IBMのロメッティCEOが説く新たな企業像松岡功のThink Management

日本IBMが先頃開いたプライベートイベントで、米IBMのジニー・ロメッティCEOが新たな企業像について説いた。示唆に富む内容だったので紹介しておきたい。

» 2013年10月24日 08時15分 公開
[松岡功,ITmedia]

IBMが掲げる「Smarter Enterprise」とは

 日本IBMが10月7日、顧客企業の経営層を対象に都内ホテルで開催した「THINK Forum Japan 2013」で、米IBMのジニー・ロメッティCEOが来日して講演を行った。「スマートな時代の競争優位とリーダーシップ」と題したその内容は、まさしく新たな時代に向けた企業のあり方を説いたものだった。

 講演を行うIBMのジニー・ロメッティCEO 講演を行うIBMのジニー・ロメッティCEO

 ロメッティ氏はまず企業を取り巻く状況について、グローバル化が一層進展する中でいかに情報を有効活用し、柔軟かつ迅速、そして的確にビジネスを展開していくかが求められていると説明。情報活用においては、ソーシャル、モバイル、クラウドといった技術革新から生まれるビッグデータをどのように分析し、生かしていくかが問われていると指摘した。

 こうした技術革新による新たな時代の到来に伴い、ロメッティ氏は「これからは企業のあり方も変わってくる」とし、新たな企業像を示す言葉として「Smarter Enterprise」を掲げ、「これからはSmarter Enterpriseの時代が到来する」と語った。

 では、Smarter Enterpriseとはどのようなものなのか。ロメッティ氏はその特徴について次の3つを挙げた。

 1つ目は、これからの企業のあらゆる意思決定は、ビッグデータの分析をもとに行われるということだ。「大量の情報が企業を取り巻く中で、今後は意思決定の頻度や複雑性がますます高まっていく。そうした中で正しい意思決定を迅速に行っていくためには、ビッグデータを分析することが最も有効な手段となる」と同氏は説く。つまりは、これまで経験と勘と度胸をもって行われるケースが多かった意思決定を科学的手法に基づいて行うようにするということだろう。

 2つ目は、企業にとって競争優位となる付加価値を創造する上では、インテリジェンスの注入が決め手になるということだ。同氏によると、例えば、電力分野におけるスマートメーターや自動車におけるIT化の推進が、インテリジェンスの注入を意味する。つまり、本来の機能に加えてさまざまな情報を活用できるようにすれば、新たな付加価値を生むことができ、ビジネスとしてよりスマートになるというわけだ。

 そして3つ目は、そうして得た付加価値を、これからは市場だけでなく個人に対して提供していくということだ。マーケティングの世界でいえば、「マス」や「セグメント」だけを対象にするのではなく、「ワン・ツー・ワン」を最も重視するという格好だ。これをして同氏は「平均値時代の終焉」と表現していた。そしてこうした取り組みには、ソーシャルエンゲージメントの手法などが効果を発揮するとも語った。

どうすればSmarter Enterpriseを実現できるか

 では、Smarter Enterpriseの実現に向けて、企業はどのような取り組みを行っていけばよいのか。ロメッティ氏はこの点についてもポイントを3つに整理して次のように語った。

 1つ目は、ソーシャル、モバイル、クラウドといった技術革新を積極的に取り込み、そこから生まれるビッグデータを分析・活用するためのIT基盤を構築することである。同氏はこの取り組みにおいて重要な点として、例えばクラウドならばハイブリッド型のように、ビジネス環境の変化に柔軟かつ迅速に対応できる仕組みづくりが肝要だと指摘した。

 2つ目は、従業員の仕事に対するモチベーションを高めるための企業風土の醸成である。この点については、仕事の生産性向上という狙いもあるが、同氏が強調したのは、従業員のモチベーションが上がれば顧客に対するエクスペリエンスを高めることができ、それがひいてはビジネスの成果に結びつくという考え方だ。その重要な道具立てとなるのが、ソーシャルネットワークである。ソーシャルを活用して従業員のエンゲージメントを高めていくことが、これからの企業風土の醸成には欠かせなくなると同氏は訴えた。

 そして3つ目は、1つ目と2つ目の取り組みを強力に押し進めるために、経営トップがリーダーシップを発揮することである。同氏によると、ここで最も重要なのは、経営トップは1つ目および2つ目の取り組みとも常に「顧客起点」の発想をベースに持つことだという。それを肝に銘じた上で、企業として継続的に新たな付加価値を生み出していけるようにするために、常に事業や組織を見直して変革していかなければならないと同氏は強調した。

 改めて、Smarter Enterpriseとはいったい何か。ロメッティ氏は「一言でいうと、新たな企業モデルをつくることだ」と語った。そして「情報は21世紀の新たな天然資源ともいわれている。この天然資源をいかに有効活用できるかによって、企業における競争優位が決まってくるだろう」との見解を示した。

 もちろん、IBMの経営トップの講演だけにITをプロモーションする意図は込められているが、経営とITの融合はもはや必然との見方が大勢を占める中で、ロメッティ氏の話は大いに示唆に富む内容だった。それにしてもSmarter Enterpriseという表現は、それこそスマートで心憎いばかりである。

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