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» 2012年06月25日 08時00分 UPDATE

Weekly Memo:過熱するクラウドセキュリティバトル

トレンドマイクロが先週、電子証明書ビジネスへの参入を表明したことで、クラウドセキュリティをめぐる有力ベンダー間のバトルがさらに過熱しそうだ。

[松岡功,ITmedia]

トレンドマイクロが電子証明書ビジネスへ参入

 「クラウドセキュリティにおいて、電子証明書は非常に重要なポイントになる」

 トレンドマイクロの大三川彰彦副社長は6月18日、同社が開いた記者会見でこう語って電子証明書ビジネスへの参入を発表した。

 具体的には、1社あたり年間定額の使用料金で、種類に関わらず、SSLサーバ証明書を無制限に利用できるサービス「Trend Micro SSL」を6月29日より提供開始する。世界に先駆けてまず日本市場で提供し、今年後半に北米、2013年に欧州で展開する予定だ。

会見に臨むトレンドマイクロの大三川彰彦副社長 会見に臨むトレンドマイクロの大三川彰彦副社長

 サーバへのセキュアなアクセス環境を構築するには、SSLサーバ証明書が不可欠だが、増加するサーバ単位で購入する必要がある従来のSSLサーバ証明書は、サーバを運用する企業にとってコストを圧迫する要因になりつつある。

 そこで同社では、1社あたり年間定額(想定価格40万円)で発行証明書数が無制限というコスト効率の高い柔軟性のある新サービスを用意。しかも認証業務はすべて同社が実施することで、高いレベルの信頼性を確保している。

 大三川氏は電子証明書ビジネスへ参入した背景についてこう語った。

 「当社はこれまでサーバセキュリティ市場でシェアトップを走り続けてきたが、昨年来、クラウドや仮想化環境のセキュリティでは、製品というよりもナレッジやサービスが強く求められるようになってきた。そうした中で、顧客企業からトータルサービスの一環としてSSLサーバ証明書も提供してほしいとの要望が非常に高まってきたのが、今回の参入のきっかけになった」

 その上で、同社ならでの戦略展開についてこう力を込めた。

 「そこで当社では、SSLサーバ証明書をサービス単体ではなく、サーバセキュリティからクラウドセキュリティへと品揃えを進めているトータルサービスの一環として提供する形にした。SSLサーバ証明書サービスを展開している既存のベンダーは、サービスを単体で提供しているところがほとんどで、当社とは基本的なビジネススタンスが違う。したがって、当社としては後発というよりクラウドセキュリティに向けたトータルサービスへのチャレンジだと考えている」

 大三川氏の言う通り、SSLサーバ証明書を手がけている既存のベンダーは、サービスを単体で提供しているところが多い。ただし、そこにはトレンドマイクロと同様、クラウドセキュリティに向けたトータルサービスを展開しつつある有力ベンダーが1社存在する。米国で2年前にベリサインからSSLサーバ証明書サービス事業などを買収したシマンテックである。

新サービスを次々と繰り出すシマンテック

 トレンドマイクロがそうしたシマンテックの動きを注視していないわけはないだろう。

 そんな折り、シマンテックの日本法人が6月20日、2013会計年度(2012年4月〜2013年3月)の経営戦略について記者会見を開いた。会見の内容についてはすでに詳しく報道されているので関連記事をご覧いただくとして、筆者はシマンテックのクラウドセキュリティビジネスに注目した。

 まず、シマンテック自身のクラウドサービスであるSymantec.cloudの国内利用について河村浩明社長は、「当初は中小企業が中心だったが、昨年度は状況が変わり、日本を代表する大手企業6社から受注できたことなどで、売上高が前年度比300%伸びた。中堅・中小企業に対しても大手販社4社と再販契約を結んで本格的に取り組む」と語った。

会見に臨むシマンテックの河村浩明社長 会見に臨むシマンテックの河村浩明社長

 加えてクラウドサービスでは、クラウド事業者への各種セキュリティエンジンを提供するビジネスも順調で、大手の通信事業者やISPに数多く採用されているという。

 さらに今後の取り組みとして興味深かったのは、複数のクラウドサービスをシングルサインオンで利用するためのID連携やアクセス制御、ポリシー管理、コンプライアンス管理などを行う「Symantec O3(オゾン)」や、スマートフォンやタブレット端末上のアプリケーションを管理する「Nukona」といった新たなクラウド関連サービスが今年末までに次々と登場してくることだ。

 とくにSymantec O3については、河村氏が「オゾン層は雲の上にあって地球を守る存在」と言うように、複数のクラウドサービスに覆いかぶさるイメージで、本当にそんなことができるのか、と疑いたくなるようなスケールの話である。だが、米国ではすでにサービス提供を始めているというから、日本への上陸も近いだろう。

 こうしてみると、シマンテックのクラウドセキュリティビジネスも一段と活発化しているようだ。ではそんなシマンテックは、今回のトレンドマイクロの電子証明書ビジネスへの参入をどうみているのか。河村氏に単刀直入に聞いてみた。

 「手強い競合だと思うが、すでにベリサインのサービスは確固たる実績があり、今後も電子証明書やID認証の分野ではリーダーとしての役割を果たしていく。日本ベリサインについては、米国本社が先般より同社に対するTOBを進めている最中だ。完了すれば、一層ビジネスやサービスの融合を図って、先ほど説明したSymantec O3やNukonaなどにも反映していく計画だ」

 おそらくトレンドマイクロは、こうしたシマンテックの戦略展開を把握しているのだろう。今後、トータルサービスにおいてシマンテックに対抗するためにも、クラウドセキュリティの要となる電子証明書ビジネスへの参入は必須だったと考えられる。さらに両社は、クラウドセキュリティにおけるエコシステムづくりでも激しいバトルを繰り広げている。

 筆者はかつて、『クラウド時代のセキュリティベンダーの行方』と題した本コラム(2010年1月12日掲載)で、「インフラにおいてもサービスにおいても差別化戦略が問われるクラウドビジネスでは、高度なセキュリティ対応がその大きな決め手になる。そうなると、クラウドのメジャープレーヤーは、有力なセキュリティベンダーを傘下に収めようとするだろう」と書いた。

 だが、今のトレンドマイクロとシマンテックのクラウドセキュリティへのビジネス展開ぶりをみていると、どうやら的外れかもしれない。クラウドサービスは垂直統合ビジネスとも言われるが、両社が目指しているのは水平分業の中でセキュリティベンダーとしての存在感を発揮することだ。そうした観点でも両社の今後の動きに注目しておきたい。

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