なぜファンは西武ドームに何度も詰めかけるのか西武ライオンズのマーケティング改革(1/3 ページ)

2007年に観客動員数がプロ野球全球団で最下位になった埼玉西武ライオンズ。そこから“奇跡”のV字回復を遂げ、過去5年間でファンクラブ会員のチケット売り上げは約3倍に。果たしてその陰にはいかなる取り組みがあったのだろうか――。

» 2014年02月06日 08時15分 公開
[伏見学,ITmedia]

 2013年初夏、埼玉西武ライオンズが発表したニュースに、同球団のファンだけではなく、往年のプロ野球ファンが沸き上がった。1980年〜90年代にかけて西武ライオンズが築いた黄金期に着用していたホーム用ユニフォームが数量限定で販売されることになったからだ。こうした“復刻ユニフォーム”は、数年前からセ・パ各球団が開催しているシリーズ試合で選手たちが着用して対戦することから話題となり、今ではファンの間で即完売必至の人気グッズの1つとなっている。

 昨今、プロ野球人気の低迷が叫ばれる中、いかにファンを増やし、球場へ足を運んでもらえるか、各球団は知恵を絞り、あるいは球団同士で手を組み、このようなキャンペーンやイベントの企画、実施に力を注いでいるのだ。

 また、パ・リーグでは、2007年にパシフィックリーグマーケティングを設立。パ・リーグ各球団の地域密着やリーグ全体の振興への積極的取り組みを理念に、6球団共同でのイベント実施、チケット販売、スポンサーの獲得、さらには各球団の公式サイトのプラットフォーム統一など、マーケティング活動全般の強化を図っている。

リピーターを創出する「Lポイント」と「ステージ」

埼玉西武ライオンズの佐々木将之事業部長 埼玉西武ライオンズの佐々木将之事業部長

 冒頭で触れた西武ライオンズは、かつて“ファン離れ”に対して強烈な危機意識を持っていた。2007年に観客動員数で12球団最下位となり、球団の経営改革に向けて外部から新たな人材を登用するほか、CRM(顧客情報管理)システムを導入するなどして、マーケティング施策の強化を図った。その結果、観客動員数はV字回復。2011年には球団単体で黒字化し、2013年3月期決算では、営業利益が過去最高の約6億5000万円だった。この改革の旗振り役の一人となった佐々木将之事業部長は、「ファンクラブ会員の組織化が起点になった」と話す。

 どの球団においても観客動員数を増やすことで売り上げを伸ばすというのは基本中の基本。しかし、そのための戦略はさまざまだ。西武ライオンズの本拠地である西武ドームがあるのは埼玉県所沢市で、その立地環境から他球団と比べて人口のポテンシャルは高くない。来場者の多くは西武線沿線に住む埼玉、東京の人たちである。「広く浅く、“一見さん”を集客するビジネスモデルは厳しい。ロイヤルカスタマーを作り、リピーターを増やす戦略しかないと考えた」と佐々木氏は振り返る。

 そこで目をつけたのがファンクラブ会員だ。ファンクラブを中心にしたマーケティング施策に取り組むことで、ファンクラブ会員の来場回数を増やし、収益アップにつなげていく。そのために、CRMシステムを活用し、ファンクラブ会員のデータベースを整備するとともに、より粒度の細かいマーケティング活動を展開していった。

 ファンクラブ会員に向けた新たな施策の柱となるのが、「Lポイント」と「ステージ制度」だ。Lポイントとは、ファンクラブ会員が利用できる独自のポイントサービスのことで、観戦チケットやグッズ、球場での飲食物を購入することで付与される。また、西武ドームに来場したり、会員マイページに登録するお気に入り選手が活躍したりすることでもポイントを獲得できる。貯めたポイントは、チケットやグッズに交換することが可能である。

 ステージ制度は、年間の累計チケット購入額に応じてファンクラブ会員のステータスが上がっていくというもの。購入額の累計が5000円未満なら「一般」、5000円以上1万5000円未満なら「ブロンズ」、1万5000円以上3万円未満なら「シルバー」、3万円以上なら「ゴールド」となり、グッズなどの購入額に対するLポイントの還元率がそれぞれのステージで異なる。例えば、ブロンズでは3%、ゴールドであれば10%還元される。

 ステージ上位のファンクラブ会員にメリットがあるのは、単にポイント還元だけではない。プレーオフ試合「クライマックスシリーズ」の先行発売がステージ順に行われたり、新人選手の入団発表会に参加できたりなど、年間のイベントを通じてファンクラブ会員はステージを常に重視するような仕組みになっている。

 「チケットやグッズを多く買うファンクラブ会員ほど、貯まったポイントをチケットに交換したり、特別イベントに参加したりと、より大きなメリットを享受できるようになっている」(佐々木氏)

 購買意欲の高まりはデータが裏付けている。年間でチケット購入額が5000円以上のファンクラブ会員は約2.5倍に、3万円以上の会員だと約4倍に増えているという。ファンクラブ会員のチケット売り上げ全体では、2008年の約3倍に達している。

「Lポイント」と「ステージ制度」という新たな施策によって、会員のチケット売り上げが大幅に成長 copyright (c) SEIBU LIONS 「Lポイント」と「ステージ制度」という新たな施策によって、会員のチケット売り上げが大幅に成長 copyright (c) SEIBU LIONS
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