NECレノボ・ジャパングループの今後の課題Weekly Memo

NECとレノボのPC事業を統合したNECレノボ・ジャパングループが先週、発足1年を経過した成果や今後の取り組みについて記者会見した。そこから見えてきた課題は——。

» 2012年07月09日 08時00分 公開
[松岡功,ITmedia]

「1+1が2を超えた」両社の合弁事業1年目

 「両社の合弁は、効果が出にくいPC事業の統合において、1+1が2を超える成果を出せた初めてのケースだ」

 NECレノボ・ジャパングループのロードリック・ラピン会長は7月4日、同グループが発足1周年を機に都内で開いた記者会見でこう胸を張った。

 その成果は数字に表れている。まず国内PC市場のシェアにおいて、合弁後最初の四半期で26.4%となり、両社を合算した前四半期の23.6%から上昇(いずれもIDC Japanのデータ)。同グループは発足3年以内に30%獲得を目標としており、ぐっと近づいた格好だ。また、年間の出荷台数および売上高もそれぞれ前年比106%、同111%と伸長した。

 さらに、レノボグループにとっても年間で過去最高の売上高とシェアを達成し、世界市場でのシェアが4位から2位に浮上。「日本でのNECとの合弁事業が貢献した」(ラピン会長)としている。

 この1年間の合弁事業における具体的な取り組みとしては、まず事業運営の基盤強化において、人材交流によるノウハウの共有化、グローバルでの技術戦略の共有、部材調達のスケールメリット獲得、オペレーションの効率化といった点に注力してきた。

 また、製品・サービスの強化としては、同グループ傘下のレノボ・ジャパンとNECパーソナルコンピュータ(以下、NECPC)において、レノボの個人向けコールセンター業務をNECPCへ委託(2011年10月)、NECPCがとことんサポートPCを発売(同)、NECPCが電話サポートを無償化(2012年1月)、NECPCが無償修理の1日対応を実現(同)といった取り組みを行ってきた。

 会見では今後の取り組みとして、NECPCが前日に発表した世界最軽量のノートPCを披露。レノボ・ジャパンは個人に加えて法人向けのコールセンター業務をNECPCに委託すると発表した。両社のトップも同グループ発足1周年を迎えて、それぞれ次のように意欲を語った。

 「両社の組み合わせはお互いの強みを生かし、足りないところを補完し合える理想的な関係。より魅力的な製品や質の高いサービスを提供できると確信しており、無限の可能性に大いに期待している」(レノボ・ジャパンの渡辺朱美社長)

 「1年前、皆さんからNECのPC事業はどうなるのかとの声をいただいたが、1年経ってそうした懸念は払拭できたのではないかと思っている。世界シェア2位に躍進したレノボの勢いを身近に感じながら、NECPCとしてもさらにアグレッシブに活動していきたい」(NECPCの高塚栄社長)

 左から、レノボ・ジャパンの渡辺朱美社長、NECレノボ・ジャパングループのロードリック・ラピン会長、NECパーソナルコンピュータの高塚栄社長 左から、レノボ・ジャパンの渡辺朱美社長、NECレノボ・ジャパングループのロードリック・ラピン会長、NECパーソナルコンピュータの高塚栄社長

「PC+」の時代へ問われるマーケティング力

 会見で明らかになったNECレノボ・ジャパングループの成果や今後の取り組みにおけるさらに詳しい内容については関連記事等をご覧いただくとして、ここからは同グループの今後の課題について、ビジネスとマネジメントの両面から考察してみたい。

 まず、ビジネス面で挙げられるのは、市場の変化への対応である。パーソナルデバイス市場においてPCは長らく中心の存在として普及し利用されてきたが、ここにきてスマートフォンやタブレット端末などのスマートデバイスの普及・利用が一気に進んできており、PCベンダーはこうした市場の変化にどう対応するかが、喫緊の課題となっている。

 この課題に対し、NECPCの高塚社長は会見で次のような取り組み姿勢を示してみせた。

 「これまでNECのPC事業は、顧客満足度向上のために“AKK(安心・簡単・快適)”を最優先した製品づくりやサービス展開を行ってきた。しかし、これからはPCが単独で使われるのではなく、急速に普及しつつあるスマートデバイスやクラウドサービスなどと連携することによって利便性が一層高まる“PC+”の時代になる。それを見据えて、AKKも遠隔サポートなどの最先端技術を応用した“AKK+”へと進化させていきたい」

 「PC+」の時代には、製品開発力もさることながら、発想を広げたマーケティング力が問われるだろう。

 一方、マネジメント面では取りも直さず、両社の良好な関係を維持・深化させていけるかが大きな課題だ。この点については先に紹介した事業運営の基盤強化に努めており、ラピン会長は「両社の企業文化が徐々に融合してきている」と自信を覗かせた。また、レノボ・ジャパンの渡辺社長もNECPCの高塚社長も「両社の関係について不安はない」と口を揃えた。

 ただ、こうした合弁事業は、ともすれば業績が悪化したり、どちらかに不測の事態が起きたりすると、バランスを崩しやすい。とくにレノボはかつて米IBMのPC事業を買収した際に、そうした苦い経験をしたともいわれており、今回はその轍を踏むまいとの配慮が折々で感じられる。とりわけラピン会長にとっては、神経を使う日々が続きそうだ。

 最後に、この合弁事業については、念頭に置いておくべきことが1つある。両社の合弁会社にはレノボが51%、NECが49%出資しているが、その設立5年後の2016年に、レノボがNECの同意を前提に全株を取得する権利を持っている。つまり、現時点でいうと、4年後にNECがレノボにPC事業を完全に売却する可能性があるということだ。

 1年前、NECの遠藤信博社長はこの件について、「契約に株の譲渡オプションがあるのは事実だが、レノボが重視しているのはNECのブランド。それが使えなくなる合弁解消は考えていない」と強く否定したが、1年経った今、両社の思惑はどうなのか。会見の質疑応答で問うたところ、ラピン会長はこう答えた。

 「そこまでのことはまだ何も考えていない。私は毎月、NEC本体の担当者と合弁事業の進捗や今後の戦略を話しているが、両社とも合弁事業の順調ぶりに喜び、期待している。したがって、現段階でそのスキームを変えるようなことは考えていない」

 予想通りの答えだが、業界関係者の間では「完全売却の可能性」を注視する向きも少なくない。ただ、考えようによってはそうした選択肢が、良い意味で緊張感を持続させるかもしれない。少なくとも4年後にNEC本体の台所事情を除いて「完全売却」があるとしたら、それはPCにおけるNECのブランド力が輝きを失ったときだろう。

 かつて国内PC市場で5割超のシェアを10数年にわたって獲得し続けてきたNECのブランドは、シェアこそ変動したものの、まだまだ健在だ。ここはひとつ、今後4年間の一大プロジェクトのつもりでNECブランドに磨きをかけてもらいたい。それがNECレノボ・ジャパングループの成功にもつながるはずである。

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