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» 2012年11月08日 08時00分 UPDATE

松岡功のThink Management:仙台市長が語る「震災復興マネジメント」

先週、東日本大震災の被災地の復興について、奥山仙台市長の話を聞く機会を得た。その内容がまさしくマネジメントに通じるものだったので紹介しておきたい。

[松岡功,ITmedia]

被災自治体における3つの課題と対処策

 日本IBMが11月1日、仙台で開いたプライベートイベント「IBMリーダーズ・フォーラム東北」で、奥山恵美子仙台市長が震災復興についてスピーチを行った。同イベントについては、11月5日掲載のWeekly Memo「日本IBMがみせた地域展開の本気度」で紹介しているので参照いただくとして、ここではまさしくマネジメントに通じる内容だった奥山氏の話を中心に紹介したい。

 東北市長会の会長も務める奥山氏はまず、被災地の復興への動きについてこう語った。

 スピーチを行う奥山恵美子仙台市長 スピーチを行う奥山恵美子仙台市長

 「被災地は今、さまざまな面で復興に尽力しているが、自治体ごとにみると、その進ちょく状況は大きく異なっている。これを“復興格差”ととらえて、復興が遅れている被災地にさらなる努力を促すような意見を耳にすることがあるが、その考え方は筋違いだ。同じ被災地でもそれぞれの自治体で被害の大きさが相当異なっていることを踏まえたうえで、きめ細かい復興を進める必要がある」

 そのうえで奥山氏は、被災自治体における今後の課題とその対処策について次の3つを挙げた。

 1つ目は、人口の流出である。同氏によると、震災後、被害の大きかった沿岸部自治体の相当数の被災者が仙台市などに移動した。現在、仙台市では全人口の3割超が震災後に市外から移動してきた被災者で、応急処置として借り上げ民間賃貸住宅やプレハブ仮設住宅に入居している。そこで急がれるのが、定住できる住宅の整備だ。しかし、同氏は仙台市にとっても沿岸部自治体にとっても悩ましい問題があるという。

 「実際にどれくらいの戸数を設置すればよいのか。それを把握するために、移動してきた被災者が仙台市に定住するのか、それとも故郷の住宅整備が進めば戻るつもりなのか、を世帯ごとに確認する必要がある。そうしないと非効率な住宅政策になってしまう可能性がある」

 こうした悩みは沿岸部の自治体も同じだ。そこで仙台市では、宮城県の沿岸部自治体と共同で説明会などを開き、確認作業を急いでいるという。

 2つ目は、被災者の孤立化防止とコミュニティーの再生である。奥山氏によると、この課題はかつての阪神大震災での教訓に基づくものだ。阪神大震災ではその後、仮設住宅での高齢者の孤独死が相次いだ。行政としては高齢者を優先して救済するための施策だったが、結果的に高齢者が集中する場所が多くなり、高齢者の日常生活を支援する人がいないコミュニティーができてしまったという反省点があるという。

 そこで仙台市が考えているのは、高齢者と支援者が一緒になったコミュニティーづくりだ。被災者が応急処置として借り上げ民間賃貸住宅やプレハブ仮設住宅に入居している現状では、支援者が高齢者の見回りを頻繁に行ったり、コミュニティー活動をサポートしたりしているが、「定住先となる公営住宅を整備する際には、高齢者と支援者が一緒になったコミュニティーづくりを意図的に進めていく必要がある」と奥山氏は強調した。

復興に向けて新しいことにチャレンジ

 そして3つ目は、復興に向けた多様な事業展開である。この狙いは、被災地を元気にするとともに、被災地以外からも多くの来訪客を迎え入れて経済的にも活性化を図ろうというものである。

 奥山氏によると、事業面での復興については政府の補助金も原動力の1つになっているが、政府の補助金は施設や設備といったハード面での復旧・整備を対象としているため、仙台市が得意とする第3次産業、つまりソフト面にはほとんど使えないという。そこで仙台市では今、ソフト事業に関連する基金などを設けて、同事業を積極的に支援していくことも検討している。

 ちなみに、仙台市ではそうした事業の取り組みとして、各種の国際イベントを積極的に誘致したり、仙台の商店街に被災地の名産品などを一堂に揃えた東北復興パークを開設したり、起業する人たちを支援する東北復興創業スクエア事業を推進したり、地域企業の販路拡大を支援する東北復興ビジネスマッチングセンターを設けたりしている。

 また、震災の津波で壊滅的な被害を受けた仙台市の下水処理施設である南蒲生浄化センターでは、2015年度末の完成をめざして今年9月に施設の復旧工事が始まったが、ここでは同時に別の新たな取り組みもスタートしている。仙台市が東北大学や筑波大学と協定を結び、新しい施設において、バイオテクノロジーの最先端である藻類バイオマスの共同研究を行うことになったという。

 こうしたさまざまな取り組みについて、奥山氏は「仙台市はこれから事業面や共同研究などさまざまな領域で新しいことに積極的にチャレンジしていく。これまでは復旧作業に追われてきたが、これからは復興に向けてチャレンジする。被災地として、その勇気と覚悟を持っている」と力を込めた。

 ただ一方で、自らを戒めるようにこうも語った。

 「おのれの能力を明らかに超えたチャレンジでは絶対に長続きしない。おのれの身の丈をしっかりと自覚して、どの程度のチャレンジを続けていくか。その案配の判断が、行政の長としては一番難しいところだ」

 奥山氏のこの言葉は、まさしくマネジメントの勘所でもあるのではなかろうか。日本IBMが開いたこのイベントの式次第では、奥山氏のスピーチの題目は「お客様ご挨拶」となっていたが、筆者はまさに「震災復興マネジメント」という言葉が相応しいと感じた。

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