SAPジャパン新社長が語るERP事業の行方Weekly Memo

SAPジャパンが先週開いた安斎富太郎新社長の就任会見から、ERP事業の行方など印象に残った発言をピックアップしてみた。

» 2011年09月05日 08時00分 公開
[松岡功,ITmedia]

野田新首相と同い年の安斎新社長

 「昨日、民主党の新代表に選ばれた野田さんが演説で話されていたのと同様に、私も見栄えはこの通りで地味かもしれないが、精一杯務めさせていただく」

 SAPジャパンの安斎富太郎新社長は、同社が8月30日に開いた就任会見の冒頭で写真撮影に応えながらこう語り、笑いを誘った。

 ちなみに民主党の野田佳彦新代表は、この日の国会で第95代、62人目の首相に指名され、新政権を発足させた。実は、野田首相と安斎社長は共に1957年生まれの54歳。安斎社長の冒頭の発言は、同い年の親近感もあったのかもしれない。

 就任会見に臨むSAPジャパンの安斎富太郎新社長 就任会見に臨むSAPジャパンの安斎富太郎新社長

 8月15日付けでSAPジャパン代表取締役社長に就任した安斎氏は、1981年に慶應義塾大学経済学部を卒業後、日本IBMに入社。1994年から同社の社長補佐を務め、1997年から2年間、米IBM勤務も経験。2000年に日本IBMへ帰任した後は、公共・公益・通信メディアサービス事業部長、理事NTT事業部長を歴任。2006年6月に同社を退社し、翌月よりデルにて執行役員 営業統括本部長 兼 米Dellコーポレートディレクターを務めた。2010年12月にデルを退社し、今年1月からSAPジャパンで専務執行役員シニアバイスプレジデント営業統括本部長を務めていた。

 本人いわく「ずっと営業畑。25年間勤務したIBMでは、金融以外の業種はほぼすべて担当してきた」。IBMではサービス事業にも4年ほどかかわっている。さらにデルで営業責任者を4年半務めたのも、キャリアに厚みを増している。その上で、SAPジャパンに入社後の仕事ぶりを評価されての今回の人事だったようで、会見からも経営のかじ取りへの強い意欲が伝わってきた。

 社長就任にあたっての抱負をはじめとした会見の内容については、すでに報道されているので関連記事等を参照いただくとして、ここでは筆者が聞きたかった「ERP事業の行方」「グローバルから見た日本市場の有望性」「日本人社長としての思い」の3点にフォーカスして、印象に残った安斎社長の発言をピックアップしたい。

リアルタイム経営の提供を目指すSAPの事業

 まず1つ目としてERP事業の行方を挙げたのは、ここにきてERP以外の事業領域を拡大しつつあるSAPが、コア事業であるERPをどう見ているのか、確認したかったからだ。この点について安斎社長はこう語った。

 「SAPにとってERPがコア事業であることには変わりがない。SAPではこれまでにSCMやCRM、そして最近ではインメモリ技術をベースとしたリアルタイム分析ソフトやモビリティ分野などに事業領域を広げているが、これらは業務プロセスの標準化、そしてリアルタイム経営を目指したERPの延長線上にある事業展開だ」

 そしてこう続けた。「ただ、現在の成長スピードからいえばERP以外の事業が勢いよく伸びており、米国市場ではERPとそれ以外の事業の割合が昨年度で50対50になった。日本市場ではその割合が昨年度で75対25だったが、今年度上期は60対40と、米国市場に近づきつつある。今後もERP以外の事業の割合が増えていくだろうが、一方でERP事業も、例えば日本市場での今年度上期の売上実績をみると2ケタ成長を果たしており、継続的に投資していく計画に変更はない」

 安斎社長の説明によると、SAPの事業はすべてリアルタイム経営の提供を目指したものだといえる。これはこれで1つの明解なメッセージだ。

 次に2つ目としてグローバルから見た日本市場の有望性を挙げたのは、SAPをはじめとした外資系有力ベンダにとって、日本の市場価値が下がっているのではないかと見られるからだ。これについての安斎社長の見解はこうだ。

 「SAPでは、日本の市場価値はこれまでと変わらず非常に高く位置付けられている。日本と同じアジア地域において成長率だけを見れば、中国やインドのほうが高い伸びを示しているが、品質面での影響力は日本の存在感がまだまだ大きい。日本の顧客ニーズに応えられれば、グローバルに通用するという見方は揺るいでいない。SAPジャパンとしては、それを事業展開にもっと生かしていきたい」

 最後に3つ目として日本人社長としての思いを挙げたのは、SAPジャパンとしておよそ3年ぶりの日本人社長であるとともに、過去に混沌とした経緯もあったからだ。この点について安斎社長はこう語った。

 「(親会社である)独SAPから社長就任を要請された際、日本の顧客や商習慣はやはり日本人のほうが分かるだろうと言われた。これまでの営業経験でそれなりに失敗も重ね、顧客視点で大事なこともそれなりに勉強してきたつもりだ。そうしたところを期待されているし、自分でも大いに発揮していきたいと思っている」

 野田新首相は、とりわけ民主党代表選での演説が光った。同い年の安斎新社長も、就任会見では流ちょうな語り口が印象に残った。実直なイメージも重なる。ご両人とも腰を落ち着けて、ぜひとも長く務めてもらいたいものだ。ちなみに筆者も同い年。ポスト団塊世代のあとの名もなき同世代として、エールを送りたい。

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