リストラの先に見据えた富士通の照準Weekly Memo

富士通が先週、半導体事業の再編を柱とするリストラ策を発表した。会見でのやりとりから、リストラの先に見据えた同社の照準が鮮明に浮かび上がってきた。

» 2013年02月12日 08時00分 公開
[松岡功,ITmedia]

富士通が「攻めの構造改革」を実施

 「国内の事業は堅調に推移しているが、半導体を中心としたデバイスやPC、海外での事業が当初の見通しから大幅に悪化した。こうした課題事業に対処し、来年度以降、急激な業績回復を確実なものにするために、抜本的な手を打つことにした」

 会見に臨む富士通の山本正已社長 会見に臨む富士通の山本正已社長

 富士通の山本正已社長は2月7日、同社が開いた直近四半期の決算および今後の経営方針の発表会見で、今回打ち出したリストラ策についてこう語った。

 リストラ策の主な内容は、半導体事業においてシステムLSIの設計・開発をパナソニックと、製造を台湾企業と設立する新会社に移管。PCや海外の事業もテコ入れするほか、本社の間接部門などの人員配置や業務を見直すなどの改革も進め、希望退職の実施や新会社への転籍などによって国内外で約9500人を削減する計画だ。これに伴って多額の特別損失を計上し、2013年3月期の連結最終損益は950億円の赤字(前期は427億円の黒字)になる見通しだ。

 山本氏は今回のリストラ策を「攻めの構造改革」とし、急速な業績回復に向けた取り組みについて次のように語った。

 「特に半導体事業の構造改革と欧州事業の再構築が喫緊の課題となる。さらに踏み込んだ攻めの構造改革として、人事施策や徹底的なコスト構造の見直し、市場構造の変化への対応に注力していく。そうした企業体質の強化やリソースシフトを同時並行で行うことによって、今後の成長戦略につなげていきたい」

 富士通が今回発表した決算やリストラ策の詳しい内容については、すでに報道されているので関連記事等を参照いただくとして、ここでは山本氏が言う「今後の成長戦略」に注目したい。同氏が今後の成長戦略として挙げたのは、「垂直統合型ビジネスモデルの追求」である。その背景となる企業のICTニーズの変化については、次のような現状認識を持っているという。

 「企業システムにおいては、クラウドの導入が本格化するフェーズに入ってきた。これを受けてICTベンダーには、垂直統合型ビジネスを推進する力が求められている。すなわち、ハードウェアやソフトウェアの技術に裏打ちされた信頼性の高いプラットフォームを、顧客のビジネスに対する深い理解に基づいてインテグレーションしたり運用したりする力、モバイルデバイスやビッグデータ活用などの付加価値を生むICT利活用の提案力、それらを兼ね備えた垂直統合力を持つビジネスパートナーが求められている」

IBM追撃態勢へギアチェンジ

 その上で山本氏は、垂直統合型ビジネスモデルの追求に向けた富士通の取り組みについて次のように語った。

 「当社ではICTに求められる企業ニーズを、人が活動する場でのイノベーション、ビジネスや社会における情報装備、End-to-Endでの全体最適化といった3つのアクションでとらえている。当社はそのそれぞれのアクションにおいて必要となる技術や製品、サービスを取り揃えている。さらに今回の構造改革に伴うリソースシフトによって営業力を強化することで、垂直統合ビジネスを大きく伸ばしていきたい」

 その垂直統合型ビジネスについて、同氏は「ここにきて既存のアプリケーション資産をスリム化し、長く使えるフレームワークに移し替えたいというニーズが高まってきている。当社としてはこうしたニーズに対し、これまでのシステム構築の経験を生かしたサービスを強化するとともに、ハードウェアとソフトウェアを一体化・最適化した垂直統合型製品を積極的に提案していきたい」と、垂直統合型製品の展開に力を入れていくことを明言した。

 さらに、「垂直統合型製品は当社のインテグレーションや運用サービスのノウハウを組み込んだ付加価値の高いものだ。同時にSIの経験とノウハウを生かしてアプリケーションの共通部品化を進め、ソリューションソフトウェアを拡充することで、SIの収益性も高めていきたい」と、垂直統合型への取り組みが既存のSI事業などの収益改善にもつながるとの見解を示した。

 そして山本氏は構造改革や成長戦略の説明をこう結んだ。

 「今回の構造改革とともに今後は垂直統合力を生かした成長戦略を強力に押し進め、当社の中核である(ICTの基盤やサービスからなる)テクノロジーソリューション事業を一層強化する方向性を明確に示していきたい」

 この発言は、聞きようによっては非常に興味深い。というのは、今回の構造改革で半導体事業を整理することにより、ICTベンダーとしての体質強化につながるとみられるからだ。ちなみに富士通と同様、垂直統合型ビジネスに力を入れるICTベンダーには、IBM、HP、Oracleといったメジャープレーヤーが名を連ね、グローバル市場で激しい競争を繰り広げている。中でも富士通が歴史的背景からも宿敵としてきたのは、ほかでもないIBMだ。

 会見の質疑応答で、記者から「富士通の将来を考えると、テクノロジーソリューション事業だけにしたほうが戦いやすいのでは」との質問が飛んだ。これに対し、山本氏は「今回のアクションはその方向性を明確にした第1弾の動きと思っていただいていい」と少し踏み込んで答えた。

 こうしてみると、今回のリストラの先に見据えた同社の照準として、あらためてIBM追撃が鮮明に浮かび上がってきたといえそうだ。その意味では、今回はIBM追撃に向けてギアチェンジを行ったとも見て取れる。9500人の削減や950億円の赤字ばかりに目が行きがちな同社の今回のリストラだが、こんな見方もできるのではなかろうか。

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