日本マイクロソフト社長が語る外資系日本法人のマネジメント松岡功のThink Management

日本マイクロソフトの樋口泰行社長が会見で、自らのマネジメントについて語った。その発言を基に、外資系日本法人のマネジメントという観点で考察してみたい。

» 2012年07月05日 08時00分 公開
[松岡功,ITmedia]

マネジメント改革の勘所は組織づくり

 「日本マイクロソフトはここ3年、連続で予算を達成することができた。2011年6月期には、全世界のMicrosoft現地法人の中でベストカントリーとして表彰された。2012年6月期の業績はまだ公表されていないが、同様に表彰されることを期待している」

 記者会見に臨む日本マイクロソフトの樋口泰行社長 記者会見に臨む日本マイクロソフトの樋口泰行社長

 日本マイクロソフトの樋口泰行社長は7月3日、同社が開いた新年度(2013年6月期)の経営方針を説明する記者会見でこう語って胸を張った。樋口氏はこの7月から社長就任5年目に入ったが、これまでの日本法人の好調な業績ぶりに一段と自信を深めているようだ。

 会見の内容はすでに報道されているので、関連記事等をご覧いただくとして、ここでは会見の中で樋口氏が語ったマネジメントの考え方や進め方に焦点を当ててみたい。同氏は社長就任5年目を迎えた抱負についてこう語った。

 「私は社長就任後、これまでたゆまぬ社内改革を実施してきた。ただ、当社はあくまでも米国に本社を持つ外資系企業の日本法人なので、グローバルで展開する事業戦略は本社の意向に沿い、連携を深めていくことが肝要だ。私のやるべきことは、本社の事業戦略をローカルにフィットした形でいかに効率的に実行していくか。そのための組織づくりが改革の勘所だ」

 「日本法人としての組織に求められるのは、本社との緊密な連携はもちろん、市場環境のダイナミックな変化への俊敏な対応、日本法人として一体感のある事業戦略の推進、そして日本の顧客やパートナーにしっかりと受け入れられて信頼されることである」

 樋口氏は、そうした組織づくりにおいて、社長就任後これまでの4年間の取り組みについても次のように説明した。

 「1年目はまず、組織改革の断行を宣言し、それまで連携がうまく取れていなかった事業部門間の壁を取り払うことから始めた。そのために組織のあり方自体を根本から見直した。2年目には、そうした組織改革を定着させるとともに、日本で事業戦略を推進するための基本動作を徹底させ、日本法人として一体感を持たせることに注力した。そして3年目には、中長期的視点での日本市場への戦略とコミットを明確にし、それを着実に実行できる組織へと変えていった」

 こうした取り組みが、3年目の2011年6月期に全世界のMicrosoft現地法人の中でベストカントリーとして表彰される形に結実したわけだ。これはまさしくマネジメント改革である。

外資系日本法人トップの経営へのプロ意識

 さらに樋口氏のマネジメント改革は、4年目に大きな節目を迎えた。象徴的なのは、「日本マイクロソフト」への社名変更と、東京・品川本社への移転だ。社名変更には、日本市場での中長期にわたる事業展開と日本に根ざした企業になることをコミットした決意が込められているが、マネジメントの観点からも日本法人として一層の一体感を持たせようという狙いがあることは明らかだ。

 また、以前は5カ所に分散していた事業拠点を品川本社に集約したのも、組織として一体感を持たせるには非常に効果的だ。加えて品川本社では、自社製品を利用して先進のICT環境を構築し、フリーアドレスやテレワークなども導入して柔軟なワークスタイルに積極的に取り組んでいる。これはビジネスの観点からみると巨大ショーケースともいえるが、最大の狙いが組織の活性化にあることは明白である。

 4年目の2012年6月期を振り返って、樋口氏はこう語った。

 「短期的な業績を最優先で追いかけがちの外資系日本法人は、ともすればマイナスイメージがつきまとうが、当社は社名に『日本』を明記し、事業拠点の要として品川本社を設け、真に日本で信頼される企業になるという意志を改めて明確に示した。当社にとって2012年6月期は、そうした新たな創造へと向かう年になった」

 樋口氏はこうした4年間のマネジメント改革への取り組みを、「破壊と創造のプロセスだった」と表現してみせた。そして5年目となる2013年6月期に向けては引き続き、「米国本社のグローバルな事業戦略の推進」「日本の顧客およびパートナーから信頼されるアドバイザーになる」ことを掲げるとともに、「日本の顧客の国際競争力向上に大いに貢献したい」と力を込めた。

 これまで樋口氏の経営に関わる発言は、会見やインタビューなどを通じて幾度となく耳にしてきたが、いわゆる一般的な外資系日本法人のイメージを引き合いに出しながら、自らのマネジメントの考え方や進め方をこれだけ語ったのは初めてではないか。

 説明の始めに語った「当社はあくまでも米国に本社を持つ外資系企業の日本法人なので、グローバルで展開する事業戦略は本社の意向に沿い、連携を深めていくことが肝要だ」との発言も、当たり前の話ではあるが、その“宿命”を前置きしたところに、外資系日本法人トップとしての経営へのプロ意識を強く感じた。

 ただ1つ欲をいえば、会見での質疑応答の最後に出た質問に対しては、もう少し樋口氏らしい発言を期待したかった。その質問は、「米国の新聞報道によると、このところ大学生を中心とした就職希望企業ランキングでMicrosoftの人気が高まっているそうだが、日本でも同様のランキングで日本マイクロソフトの人気がもっと高まるように、企業の魅力を強く訴えていくべきではないか」という内容だった。

 それに対し樋口氏は、「米国本社の人気が高まっているのは嬉しいこと。日本マイクロソフトとしても、文教分野にはこれまで以上に力を入れていきたい」と答えた。確かに、大学生を中心とした就職関連の話なので文教分野ではあるが、この質問は日本マイクロソフトという企業の魅力を聞いたものだと思う。ピンと来なかったか、はぐらかしたか。いずれにしても、外資系日本法人のトップとして、ビジネスとともにマネジメントでも実績を上げている樋口氏には、機会をみてぜひその魅力について大いに語ってもらいたい。

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