マイクロソフトのユーザー事例にみるIT業界構造変化の予兆Weekly Memo

日本マイクロソフトが先週、ニチイ学館およびトヨタ自動車へのクラウドサービスを中心とした導入案件について発表した。そこから見えてきたものは――。

» 2012年10月09日 08時00分 公開
[松岡功,ITmedia]

ニチイ学館、トヨタ自動車と相次いで会見

 日本マイクロソフトが先週、医療事務最大手のニチイ学館および自動車最大手のトヨタ自動車へのクラウドサービスを中心とした導入案件について発表した。ITベンダーが有力なユーザー企業への導入事例を公表するのはよくあることだが、今回の2つの発表には、単なる導入事例にとどまらないIT業界構造変化の予兆を感じる。

ニチイ学館の齊藤正俊社長(右)と日本マイクロソフトの樋口泰行社長 ニチイ学館の齊藤正俊社長(右)と日本マイクロソフトの樋口泰行社長

 まずは2つの発表の概要を紹介しておこう。1つは、ニチイ学館と日本マイクロソフトが10月1日、医療機関向け事業における業務提携を結び、ニチイ学館の幅広いネットワークを通じた人的サービスと、マイクロソフトのITを活用した新しい医業環境支援サービスを共同で開発し、順次提供していくことを発表したものだ。

 具体的には、医療機関の経営健全化をサポートするため、経営データの見える化と分析を適切に行えるように支援する「経営支援サービス」、医師や看護師の業務負担を軽減し、コミュニケーションを活性化して供給体制を整備する「医療支援サービス」、医療機関と介護施設、利用者宅間の情報連携などを行う「地域連携サービス」を展開していく計画だ。

 もう1つは、日本マイクロソフトが10月2日、トヨタ自動車におけるITを活用したグローバルなコミュニケーション基盤に、マイクロソフトのプラットフォームが全面採用されたことを発表したものだ。トヨタの新たなコミュニケーション基盤は関連会社を含む約20万人が利用するもので、マイクロソフトのユーザー事例として世界最大規模になるという。

 トヨタは新たなコミュニケーション基盤を構築する狙いとして、機動力のある働き方、知見や情報の共有、会議の高度化といった3つのポイントを挙げている。これらをグローバルで強力に推進していくために、マイクロソフトのプラットフォームを有効活用していきたいとしている。

 この2つの発表について、いずれも記者会見で説明があった詳細な内容は、すでに報道されているので関連記事等をご覧いただくとして、ここからは先にも触れたように、筆者が今回の2つの発表を通じて、単なる導入事例にとどまらないIT業界構造変化の予兆を感じる理由について述べたい。

クラウドサービスがもたらすビジネス形態の変化

 筆者が今回の2つの発表を通じてIT業界構造変化の予兆を感じるのは、いずれもクラウドサービスを中心とした導入案件として、マイクロソフトがユーザー企業と直接取り引きを行う形になることから、同社が推進するパートナー企業とのエコシステムに少なからず影響を与えるのではないかと考えるからだ。

トヨタ自動車 情報システム領域ITマネジメント部の北沢宏明部長(右)と日本マイクロソフトの樋口泰行社長 トヨタ自動車 情報システム領域ITマネジメント部の北沢宏明部長(右)と日本マイクロソフトの樋口泰行社長

 マイクロソフトがこれまで推進してきたパートナー企業とのエコシステムは、パートナー企業がマイクロソフトの技術や製品を採り入れてユーザー企業にソリューションを提供する形が中心だった。

 しかし、今回の2つの発表にみられるように、マイクロソフトがユーザー企業と直接取り引きを行う形になると、パートナー企業はマイクロソフトを通じて自社のソリューションやカタマイズなどをユーザー企業に提供する格好となりうる。

 ではマイクロソフトがパートナー企業とのエコシステムを軽視しているのかといえば、そうではないだろう。今回の2つの発表で印象強かったのは、クラウドサービスを中心とした導入案件としてマイクロソフトに期待を寄せるユーザー企業の声だ。

 ニチイ学館の齊藤正俊社長はマイクロソフトについて、「技術力や幅広い製品群、販売実績、豊富な海外医療の事例といった大きな資産を持っている」と評価。トヨタ自動車 情報システム領域ITマネジメント部の北沢宏明部長も「一言でいえばデファクトスタンダードだから。グローバルな観点で有効活用できることも大きなポイントだ」と選択した理由を語った。

 技術力、実績、そしてグローバル。両者のコメントからも、ユーザー企業がクラウドサービスを選択する際のキーワードが明確に見えてこよう。そう考えると、ニチイ学館とトヨタがクラウドサービスを中心としたソリューションを導入するにあたって、マイクロソフトと直接取り引きを行うことにしたのは必然ともいえる。

 今回2つの発表があったので、マイクロソフトの動きを取り上げたが、今後こうしたクラウド事業者とユーザー企業が大規模な案件で直接取り引きを行うケースが増えてくるのではないだろうか。グローバルを視野に入れると、マイクロソフトと同様にアプリケーションを持つグーグル、オラクル、SAPなどもダイレクトな顧客獲得合戦に乗り出す可能性が高い。

 グーグル、オラクル、SAPなども、日本ではパートナー企業とのエコシステムを積極的に推進していることから、それぞれにユーザー企業との直接取り引きが広がれば、クラウドサービスが一層普及する一方で、IT業界の構造変化が本格的に起こり始めるだろう。

 そうなったとき、日本のITベンダーはどう対応するのか。今回のマイクロソフトとユーザー企業による直接取り引きを目の当たりにして、そう感じた。

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