AIブームを「銀の弾丸」に変えらえるか 2026年、企業ITが直面する課題

AI活用の推進やセキュリティの課題など、2025年のIT業界は話題に事欠かない1年だった。アイ・ティ・アールが発表した「国内IT投資動向調査報告書2026」を基に今後を読み解く。

» 2026年01月01日 00時00分 公開
[ITmedia エンタープライズ編集部]

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ITR 村井真人氏(アナリスト)  2025年にITRに入社し、IT戦略・組織・投資・プロジェクトのマネジメント領域を担当。ユーザー企業のIT部門の高度化や強化のコンサルティングに取り組む。専門分野はシステム企画、投資管理、組織管理。

 IT業界をとりまく環境を表現するとき、IT系媒体でよく見かけるのが「激動の時代」「変化の時代」という言い回しだ。技術の発展が今も続いていることもあるが、それに伴う環境変化や技術の使いこなし方も、めまぐるしく変化している。企業ITにおいても、こうしたトレンドの変化を読み取り、業務プロセスの設計やユーザ体験の在り方、運用を含む業務の在り方を日々見直す必要がある。

 直近では生成AIの登場がそれに当たるだろう。2022年11月末にOpenAIが「ChatGPT」を公開して話題となり、わずか2カ月で1億ユーザーを突破して注目を集めたのが2022〜2023年にかけての出来事だった。大規模言語モデル(LLM)だけでなく、画像や動画、音の生成など多様な領域で生成AIモデルが続々と発表され、マルチモーダルな領域で生成AIを業務に組み込む方法を模索する企業は爆発的に増加している。2026年もこの「激動」は続くのだろうか。ITmedia エンタープライズ編集部は2025年12月8日、国内IT投資動向調査を発表したアイ・ティ・アール(ITR)の村井真人氏(アナリスト)を取材した。

「VMware問題」は一服 AI導入で画期的成果を出せない現場の問題が顕在化

 2026年を語る前に、まずは2025年を振り返ってみよう。

 「国内IT投資動向調査報告書2026」(ITR)によれば、2025年度(2025年4月〜2026年3月)のIT予算額について、47%の企業が前年度比で増額したと回答している。これは過去最高値を記録した2024年度の数値からさらに3ポイント増加したものだ。増加幅については、予算を10%以上増加させた企業が全体の19%、予算を20%以上増加させた企業が全体の5%となっている。

「国内IT投資動向調査報告書2026」(ITR)より

 「VMwareをはじめとするソフトウェアライセンスの値上げ問題は、ひとまず落ち着いたと見ている。2025年度は2024年度と比べると為替レートの影響は織り込み済みであったと思われるため、想定ほど大きくはなかったと思われる。しかし、IT投資予算の一部がこれらの問題への対応に充てられたのは確かだ」

 IT予算額の増加分がソフトウェアの値上げや為替に対応するために活用されているとするならば、新たな分野での投資を思うように増やせない企業もあるだろう。だが、大手企業は別だ。

 「大手企業の場合、ソフトウェアの値上げや通貨レートの問題がIT予算全体に占める割合は小さい。これらの問題は15%の予算増加で吸収できると考えている。つまり、15%を超えて予算を増加させた企業は新規投資を増やしていると考えられる」(村井氏)

 なお、本取材の後に、国内企業でも採用数の多い「Microsoft 365」におけるライセンス料金改定が報じられた。本稿掲載に当たり村井氏は「利用者の多い組織ほど影響を受けると考えられるが、昨今の物価高傾向から価格改定は想定の範囲内ではないか」との見解を示した。また、3月を決算期とする組織が多いことから「この時期に発表されたことで、多くの日本企業では、次年度予算に反映できると考えられる」との見解を示している。

 投資領域を見てみると、大手企業を中心にDX投資は一巡した一方で、AIやセキュリティの領域での投資が伸びている。

 「別の調査では、企業の約40%でセキュリティ投資が増加しており、引き続きセキュリティへの意識は高いことが分かる。約5%の企業で減少に転じているが、これは初期投資が一段落したためであり、セキュリティ投資を絞っているわけではないと見ている」(村井氏)

AI活用は注目を集めるが、課題も多い

 2025年冒頭に編集部が実施した読者調査によれば、短期・中長期ともIT投資の最優先事項は「AI活用」だった。この結果自体は予想通りだったが、「ITインフラ整備において重視するもの」は2024年と2025年とで大きな違いが出た。2024年はシステムの自動化や内製化が上位となった。2025年もそれらの項目は同程度のスコアとなったが、「生成AIの利用・導入」「データ活用基盤の整備」がそれらを上回るスコアとなった。

ITmedia エンタープライズ読者調査(2025年)より

 「データ基盤整備」を重視する企業が増えたことは注目に値する。過去の同様の調査と比較して「十分にデータ基盤を整備できている」とした回答が減り、「データ基盤整備ができていない」と認識する企業が増えた。「デジタル人材育成」「DX」の文脈では「データ基盤整備」はあまり注目されていなかったが、AIブームをきっかけに、AI Readyなデータ環境がないことが明らかになった組織が多いのではないだろうか。

