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» 2012年08月02日 08時00分 UPDATE

松岡功のThink Management:農業に求められるマネジメントの発想

富士通が先頃、農業経営を支援するクラウドサービスを発表した。これによって、農業分野にもマネジメントの発想が一段と広がりそうだ。

[松岡功,ITmedia]

農業にマネジメントが求められる理由

 「農業分野はこれまで、個人の経験や勘に頼ってきた部分が多く、ICTの活用があまり進んでいなかった。しかし、クラウドを活用すれば、初期投資の負担を抑えてすぐにICT化に取り組める。また、さまざまなデータを活用して総合的なマネジメントを行うとともに、新たな価値を生み出すことができるようになる」

 富士通の山中明執行役員常務は7月18日、同社が開いた新たなクラウドサービスの発表会見でこう語った。この日、同社が発表したのは、農業経営の効率化を図るクラウドサービス「Akisai(秋彩)」。米・野菜などの露地栽培、施設栽培、畜産に対し、生産・経営・販売といった農業経営全般を包括的に支援するクラウドサービスで、生産現場でのICT活用を起点に、流通・地域・消費者をバリューチェーンで結ぶことを目指している。

 その第1弾として、農業現場と食関連企業のマネジメントを支援する「農業生産管理SaaS」と、農業現場でのICT活用の促進や組織的マネジメントをサポートする「イノベーション支援サービス」を10月に提供開始するとした。

 富士通によると、現在の農業生産現場は、就業者の60%以上が65歳以上という状況にあり、多くは「できたものを売る」という考えのもと、全生産物の収益と生産費用のみを把握する経営が行われているという。そうした状況から今後は、今まで把握できていなかった作物ごとの費用構造や収益率を見える化することで、「利益の出るものを作る」という方針のもと、現場での日々の作業実績や生育情報などに関するデータを活用して収益拡大につながるマネジメントを行っていく必要があるとしている。

 一方、食品加工・卸・小売・外食などの食関連企業では、競合他社との差別化、コストの改善、品質マネジメントの強化が求められているという。この分野では、各調達先で品質管理や生育方法などが個々に異なり、それぞれに生産調整を行う必要があるため、調達先が増えるほど調整するためのコストや連絡漏れによる生産物の供給過不足などが発生。いわゆる「4定」(定時・定量・定品質・定価格)を実現するためにも、調達先のマネメジメント機能を強化する必要があるとしている。

 同社はこれらの課題を解決すべく、過去3年間の農業現場でのICT利活用実証実験の成果を踏まえ、農業経営全般を包括的に支援する業界初のクラウドサービスとして体系化した。

 会見に臨む富士通の山中明執行役員常務(左)と阪井洋之ソーシャルクラウド事業開発室長 会見に臨む富士通の山中明執行役員常務(左)と阪井洋之ソーシャルクラウド事業開発室長

マネジメントが国際競争力強化の決め手に

 サービスの概要を少し紹介しておこう。

 農業生産管理SaaSおよびイノベーション支援サービスでは、農業生産者は生産プロセスの見える化や各種データの活用などによる収益拡大につながるマネジメントが可能となる一方、食品加工・卸・小売・外食などの食関連企業は、契約生産者との需給調整や品質管理のプロセスを確立することができるという。

 農業生産管理SaaSでは、「農業生産者向け生産マネジメント」と「食関連企業向け集約マネジメント」の2種類のサービスが用意されている。

 農業生産者向け生産マネジメントでは、日々の生産現場の作業実績や生育情報といったデータを、モバイル端末やセンサーを使ってクラウド上に収集し蓄積・分析することにより、圃場ごとの品質やコストの見える化を可能にするという。また、これらのデータを活用し、計画に対する実績の振り返りや次の営農計画へ反映させることで、収益や効率性を高める企業的農業経営を行うことができるとしている。

 食関連企業向け集約マネジメントでは、全国数百から数千に及ぶ仕入先契約生産者の生産計画・生産履歴・収穫量・生育情報などのデータを一元管理でき、生産段階から状況を把握することが可能。これにより、契約生産者への生産マネジメントが行えるようになり、「4定」での調達を支援することができるとしている。

 また、イノベーション支援サービスでは、農業生産者と一緒に目標を設定したうえで、現場が抱えるさまざまな課題を直接ヒアリングし、ICTを利用したPDCAサイクルの提案と実践を行いながら、現場で収集したデータを生かした農業経営マネジメントを支援するとしている。

 サービスの利用料金は、農業生産者向け生産マネジメントが月額4万円から。食関連企業向け集約マネジメントは同10万円から。この利用料金とサービス内容について富士通ソーシャルクラウド事業開発室の阪井洋之室長は、「便利になるから導入しようという感覚では少々高いと受け取られるかもしれないが、イノベーションにチャレンジしようという農業生産者や食関連企業には魅力的な利用料金のはず。当社としてもぜひそうした果敢にチャレンジするお客様に活用していただきたいと考えている」と語った。

 マネジメントとICTは相性がよい。マネジメントに求められる「スピードの速さ」と「透明性」を、ICTが実現してくれるからだ。とくに農業のような、これまでマネジメントの発想があまりなかった分野には、最新のICTであるクラウドを活用すれば、大きな導入効果を期待できるだろう。

 農業分野では今、環太平洋経済連携協定(TPP)への対応が大きな問題となっているが、その行方は別として、今後は国際競争力を強化していかないとビジネスが広がらないのは明らかだ。クラウドによるマネジメントの推進が、その決め手になるのではないか。今回の富士通の新サービスを見て、そう感じた。

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