ブラック企業問題の本質松岡功のThink Management

若者の使い捨てが疑われる「ブラック企業」対策として、厚生労働省が9月から実態調査を始めると発表した。この機にブラック企業問題について考えてみたい。

» 2013年08月22日 08時00分 公開
[松岡功,ITmedia]

厚労省が9月に実態調査を開始

 厚生労働省が先頃、若者の使い捨てが疑われる「ブラック企業」について、9月から実態調査を始めると発表した。離職率が高かったり、長時間労働で労働基準法違反の疑いがあったりする全国の約4000事業所が対象となる見込み。調査期間は1カ月間で集中的に実施する。厚労省がブラック企業問題の対策に乗り出すのは初めてのことだ。

 同調査では、企業に対して長時間労働や賃金不払いの残業などの法令違反がないように指導し、再発防止の徹底を図る。過労による労災申請があった企業については、是正確認後も監督指導を継続するという。さらに重大で悪質な違反が確認され、改善がみられない企業に対しては、調査にあたった労働基準監督署が送検するとともに、社名や違反内容を公表するとしている。

 また、労働基準法の施行日である9月1日には、過重労働などに悩む若者からの無料電話相談(フリーダイヤル0120-794-713、午前9時から午後5時まで)を受け付ける。9月2日以降も、都道府県労働局や労働基準監督署などにある「総合労働相談コーナー」や厚労省のホームページ内にある「労働基準関係情報メール窓口」で相談や情報を受け付けるという。

 厚労省も実態調査に乗り出したブラック企業問題は、今や社会的に大きな関心事となっている。もともとブラック企業という言葉は、2000年代後半から若者を中心にインターネットを通じて広がった。その頃から、特に若者の働く環境が悪化していったことが背景にある。

 そんな中で2008年にリーマンショックが起き、ますます就職難の時代になった。就職活動が買い手市場になり、強気になった経営者が労働者を使い捨てるような過酷な働き方を強いるという構図が出来上がっていったようだ。

 「ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪」(文春新書)を執筆した今野晴貴氏が代表を務め、労働相談を行っているNPO法人POSSEによると、ブラック企業の典型例としては、長時間労働や過剰なノルマで社員を徹底的に働かせる「使い捨て型」、社員を大量に採用し必要な人材だけを残して辞めさせる「選別型」、セクハラやパワハラを放置している「無秩序型」の3つがあるという。

日本社会の変革へ向けたきっかけに

 振り返ってみると、昔から日本の企業にはブラック的な要素があったともいえる。ただその分、終身雇用や年功序列の賃金で、社員の生活を保障してきた。現場で社員をじっくり育てる風土もあった。そう考えると、ブラックと呼ばれる企業にはそうした視点がなく、社員をモノ扱いする経営者の感覚が問題視されているといえる。

 今野氏は著書で、「ブラック企業問題は、若者の未来を奪い、さらには少子化を引き起こす。これは日本の社会保障や税制を根幹から揺るがす問題である。同時に、ブラック企業は、消費者の安全を脅かし、社会の技術水準にも影響を与える」と記している。もはや労働にとどまらず、社会全体に大きな影響を及ぼす問題なのだ。

 同氏はまた、ブラック企業という言葉の意義についてこう述べている。

 「日本型雇用というこれまでのルールが崩れ去った今、何がしかの新しい秩序が求められている。これまでただ“自分を責める”ことしか知らなかった私たちの世代が、“ブラック企業”という言葉を発明し、この日本社会の現状を、変えるべきものだと初めて表現したことにこそ、この言葉の意義はある」

 このメッセージには、若者の使い捨てが疑われるブラック企業への警鐘にとどまらず、この問題を日本社会の変革へ向けたきっかけにしたいという意図が明確に見て取れる。これこそがブラック企業問題の本質だろう。

 ただ、気になるのは、この問題への注目度が高まるにつれて、一部のマスコミやネット上での論調が「バッシング」に終始しているようにも見受けられることだ。この問題を解消するためにこれから求められるのは「対策」であり、そのための建設的な議論だろう。今野氏が語るように、日本社会の現状を変革していくためにも冷静な議論が必要ではないだろうか。

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