SAPにみるCIOのあるべき姿Weekly Memo

独SAPのオリバー・ブスマンCIOが先週来日し、自社のIT活用について記者会見を行った。会見で見えてきたものは――。

» 2012年09月03日 08時00分 公開
[松岡功,ITmedia]

企業革新につながるITのコンシューマ化

 「私がCIOとして今もっとも注目しているのは、企業におけるITのコンシューマ化の動きだ」

 先週来日したSAPのオリバー・ブスマンCIO(最高情報責任者)は8月27日、SAPジャパンが開いた記者会見でこう語った。「ITの戦略的活用を実践するSAP自社事例について」と題して会見に臨んだブスマン氏は、およそ3年前にSAPのグローバルCIOに就任し、IT部門のチェンジマネジメントを積極的に行ってきたという。

 会見に臨むSAPのオリバー・ブスマンCIO 会見に臨むSAPのオリバー・ブスマンCIO

 会見でまず挨拶に立ったSAPジャパン リアルタイムコンピューティング事業本部の馬場渉本部長は、「CIOが変わると会社自体がこんなに変わるんだと、私をはじめSAPの従業員の多くが実感している。SAPはおよそ2年半前に共同CEO体制になって会社自体が大きく変わったが、同時にCIOの影響力も非常に大きいことを彼は実践してみせている」とブスマン氏を紹介した。

 そのブスマン氏が開口一番、メッセージとして語ったのが冒頭の言葉だ。ではなぜ企業におけるITのコンシューマ化の動きに注目しているのか。同氏によると、「ITのコンシューマ化は企業にとって新たなイノベーションドライバーになるからだ」という。

 「例えば、コンシューマから普及したTwitterやFacebookなどのソーシャルメディアが企業にも広がり、社内外のコミュニケーションツールとして定着しつつある。また、デバイスの多様化やBYODの浸透とともに、今後は業務利用でもモバイルデバイスが主流になるのは歴然だ。さらに多種多様な情報が急速に膨大な量へと膨らんでいく中で、それをモバイルデバイスで有効活用するためのサポートモデルなども知恵の出しどころになるだろう」

 こう語るブスマン氏は、こうした動きに対してSAPが先行していることを強調した。

 例えば、ソーシャルメディアの利用については社内にとどまらず、今後グローバルなエコシステムにも広げていくことを計画中だ。また、モバイルデバイスの利用については、個人所有の端末を業務利用するBYOD(Bring Your Own Device)対応も含めて、およそ4万台が業務で使われているという。さらにIT部門がリードする新たなサポートモデルとして、「SAPモビリティソリューションセンター」と名付けた施設を世界の主要拠点に8カ所程度、近いうちに設けていく構えだ。

CIOは「戦略的IT」を目指すべし

 企業におけるITのコンシューマ化をめぐる話の一方、ブスマン氏はSAPのCIOを務めてきた3年間を振り返って、CIO自体の役どころとともにIT部門をどうチェンジマネジメントしてきたかを語った。

 同氏によると、それは3つのステップがあるという。まず1つ目は、ITオペレーションとして柔軟かつ統制のとれた仕組みづくりを追求することだ。これを同氏は「機能的IT」と呼ぶ。2つ目は、ビジネス部門との連携およびプロセスの転換に乗り出すことだ。これを同氏は「転換的IT」と呼ぶ。そして3つ目は、企業戦略にフォーカスし、イノベーションと差別化を目指すことだ。これを同氏は「戦略的IT」と呼ぶ。

 つまり、機能的ITから転換的IT、そして戦略的ITへと、ブスマン氏はこの3年間でIT部門のミッションを変えてきたのである。ただ、同氏の説明では、厳密に言うとシフトしてきたのではなく、スキルとしては全ての要素が必要なことから、活動領域を広げてきたととらえたほうが正しいだろう。とはいえ、「この3年間で私の仕事は大きく変わった」と自らに言い聞かせるように語った同氏の言葉が印象に残った。

 その後、ブスマン氏はSAPが5つの重点事業領域としているアプリケーション、アナリティクス、クラウド、データベース/テクノロジー、モバイルのそれぞれについて、SAP自身が自社のソリューションを効果的に活用している状況について説明した。

 中でも目を引いたのは、データベース/テクノロジー領域でのインメモリデータベース「SAP HANA」の活用事例だ。例えば、さまざまな切り口でどれだけ利益を確保できたかを分析する「利益性分析」では、これまで処理に26時間かかっていたものが4時間で済むようになり、しかもその内容の質も大幅に向上したという。

 そして、ブスマン氏は最後に伝えたいメッセージとしてこう語った。

 「SAPが推進している5つの重点事業領域は、どの企業にとってもビジネス価値を生み出す重要なソリューションだ。ビジネス価値を生み出すことは、SAP自身が実証している。私と同じくCIOおよびIT部門を担う方々にも、ぜひ参考にしていただいてビジネス価値を生み出すドライバーになっていただきたい」

 筆者の率直な感想を述べると、これほど企業戦略やビジネス価値と連動した形で自社のIT戦略や活用事例を語るCIOの話を聞いたのは初めてだ。もちろん、SAP自体がITベンダーであることから連動した話にはしやすいが、そんな視点よりも注目すべきは、企業戦略に則ってITを活用してビジネス価値を生み出すことに気概を漲らせるブスマン氏のCIOとしての姿勢である。

 SAPの業績はこのところ好調だ。そしてこの2年ほど、外からも会社自体が大きく変化しているのが見て取れる。「CIOが変わると会社自体がこんなに変わる」との馬場氏の発言からすると、ブスマン氏のリーダーシップは相当なものなのだろう。機会があれば、同氏にぜひCIOのリーダーシップについてじっくりと話を聞いてみたい。

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