アマゾン・クラウドに賭けるサーバーワークス田中克己の「ニッポンのIT企業」(1/2 ページ)

丸紅からの出向先のインターネット関連会社が清算。それを機に独立。約10年の苦節を乗り越えて大石社長がつかんだビジネスチャンスとは。

» 2012年02月15日 08時00分 公開
[田中克己(IT産業ウオッチャー),ITmedia]

 パブリッククラウドを活用して事業展開するソフト開発会社が続々と現れている。IT資源の柔軟な利用形態、開発の短期化、月額使用料などIT費用の平準化といった利点が浸透し、クラウドを活用するユーザー層が広がるとの判断からだろう。下請けの受託ソフト開発会社とは異なり、自ら顧客開拓する喜びもある。

 東京・新宿に拠点を置くサーバーワークスは「クラウドにビジネスチャンスがある」とし、2010年から米Amazonの「Amazon Web Services(AWS)」に絞り込んだシステム構築事業を本格的に展開している。従業員40人弱の同社だが、既に電通やマクニカ、丸紅従業員組合、日本赤十字社など約30社・団体に導入実績がある。黒字経営を続けているという同社の秘策を探ってみよう。

ECサービスが原点に

 サーバーワークスの大石良代表取締役は、1996年に東北大学経済学部を卒業し、丸紅に入社した。ところが、出向先のインターネット関連ビジネス子会社が清算することになったのを契機に大石氏は、「自分で事業を立ち上げよう」と決意し、2000年に資本金1000万円でサーバーワークスを設立した。

 大石氏は「楽天を倒す」という意気込みで、EC(電子商取引)のASPサービスを始めたが、「資金を集められず、人も雇えず」事業を軌道に乗せられなかった。そこで、受託ソフト開発を手掛ける一方で、開発したEC機能をパッケージに仕立て直した。当初、なかなか売れなかったが、2003年に携帯電話と連携する機能を追加したところ、オープンキャンパスを始めた大学関係者らの目に止まり、導入機運が高まってきた。

 課題があった。高校生らの携帯電話にメッセージを伝える有効手段なのだが、情報発信のピークに合わせてITインフラを用意すると膨大なコストがかかる。それを解決したのが、従量でサーバやストレージなどITインフラを使えるAWSだった。クラウドによる事業展開の可能性を確認した大石氏は2008年、社内に「サーバ購入禁止令」を発令し、AWSを徹底活用する事業へのシフトを決断する。その一方で、2008年から2009年にかけて1000万円以上の費用を使って、電話セールスを実施した。多くの中小IT企業に共通する弱点の販売力を解消するためだ。たが、散々な結果で、2年間の売り上げはわずか100万円程度だった。

 サーバーワークスはその後、クラウド関連展示会に出展するなど地道な営業活動を続けていたが、2010年後半からクラウドの特性をうまく生かしたシステム事例が目立ち始めてきた。新商品発売キャンペーンへの活用はその一つである。キャンペーンが終了したら、使ったITインフラやアプリケーションが不要になるのに、設備購入したら無駄な投資になる。新規事業の立ち上げに、IT資源をオンデマンドで使えるクラウドは適している。いつまでに、どの程度の規模に成長するのか見通しを立てられないのに、大量にサーバなどを調達したら無駄になってしまう。

 2011年3月11日の東日本大震災後、災害や障害対策にクラウドを活用するニーズも高まり、サーバーワークスのAWS活用ユーザーも今期(2012年9月期)中に80社近くに達する勢いだという。クラウド関連の売り上げ比率は、2011年度(2011年9月期)の15%程度から今期は40%程度に増加する見込みだ。売り上げ増の多くがクラウド関連になるなど、「人的リソースが足りない」(大石氏)状況でもある。そのため、2011年10月から2012年9月の1年間で11人を採用し、50人弱の体制にする。

 大石氏は「2年以内に、国内ナンバーワンのAWSリセラーを目指す」と意気込む。その強力な武器にもなるのが、AWSを日本語で運用管理できる「CloudWorks」だ。AWS活用のハードルを下げる目的で開発し、2010年に無償提供を始めたが、2011年12月にはバックアップ・リソース管理やディザスタリカバリ機能などを強化した有償版も用意した。別センターにデータをコピーする機能を盛り込めば、基幹系へと利用範囲を広げられる。2011年12月時点で、CloudWorksの利用者は約1200社になるが、大石氏は「その1割でも、当社ユーザーになってくれれば」と期待する。

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