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» 2013年12月09日 08時00分 UPDATE

Weekly Memo:NECの研究開発における懸念

NECが先週、研究開発における説明会を開いた。同社が注力する社会ソリューション事業への貢献がうたわれていたが、一方で気になる点も。筆者なりの印象を記しておきたい。

[松岡功,ITmedia]

「ビッグデータ活用のNEC」へ突進

 「NECの中央研究所はこれから、社会の課題解決へ向けた“価値共創研究所”になっていく」

 NECの研究開発部門の責任者で中央研究所を率いる江村克己執行役員は12月3日、同社が開いた研究開発における記者説明会でこう語った。

 記者説明会に臨むNECの江村克己執行役員 記者説明会に臨むNECの江村克己執行役員

 NECは昨年来、社会ソリューション事業への注力を強く打ち出している。従って、研究開発も同事業へ貢献することが大きな命題となっている。ちなみに同社が言う社会ソリューション事業とは、「人が豊かに生きるための社会インフラを、ICTを通して提供する」事業である。

 江村氏によると、社会インフラを支えるNECのICTソリューション領域としては、「パブリックセーフティ」「ビッグデータ」「SDN(Software-Defined Networking)」「スマートエネルギー」の4つが挙げられる。この4つの領域に対してそれぞれ「世界でナンバーワンあるいはオンリーワンの技術を継続的に創出している」のが、同社の研究開発における最大の強みだという。

 江村氏はまた、NECが社会ソリューション事業へ注力していく中で、研究開発の進め方も大きく変わってきているという。その最大の変化は、研究テーマの決め方にあるようだ。どういうことか。同氏は「社会ソリューションだけに、研究テーマは社会の課題そのもの。そこで社会の課題に直接取り組んでおられるお客様とともにその課題を解決するというアプローチを前提として、そのために必要な技術の開発に取り組んでいる」と説明した。

 つまりは、これまで顧客と直接やり取りすることがほとんどなかった研究開発部門が、顧客と共に研究テーマに取り組み、先進技術を生み出し、ソリューションに仕立てていくという進め方だ。具体的には同社の中央研究所が前面に立つことから、同研究所が顧客とともに新たな価値を創造する拠点となる。江村氏の冒頭の言葉は、その取り組み姿勢を示したものである。

 江村氏によると、同社が研究開発において現在注力している研究領域は、ビッグデータ活用に向けた「データ収集」「データアナリティクス」「データ分析基盤」、および「ネットワーキング」「セキュリティ」「サービス構築」「エネルギー」の7つ。特にビッグデータ活用では、認識や分析においていくつも最先端技術を保持しており、まさに「ビッグデータ活用のNEC」へ突き進んでいる印象だ。

話題に上らなかったビジネスソリューション

 記者説明会では、この7つのうち5つの研究領域における先進技術が7つ披露された。具体的には、ビッグデータ活用では「群衆の異常や危険を早期に察知する群衆行動解析技術」「プライバシーに配慮して人やモノの検出を実現するシート型プレゼンスセンシング技術」「水道管の高度かつ効率的な管理・運用を実現するスマート水マネジメント技術」「ビッグデータの分析処理を超高速化するコンピューティング基盤」の4つが紹介された。

 また、ネットワーキングでは「通信キャリアにおける異種ネットワークの一括管理・構成最適化技術」「災害時など通信断絶時の情報共有を実現するネットワーク技術」、セキュリティでは「機密データを情報漏えいリスクなしにクラウドで処理する秘匿計算技術」が紹介された。

 これだけの先進技術を目の当たりにすると、まさしくNECが企業理念に掲げる「C&C」(コンピュータ技術とコミュニケーション技術の融合)を体現しているようにも見えるが、筆者は説明を聞いて気になる点が2つあった。

 まず1つは、ビジネスソリューション領域に関する話が全くといっていいほどなかったことだ。社会ソリューションに注力しているのだから、当然なのかもしれない。また、研究開発に取り組んでいる先進技術は、社会ソリューションだけでなくビジネスソリューションにも適用できるとの算段もあろう。さらにいえば、ビジネスソリューション領域は事業部門が担う話なのかもしれない。

 しかし、ここまで社会インフラにかかわる話ばかりだと、NECはもうビジネスソリューションに見切りをつけたのか、とも勘ぐってしまう。もちろん、注力する領域を明確にするのが、まさしく「戦略」ではある。それにしても、と感じたのは筆者だけだったろうか。

 もう1つの気になる点は、スマートフォンの開発撤退に象徴されるように、NECがコンシューマー向け事業から手を引いている動きが、研究開発に与える影響だ。この先、ユーザー(消費者)ニーズが見えなくなってしまわないか。それがソーシャルやモバイルを扱うときに致命的にならないか。

 この点については、説明会の質疑応答で江村氏に問うてみた。答えは「事業として端末をやっていないとしても、全体のソリューションにおけるデータの入り口として全ての端末を想定しているので、研究開発への影響はない」とのこと。それこそ想定していた答えだったが、懸念は残り続けるだろう。

 NECの研究開発をめぐっては、今も筆者の記憶に残っている印象深い話がある。かつて同社のトップとしてC&Cを提唱した小林宏治氏が、その究極の姿であり自身の夢として挙げていたのが「自動翻訳電話」だった。

 確かに自動翻訳電話が実現すれば、世界がどんなに変わることか……。駆け出し記者だった頃、小林氏の話を聞いてワクワクしたのを覚えている。自動翻訳の仕組みは社会インフラともいえるだろうが、果たして今のNECにユーザーニーズをつぶさに汲み取った自動翻訳電話が開発できるだろうか。

 自動翻訳電話をめぐる話についてはあくまで筆者個人の思い入れだが、NECの研究開発部隊には小林氏が夢に描いたような想いというかDNAをぜひ引き継いでもらいたいものである。

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