NTT東日本と組んだマイクロソフトの思惑Weekly Memo

NTT東日本、マイクロソフト、デルの3社が先週、中堅・中小企業のICT利活用支援で協業すると発表した。ここでは特にマイクロソフトの思惑について探ってみたい。

» 2013年02月25日 08時00分 公開
[松岡功,ITmedia]

3社のICTリソースを一体化した商品が登場

 「ICT利活用に不可欠なリソースを提供している3社が連携することで、中堅・中小企業向けに新たなサービスを提供していきたい」

 東日本電信電話(NTT東日本)の山村雅之社長は2月19日、日本マイクロソフトおよびデルと共同で開いた記者会見でこう語った。ハードウェア、ソフトウェア、ネットワークの大手ベンダーが中堅・中小企業のICT利活用支援で協業するのは、恐らく初めてのことだろう。

 3社が提供する新たなサービスは、NTT東日本が持つ光ブロードバンドサービスやサポートサービスと、マイクロソフトが持つOSやアプリケーション、クラウドサービスといったリソースを、デルのPCやタブレットとセットにしてワンストップで提供するものだ。

 具体的には、マイクロソフトが提供する最新OS「Windows 8 Pro」と、NTT東日本が提供する「オフィスまるごとサポート」のエージェントツールのインストーラをあらかじめセットしたデルの最新のPCやタブレットを「オフィスまるごとサポート搭載」モデルとし、NTT東日本が提供する「フレッツ光」、およびマイクロソフトが提供する最新のクラウドサービス「Office 365」や「新Office」と合わせて提供する。

 販売については、NTT東日本の光回線などの既存ルートのほか、デルのオンラインストアやコールセンターを通じて行う。

 これにより、中堅・中小企業は、自社での事前検討の時間やコストを削減でき、業務に必要なICT環境を速やかに導入することが可能になる。また、Office 365を利用することで各種業務に必要な作業をクラウド上で簡単かつ安全に行えるようになり、自社内にサーバを設置するといった高額な導入コスト負担なしに、手軽に最新のICT環境の構築とその維持が可能になるとしている。

 さらに、オフィスまるごとサポートのエージェントツールのインストーラがあらかじめPCやタブレットにセットされているので、デスクトップのアイコンをクリックしてインストールするだけで、オフィスまるごとサポートを利用することができるようになる。

 オフィスまるごとサポートでは、NTT東日本のサポートセンターの専門スタッフが、オフィスICT環境の状態監視や遠隔操作によって一元的に導入から運用に至るまでのサポートを行うため、ITスキルを有した人材が不足していても安心して利用できるとしている。

 左から、NTT東日本の山村雅之社長、日本マイクロソフトの樋口泰行社長、デルの郡信一郎社長 左から、NTT東日本の山村雅之社長、日本マイクロソフトの樋口泰行社長、デルの郡信一郎社長

NTT東日本が担ぐマイクロソフトの“戦略商品”

 NTT東日本の山村社長は今回の3社による協業の背景として、他国に比べて日本国内のICT利活用が進んでいないことを挙げた。総務省が行ったICT利活用に関する国際比較調査(2011年3月)によると、ICT基盤整備では日本がトップなのに対し、ICT利活用に関する評価では18位にとどまっている。これをして山村氏は「要は基盤があるのに使われていないのが日本の大きな課題。特に中堅・中小企業においては顕著だ」と指摘した。

 日本マイクロソフトの樋口泰行社長はこうした背景を踏まえた3社の協業について、「特にNTT東日本が持つ全国津々浦々のネットワークやサポートサービスを活用した今回の新サービスは、中堅・中小企業のICT利活用を促進する強力なエンジンになると確信している」とコメント。デルの郡信一郎社長も「創業当初から中堅・中小企業を強力に支援してきた当社ならではの新サービス対応商品群を用意した」と意気込みを語った。

 3社が今回の協業で、それぞれの持ち分であるハードウェア、ソフトウェア、ネットワークの分野でビジネス拡大を目論むのは当然として、筆者が興味深く感じたのは、NTT東日本とマイクロソフトの両社に垣間見える“戦略商品”への思惑である。

 NTT東日本の戦略商品は、今回の新サービスの中核でもある「オフィスまるごとサポート」だ。山村社長によると、「現在、オフィスまるごとサポートの契約者数は2万弱だが、今後4〜5年で100万規模に引き上げて主力商品にしたい」。同氏がここまで言うのは、このサポートサービスが同社にとって新たなストックビジネスになるからだ。今回の協業は、そのためにマイクロソフトおよびデルをはじめとしたPCベンダーと組むスキームを作ったといえる。

 マイクロソフトはもっと興味深い。同社の戦略商品は「Office 365」だ。今回の協業では、NTT東日本が新サービスの一環としてOffice 365の販売も手掛ける形となった。マイクロソフトにとって、クラウドサービスであるOffice 365が光ブロードバンドサービスとセットになり、それをNTT東日本が販売するというスキームはまさしく願ってもないことだろう。しかもNTT東日本は、オフィスまるごとサポートにおいてOffice 365もサポート対象にするとしており、販売とサポートサービスの両面でOffice 365を担ぐ格好となる。

 日本マイクロソフトの樋口社長は、今回の3社の協業におけるタイミングについて、「ここにきて日本全体に景気回復への気運が高まっている。私自身としては、小口のビジネスから活気が出てきているように感じており、今回の新サービスでまずは中堅・中小市場で3月の期末需要が盛り上がることを期待している」と語った。

 だが一方で、複数のIT調査会社が予測している2013年の中堅・中小企業のIT投資は、前年に比べて減少傾向をたどる可能性もあるとの慎重な見方が少なくない。果たして今回の3社の協業による新サービスが市場活性化への起爆剤になるか、注目したい。

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