 「国内IT投資動向調査報告書2026」(ITR)によれば2026年度に新規導入する可能性のある製品・サービスの項目では「AI/機械学習プラットフォーム」「AI支援開発」「生成A」が上位3つを占めた。また、投資増減指数の上位3つも「生成AI」「AI/機械学習プラットフォーム」「AI支援開発」とAIに関連する内容だった。

「国内IT投資動向調査報告書2026」(ITR)より

 企業のAIに対する関心は高い。一方、村井氏は「AIが企業に大きな変化をもたらす環境が整備されているかというと、不十分な部分もあるように思われる」と指摘する。AIを競争力に変えるためには、トランスフォーメーションの意味を全員が正しく理解し、導入を推進する必要があるのだ。そうでなければ、AIをツールとしてのみ使用し、個別業務の最適化という成果を得るだけになってしまうだろう。

 村井氏は現在の状況を指して、「DXという言葉が使われるようになった時期と似ている」と語る。同氏によると、DXを目指しながらトランスフォーメーションまでたどり着かずに、デジタルツールを使った個別業務の最適化のみが行われた例は少なくないという。

 「個別業務の最適化で終わってしまう企業の裏側には、ボトムアップ型の改善思考の限界があるのかもしれない。ボトムアップ型でDXやAI活用を推進しようとすると、担当者の業務範囲を超えた組織全体でのトランスフォーメーションという発想が生まれにくい」(村井氏)

 AIによる企業全体の最適化という視点は重要だ。村井氏によると、AIによりビジネスのあり方が大きく変わり始めると投資額がさらに増加し、生産性向上の効果も明確になるという。そしてAIに由来する人材削減も進むのだ。実際のところ、AIで成果を出している企業は全体最適化を徹底的に目指している。村井氏は、企業における各部署の横のつながりを担う人材の重要性を指摘した。

 「部署を縦割りで捉える発想だと全体最適化が進みにくい。AIで企業全体にトランスフォーメーションを起こすのであれば、全部署に横串を通す考え方が求められるだろう」(村井氏)

 このような連携は企業同士でも求められるという。すでに一定の規模を有する企業もベンチャー企業も含めて横の連携が強化されると、国産の巨大サービスなどが登場するのだ。

 そのような全体最適化を阻む課題として、村井氏はレガシーシステムのモダナイゼーションを挙げた。AIでトランスフォーメーションを実現しようとしたときに、レガシーシステムが制約を生み出す恐れがあるのだ。レガシーな環境を前提とした業務フローを維持したままAIを組み込んでも、理想の全体最適化は実現されない。

 同報告書には、主要なIT動向に対する重要度を調査した項目があり、レガシーシステムのモダナイゼーションについて「重要度が高い」「どちらかといえば高い」と回答した企業は50%を超えたという。つまり、半数以上の企業がモダナイゼーションに取り組まなければならない状態だ。

 「AI活用のためにデータ整備が求められるのであれば、まずは基幹システムを最新化しなければならない。自社のレガシーシステムがAI活用をどの程度妨げるのかを企業ごとに丁寧に考える必要があるだろう」(村井氏)

全体最適化のためには部門横断型の人材が必要

 企業が焦点を合わせているAI活用を全社で成し遂げるためには、部署同士の横の連携を強化し、レガシーシステムのモダナイゼーションにも対応しなければならない。そのときに重要なのが組織文化の改変だ。

 村井氏は「DXやAI活用が単一の部署の問題なのかというと疑問が残る。いずれもIT領域に大きく踏み込んだ内容になるため、情報システム部の担当業務だと考えられがちだが、果たして本当にそうなのだろうか。私は情シス部に閉じた取り組みにすると、全体最適化は難しいと考えている」と述べた。

 この点はセキュリティについても同様だという。セキュリティは情シス部の担当業務と認識されるが、セキュリティに領域にはサイバー領域を超えて対応が必要な項目が多く、バックオフィス部門が機密情報を保有しているケースも多い。

 2026年に向けてAI活用を推進するためには、部門横断型の取り組みが求められるのだ。その際に重要なのが「営業と経理について分かっている人材」や「経理と製品開発について分かっている人材」など、複数の部署に関する知見を持っている従業員だという。

 「こうした人材が増えると、全部門の連携が見えてくる。私は情シス部が人材輩出部門になるべきだと考えている。情シス部から他の部署に移った人材は、ITと各業務をより密接につなぐ役割を担う」(村井氏)

 一方、村井氏は「全体最適化の成果が見られるのは2年後から3年後になるだろう。なぜならば、人のマインドを変えるのが最も難しいからだ」と指摘した。ただし、2026年に見えてくる成果もあるという。それはAIエージェントに関する内容だ。同氏によると、2026年にはAIエージェントの導入が今まで以上に進み、企業ごとに「使える」「使えない」の判断がなされるという。

 このような先端技術活用の成果もふまえて、2026年はトップダウン型のリーダシップに基づく組織改革が重要な課題となるだろう。

 村井氏は「各課題は最終的に人材育成の問題につながると考えている」と総括する。単一の部署でAIに活用に取り組み、全体最適化の成果を実現するのは難しいのだ。AIを真の意味でビジネスに取り入れるためには、部署を横断する取り組みをもって全体最適化を果たさなければならない。

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