ここまで使える! パブリッククラウド活用の最前線

写真販売ベンチャーが苦心の末に編み出した“ダブルクラウド”活用術クラウド最前線(1/2 ページ)

いまや幼稚園にもクラウド化の波が及んでいる。多くの保護者に喜ばれる「ネット写真販売サービス」の裏側には、新技術と向き合うベンチャー企業の試行錯誤の歴史があった。

» 2012年02月22日 08時00分 公開
[本宮学,ITmedia]
photo 「はいチーズ!」

 「何とかしなければ」――2010年春、ネット写真販売サービス「はいチーズ!」を手掛ける千(東京都渋谷区)は焦っていた。

 「はいチーズ!」は、プロカメラマンが撮影した子どもの写真をネットに掲載し、親がPCやモバイル端末から閲覧・購入できるようにするサービス。2006年にスタートして以来、共働きなどの事情で幼稚園・保育園を訪れにくい親や、遠隔地に住む祖父母などを中心に人気を獲得。毎年1.5〜2倍ほどのペースでユーザーを増やし、2012年2月現在までに約25万人が利用したという。

 だがサービスを拡大していく中で、常時1000万枚以上に及ぶ写真データを保管・配信するためのシステムが課題になった。システムがテラバイト級のデータ量に耐え切れず、利用していたホスティングサーバがダウンするトラブルが相次いだ。もともとネットを使わず“全て手作業”で写真販売サービスを行っていたという同社は、Webサービスの強化を図る中で経験したことのない苦境に立たされていたという。

 こうした問題を解決したのが、2つの異なるパブリッククラウドを組み合わせて構築した“ハイブリッド環境”の活用だった。システム刷新後は1度も障害が発生していないほか、サイト上の写真表示の高速化なども実現したという。足かけ1年以上に及んだ刷新プロジェクトの背景を、同社の開発部門の責任者を務める柏木大助さん(ものづくり本部チーフプログラマ)に聞いた。

5日連続でダウンしていたサーバ

 同社の社員の多くは営業部員とカメラマンだ。柏木さんによると、同社は2008年ごろまで社内に開発体制がなく、システム開発やインフラなどを全て外部のSI事業者に委託していたという。

 その後、同社は柏木さんの参画を機に徐々にシステムの内製化を進めていったものの、依然としてインフラにはホスティングサーバを使用していた。運用コストが高額な上に安定性が悪く「1カ月に1〜2回はサイトがダウンしてしまう状態が続いていた」と柏木さんは振り返る。

 当然、サイトがダウンするたびにユーザーから苦情を受けたり、幼稚園などに営業活動をしにくいという状況が続いた。こうした中「5営業日連続でサイトがダウンしたことがあり、何とかしなければいけないと思った」と柏木さん。「以前から『サーバが危ないんじゃないか』という議論は社内であったが、ようやくインフラ環境の刷新に踏み切ることを決断した」

「クラウドなら落ちない」――という“幻想”

 刷新プロジェクトを開始したのは2010年春。新たなインフラ環境は、最初からクラウドにしようと決めていた。新しい技術を好む社内文化が影響したほか、コスト面やサーバの安定稼働性などに「大した根拠もなく」(柏木さん)期待したからだ。

 クラウドサービスの選定に当たっては、複数のベンダーを比較検討した。米Amazon.comなどが提供する安価な海外産クラウドも検討したが、当時はまだAmazonクラウドの拠点が東京になかったことと「独特のインタフェースが使いづらく、学習コストがかかってしまう」ことを考慮し、国産サービスであるニフティクラウドを採用したという。

photo 柏木さん

 その後、約2カ月でインフラ環境の刷新を完了。移行した写真データは1000万枚超と、容量にして8テラバイトに及んだ。「導入後はネットワークが非常に高速になり、回線も安定した。さらにコストも4割ほど削減できた」と柏木さんは効果を語る。

 だが一方、依然として残る問題もあったという。「検討時、クラウドのサーバは“落ちない”という漠然としたイメージがあったが、実際に導入してそれが“幻想”だったと思い知らされた」(柏木さん)

 最初の障害は、データ移行に伴うリニューアルを実施したその日に起きた。クラウド上のディスクストレージが8テラバイトの写真データに耐えきれずにダウンし、サイトを利用できない状態になってしまったのである。「(初日に障害が発生したのは)偶然とはいえ、幸先が悪かった」と柏木さん。その後もストレージサービスは安定せず、同社は何度も障害に悩まされることになる。

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