激戦区「垂直統合型」システム市場の行方Weekly Memo

大手システムベンダーから、ハードウェアとソフトウェアを一体化した「垂直統合型」システムが出揃ってきた。激戦区となりつつある同市場の行方やいかに。

» 2012年12月17日 08時00分 公開
[松岡功,ITmedia]

富士通がデータベースシステムを発表

 富士通が12月6日、垂直統合型データベース(DB)システム「FUJITSU Integrated System HA Database Ready」を発表した。同社のこれまでのDBシステムの納入・運用実績から得られたインテグレーション技術をもとに、業務データをより高速かつ確実に処理するために最適化した製品で、従来のDBシステムに比べて最大20倍の性能向上を図ったという。

 同社の独自技術により、設置したその日からDBの利用ができ、バックアップやリカバリーなどの運用も簡単に行えるほか、オープンスタンダードなDB「PostgreSQL」のインタフェースを採用しているため、豊富なソフトウェアやパッケージを活用できるとしている。

 同社ではこれを機に、ハードウェアとソフトウェアを一体化し、導入・運用に最適な構成で提供する製品を垂直統合型プラットフォーム「Dynamic Integrated Systems」として新たに体系化。今回の新製品を第1弾と位置づけるとともに、昨年投入したプライベートクラウド統合パッケージ製品「Cloud Ready Blocks」についてもDynamic Integrated Systemsの製品群の1つとして一層強化していく構えだ。

 発表会見で説明された新製品のさらに詳細な内容は、すでに報道されているので関連記事等をご覧いただくとして、ここでは富士通が新製品を発表したのを機に、大手システムベンダーから出揃ってきた垂直統合型システムの市場の行方について探ってみたい。

 大手ベンダー各社が現在提供している垂直統合型システムとしては、米国勢ではOracleの「Exaシリーズ」、HPの「Converged Infrastructure」、IBMの「PureSystems」、国産勢では日立製作所の「Unified Compute Platform」、および今回富士通がブランド名を統一したDynamic Integrated Systemsが挙げられる。さらにNECも競合製品を来春にも投入するとみられている。

 ちなみに今回、富士通が発表した新製品は、「DBシステム導入を短期間で行いたい」「高性能・高信頼の運用を低コストで行いたい」「オープンスタンダードを安心して利用したい」といったニーズの高い中規模企業がターゲットの中心だ。同社によると「競合製品の多くは大規模なシステム利用を対象にしており、当社の新製品とはターゲットが違う」(新田将人ミドルウェア事業本部 本部長)という。

 ただ、富士通はOracleとの協業関係のもとで「Exaシリーズ」の販売も手がけていることから、大規模向けの色合いが濃いExaシリーズとの棲み分けを図ったとも見て取れる。が、今後の計画では来年にも大規模なDBシステムに高度なデータ分析機能を備えた製品を投入するとしており、規模による棲み分けは念頭にないのかもしれない。

 この点について同社統合商品戦略本部の谷村勝博SVPは、「ExaシリーズにしてもDynamic Integrated Systemsにしても、要はお客様のご要望に応じて最適なシステムを提供するのが当社の基本的なスタンスだ」と説明した。つまりは顧客からみて選択肢のある形に、ということのようだ。

左から富士通の谷村勝博 統合商品戦略本部SVP、遠藤和彦ITサーバ事業本部 本部長、新田将人ミドルウェア事業本部 本部長 左から富士通の谷村勝博 統合商品戦略本部SVP、遠藤和彦ITサーバ事業本部 本部長、新田将人ミドルウェア事業本部 本部長

グローバルな3大勢力を形成すべし

 先に挙げたように大手システムベンダー各社の製品が出揃ってきたことから、今後、垂直統合型システム市場はますます激戦区になっていくだろう。オープンな製品といいながらベンダーロックインが横行する形にならないか。従来型のシステムインテグレーション(SI)需要が減少する中で、垂直統合型システムの普及がSI会社などにどのような影響を与えるか。市場の行方を探るうえでは、こうした懸念も考察する必要がある。

 それはまた別の機会にさせていただくとして、今回は大手ベンダー6社の顔ぶれから、あらためて主張しておきたい持論があるので、その話を以下にさせていただきたい。

 本連載コラムではこれまで幾度か、企業向けIT事業分野における大手ベンダー同士の「グローバルな合従連衡」への期待ということで、私見ながら1つの仮説を述べてきた。

 企業向けIT事業分野で、ハードウェア、ソフトウェア、サービスを総合的に提供できるグローバルなメジャープレーヤーといえば、米国のIBM、HP、そしてSun Microsystemsを買収したOracleなどに絞られる。国産大手の富士通、NEC、日立製作所もこの一角に名を連ねたいところだ。

 そこで立てた仮説とは、とくにミッションクリティカルなサーバ分野で長年の戦略的協業関係を築いてきた、Oracleと富士通、HPとNEC、IBMと日立製作所が、それぞれさらにパートナーシップを深めて、この分野におけるグローバルな3大勢力を形成するというものだ。

 いずれの組み合わせとも互いに競合する分野はあるが、総じて米国勢にとっては国産勢の製品開発力や高品質、ITサービス力を魅力に感じているはずだ。一方、国産勢にとってはそれぞれのパートナーのグローバルブランドを生かしたボリュームビジネスを展開できることに大きなメリットがある。

 ここにきて、垂直統合型システムが企業向けIT事業分野、さらには今後ミッションクリティカルな分野に向けても重要な役割を担う可能性が見えてきた中で、この仮説がとりわけ国産勢にとってグローバルなサバイバル競争を生き抜くシナリオとして的外れではないような気がしてならない。他産業における最近のダイナミックな合従連衡の動きを“他山の石”にすべきではないだろうか。

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