今回は、富士通の黒川博昭社長が5月15日に「富士通フォーラム2008」で行った基調講演から、同氏が最重点戦略に掲げる「フィールド・イノベーション」の真髄に迫ってみたい。
フィールド・イノベーション――筆者がこの言葉を初めて聞いたのは、昨年6月に行われた富士通の経営方針説明会だった。その際、印象深かったのは、黒川氏の並々ならぬ思い入れ。社長肝いりの新戦略であることがひしひしと伝わってきた。
そして先週15日。6月で社長を退任する黒川氏が自社イベントの講演で熱弁を振るったのは、やはりフィールド・イノベーションを加速することだった。なぜ同氏はフィールド・イノベーションを懸命に説くのか。
黒川氏によると、フィールド・イノベーションとは、ビジネスや生活のあらゆる活動領域(フィールド)の構成要素である人とプロセスとITを「見える化」することによって、改善のさまざまなアイデアを引き出し、改善を続けていくことでビジネスに革新(イノベーション)を起こしていくことだ。その背景には、「ビジネスはITだけでなく、人やプロセスが一体となって支えている。したがって、ITの機能や性能だけをいくら追求しても、ビジネスの課題は解決しない」(黒川氏)という基本認識がある。
例えば、製品開発の場合。アイデアが具体化しなかったり、規格や品質基準が定まらなかったりすることが少なくないが、それらを解決するために会議のやり方を変えたり、規格や品質基準の見直しを図るのは、ITだけで賄える問題ではない。むしろITを適用する以前に、人やプロセスの問題を徹底検討して改善することが、ビジネスを良くする意味でも、必要なITを考えるうえでも重要となる。そうした課題を抱える領域に関して、まずは見えるようにすることから始めようというのが、フィールド・イノベーションのアプローチである。
こう聞くと、業務コンサルティングとどこが違うのか、という疑問がわいてくるが、ポイントはそのアプローチの仕方にあるという。従来のコンサルティングのアプローチは、あるべき姿を論じて、そこから現状とのギャップを導き、そのギャップを埋めていくという方法だが、フィールド・イノベーションではまず課題領域の人やプロセスやITを見えるようにする。「見えるようになれば、そこにもっともっと人の知恵を活かすことができる」(黒川氏)というのが同社の考え方だ。
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