地元を巻き込み市民の心を射止めた、モントリオール交通局のモバイルサービス：これが近未来のOne to Oneマーケティングか？（1/3 ページ）

カナダのモントリオール市内で地下鉄やバスなどを運行する交通局が、市民をターゲットにユニークな取り組みを始めている。現地に飛び、関係各所に話を聞いてきた。

[末岡洋子，ITmedia]

　カナダ・ケベック州にあるモントリオール市は人口約380万人、同国第2の都市である。そのモントリオール中心部の地下鉄、バスなどの公共交通機関を運行するのがモントリオール交通局（STM；Societe de transport de Montreal）だ。

　STMが地元のショップやイベント施設などを巻き込んで、市民向けにユニークなアプリを公開していると聞いて、現地で取り組みを聞いた。

公共交通の利用者にパーソナル化したサービスを

モントリオール交通局が運営する地下鉄

　モントリオールの公共交通機関は、東西南北を走る地下鉄4路線86駅、そして地上を走る190路線近くのバスにより網羅されている。一日の利用者は120万人、市民そして観光客も利用する大切な足だ。顧客の利便性改善と運賃の確実な徴収を目的にSTMは2008年、非接触ICカード「Opus」の提供を開始した。Opusの発行数は250万枚に達している。

　STMでは2020年に利用者40％増加という目標を掲げており、通勤以外にも公共交通機関を利用してもらう施策を考えていた。Opusはその第一弾となるが、その次のステップとなるのがモバイルアプリ「STM Merci」だ。

　2013年5月にパイロット運用をスタート。広告などは一切打たず、Opusユーザーに告知を行っただけだが、ダウンロード数は4カ月で約1万8000件、iPhoneのみのアプリであることを考えるとまずは順調な滑り出しといえよう。

　STM Merciは、モントリオール中心部のショップ、コンサートなどのイベント、交通手段などのパーソナライズされたオファーを受け取ることができるアプリだ。Opusカード情報を登録し、よく利用する路線や受けたいオファーなどの好みを入力するだけで自分に合うと思われるオファーが表示される。Opusカードを持っていないユーザーも利用できるが、Opusカード情報とのひも付けにより、さらに細かくパーソナライズされたオファーを受けられる。

　気に入ったオファーをクリックすると詳細が表示され、さらに「オファーを受け取る」をクリックすると利用の条件とともにバーコードやコードが表示される。これをショップや施設で提示する、という仕組みだ。

ピエール・ブルボ二エ氏

　例えば、「ショップ」カテゴリにあるベーカリーカフェでは、生成されたコードをSTMのチケットとともに提示すると、コーヒーが無料で提供される。「イベント」カテゴリのアイススケート場では入場料が2ドル割引となる。

　STMの最高マーケティング責任者（CMO）、ピエール・ブルボ二エ氏は、「イベント、レストラン、移動手段など、程よいミックスをそろえたかった」と語る。パートナー企業は、Opusユーザーへの調査により選択したという。最も多かったのが交通手段（自転車シェアリングサービス、カーシェアリング、長距離バスなど）、次いでイベント、日常のショッピングだったという。

　このアプリを実現しているのが、独SAPのクラウドサービス「SAP Precision Marketing」だ。インメモリ技術により高速処理が可能な「SAP HANA」を土台に、リアルタイムで位置情報、個人情報、好みなどのデータを掛け合わせて最適なオファーを出すモバイルソリューションである。

　これまでのOne to Oneマーケティングとは一線を画し、ユーザーの位置、時間、好みの各要素に基づき、プロフィール情報がなくてもパーソナライズされたオファーを提供できる点が大きな特徴だ。ユーザーはSTMの利用度に応じて3段階に分類されており、よく利用するユーザーには優先的に限定オファーが配信されたり、割引率を高くするなど細かな調整もできる。

オファーは「交通」「ショップ」「イベント」の大きく3つに分類されており、それぞれのタブから提携各社のオファー一覧を見ることができる（左）、地図上にオファーが表示され、最寄りのオファーをチェックできる。そこまでどうやっていくのかのナビ機能もある（中）、コーヒー割引を提供するベーカリーカフェ