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» 2013年03月05日 08時00分 UPDATE

クラウドコンピューティングは企業経営に何をもたらすのか【前編】

本稿では2回にわたり、企業におけるクラウドの影響力と経営上の価値について考えていく。

[金谷敏尊(ITR),ITmedia]

 クラウドコンピューティングがIT市場へ及ぼす影響や技術的価値については、依然として各所で語られている。IT業界関連者はクラウドの価値をよく理解しており、いまだに市場は過熱状態にある。一方で、こうした大型の技術革新は、かつてインターネットがそうであったように、一般市場に普及することでメガトレンドとして定着するようになる。すでにクラウドは、スマートフォンユーザーなどの一般消費者に必須のサービスとなりつつある中、法人需要も日増しに高まっているのが現状だ。

 そこで、本稿では、一般企業におけるクラウドコンピューティングの影響力と経営上の価値について考えてみたい。

クラウドコンピューティングの過去と未来

 まず、クラウドコンピューティングを取り巻く歴史を簡単に振り返っておこう。「クラウドコンピューティング」という言葉をはじめて用いたのは、米Google会長のエリック・シュミット氏であり、2006年のことだ。以来、グローバルで急速に普及したのは周知の通りである。

 NIST(米国立標準技術研究所)は、クラウドコンピューティングを「共用の構成可能なコンピューティングリソースの集積に簡便に、必要に応じて、ネットワーク経由でアクセスすることを可能とするモデルであり、最小限の利用手続きまたはサービスプロバイダーとのやりとりで速やかに割当てられ提供されるもの」と定義している。

 実は、このコンピューティングモデルの考え方は、突発的に生じたものではない。例えば、クラウドの基盤技術である「仮想化」がそうだ。コンピューティング資源の論理分割や動的割当て、消費量測定と受益者課金といった機能は、古くからメインフレームで既に実装されていた。1990年代には、集中処理から分散処理の時代に入り、メインフレームからC/S型アーキテクチャ、2000年代にはWebアーキテクチャへとコンピューティングモデルは変遷した。このオープン化の過程でもサーバ資源の論理分割やリソースプール化、および動的割当ての技術は存在し、オンデマンドで資源供給するサービスや製品は提供されていた。これは、ユーティリティコンピューティング(あるいは自律コンピューティング)と呼ばれていたが、特定ハードウェアへの依存性が強いなどの理由で十分な市場訴求ができず、沈静化した。

 メインフレーム時代の仮想化と現在のクラウドコンピューティングの相違点は、オープンプラットフォーム(ハードウェア非依存)への対応だけではなく、インターネットをはじめとする広域ネットワークでのアクセスを実現する点にある。このモデルで想起されるのは、2000年ごろから普及したASPであろう。

 ASPはアプリケーションサービスをネットワーク経由で提供するモデルだ。SaaS(サービスとしてのソフトウェア)に近いが、オンデマンドでの資源割当てやマルチテナンシーといったクラウドの特性を備えるものではない。ASPについては、現在も一定規模の市場があるし、NISTの定義に合致しないのにクラウドと称するサービスも少なくない。ただし、付け加えておきたいのは、大切なのはクラウドの定義ではなく、その提供価値という点だ。定義に沿っているかどうかにかかわらず、要求に見合ったサービスが求められている。現在のクラウドの隆盛ぶりは、ASPモデルでは不十分であったことを物語っている。

 さて、このように数十年単位で見てみると、クラウドコンピューティングというモデルが1つの完成形として浮かび上がった背景に、幾つかの技術進展の波があったことがうかがえる。では、クラウドコンピューティングもユーティリティコンピューティングのような一過性のトレンドなのだろうか。

 ITRは、クラウドを長期的なメガトレンドとして見ている。需要に合致したサービスであり、市場リーダーの価格訴求力が強いことがその理由だ。現在のクラウド市場は群雄割拠の状況だが、市場リーダーといえるプロバイダーの一部は、価格破壊といえる低廉な料金でサービスを提供し、自社でシステムを構築・運用するよりも安価に収まる場合がある。このことがクラウドの需要成長を支えている。

 技術革新がメガトレンドとして定着する過程には、低廉化と需要増加のシナジーが存在する。ここで興味深い仮説を紹介しよう。現在のクラウドの市場浸透は、約100年前に起こった電力システムの市場浸透のプロセスに類似するというアイデアである(図1)。

図1 メガトレンドの趨勢(出典:ITR) 図1 メガトレンドの趨勢(出典:ITR)

 現在、先進国における電力はユーティリティ化しており、大型発電所から供給されるのが一般的だが、それまでは私設発電所を備えるのが主流であった。ロータリー式コンバータをはじめとする技術革新を契機に、標準化と集約が進んだ。10年後には、サービスとしての電力システムを利用する実用化フェーズに入り、価格破壊と市場競争が起こる。ユーティリティといえる水準に達するには、そこから約20年の歳月を要している。「クラウド化する世界」の著者であるニコラス・G・カーは、実用化初期の1900年の電力システムの利用率は5%に過ぎなかったと指摘する。

 クラウドの仮想化技術のリーダーである米VMware、あるいは米Salesforce.comが台頭したのは1990年代の終盤である。そこから10年後に実用化(クラウド元年)フェーズに至るが、現状では、クラウドによるシステム資源の供給率は5%程度であり、電力の進展度合いに符号する。つまり、これまでのところクラウド市場は、電力システムと非常に近い発展軌跡を描いている。今後クラウドは、価格破壊や市場競争の時代へ突入するだろう。そうすれば、ユーティリティ化に至るまでに、さらに長い歳月をかけて、市場は成長を続けるであろうと予想できる。

著者プロフィール

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金谷敏尊(かなや としたか)

株式会社アイ・ティ・アール プリンシパル・アナリスト

テレマーケティング会社にて顧客管理システム、CTI、IVR等の構築・運用に従事。営業部長、統括事業マネージャーを歴任後、1999年より現職。現在は、アウトソーシング、データセンター/BCP、システム運用管理/ITサービス管理、仮想化/クラウド管理の分野を担当し、ユーザー企業におけるIT計画立案、インフラ構想化、RFP策定/ベンダー選定、TCO分析などのコンサルティングを数多く手掛ける。主な著書に「IT内部統制実践構築法」(共著、ソフトリサーチセンター)。


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