活問題になるといっても過言ではないだけに、SEの心情やモチベーションに配慮した面もあるようだ。

 ただ、柴田氏の説明はこの後がまさしく核心だ。

 「新しい時代といっても、技術的な面では従来の延長線上のものも少なくない。だが、これから最も求められるのは、サービスやそれを支える技術を組み合わせていくうえでの“目利き”の力だ。新しい役割はこの力が肝になる」

 さらに柴田氏はこう続けた。

 「その目利き力は新たな役割を担う人材に頼るだけでなく、会社として個々の人材がその力を存分に発揮できるような環境や技法を整備した体制づくりも不可欠だ」

 富士通の場合、図の下部に記されている「環境・技法」の枠内が、その体制となる。柴田氏によると、例えば図の左下にある「Knowledge Base」には現在43万のナレッジコンテンツが蓄積されているという。だが、これまでは利用者が必要なときにアクセスする形だったので、必ずしも十分に生かされていなかった。今後はこれを、新たな役割を担う人材の「情報装備」としてフル活用していく構えだ。

 そして柴田氏はこう結んだ。

 「これまでのSIでは、顧客から特定のエンジニアを指名されるケースも少なくなく、属人的な評価を受けていた面もあった。これからは属人的な評価ではなく、富士通のフィールド・イノベータが来てくれた、富士通のサービスインテグレータが来てくれた、と言われるようにしたい。そのためにも新たな役割を担う人材とともに、情報装備の支援体制を一層強化していきたい」

 人材革新のツボは人だけでなく支援体制にもあり、といったところか。富士通だけでなく、すべてのSIerに当てはまることだろう。

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