オラクルはクラウドサービスの低価格競争に参戦するかWeekly Memo

Amazon、Microsoft、Google、IBMなどが価格競争を繰り広げるIaaS型クラウドサービス市場。この激戦区にOracleは参戦するのか。日本オラクルの杉原博茂社長に聞いた。

» 2014年07月07日 08時00分 公開
[松岡功,ITmedia]

最大価値はデータベースのポータビリティ

 「No.1 Cloud Companyになる」

 日本オラクルの杉原博茂社長は、同社が7月1日に開いた今後の事業戦略説明会でこうぶち上げた。今年4月の社長就任会見でも掲げていた目標だが、同社にとって6月から新年度を迎えた中、東京五輪が開かれる2020年に向けて改めて「VISION2020」として宣言した格好だ。

会見に臨む日本オラクルの杉原博茂代表執行役社長兼CEO 会見に臨む日本オラクルの杉原博茂代表執行役社長兼CEO

 杉原氏によると、「このビジョンは日本オラクルだけが掲げているのではなく、ラリー・エリソンCEOをはじめ米国本社の経営陣も共通認識を持ってクラウド事業に臨んでいる」という。つまり、オラクルがグローバルで本格的にクラウド事業へシフトしていくことを表したものと言っていい。

 杉原氏が会見で説明した事業戦略の概要については関連記事を参照いただくとして、ここではオラクルのクラウド事業における基本的な考え方にフォーカスを当てたい。

 杉原氏はオラクルが考えるクラウドについて次のように説明した。

 「クラウドはヒト・モノ・カネに関わる情報が全てつながっていく新しいコンピューティング環境だ。クラウドの上でIoT(Internet of Things)やビッグデータ活用の世界も広がっていく。ただし、最も重要なのは、クラウドを使って実際に何ができるか、どういう価値を生み出せるか、だ。そこを明確にしないままクラウドへ一足飛びに乗り換えるのは、オラクルとしてお勧めしない」

 さらに、さまざまなクラウド形態への対応についてこんな見解を示した。

 「クラウドといえば、IaaS、PaaS、SaaSといったパブリッククラウドが話題に上るケースが多いが、プライベートクラウドでもさまざまな形態があり、それらを組み合わせて利用するハイブリッドクラウドが広がっていくと、まさに多種多様。そうなると、こうした環境を有効活用する上で最も重要になってくるのが、ポータビリティの高さだ。オラクルはさまざまなクラウド形態に対応した高品質な製品・サービスを品揃えするとともに、同一のアーキテクチャと業界標準技術によって、これからのクラウド利用に求められる高いポータビリティを提供していく。ここにオラクルの最大の強みがあると自負している」

 だが、この見解は、パブリッククラウドを推進するAmazonやGoogleは別として、これまで企業向け事業を展開してきたMicrosoftやIBMなどとそう大きく変わらない。違いがあるのは、杉原氏が「データベースのトップベンダーがクラウドに提供できる価値」として強調した「データベースのポータビリティ」である。つまり、オラクルとしては屋台骨であるデータベースの強みをクラウドにもスムーズにシフトしていけるかが、これからの勝負どころとなるわけだ。

IaaSをめぐる低価格競争への参戦は否定

 とはいえ、Amazon、Microsoft、Google、IBMなどが繰り広げているパブリッククラウドのIaaS市場をめぐる激戦は、サービスのバリエーションや価格においてクラウドサービス市場全体に大きな影響を及ぼしつつある。IaaS市場の激戦ぶりについては2014年6月9日掲載の本コラム「激戦区IaaS市場の行方」を参照いただくとして、「No.1 Cloud Company」を掲げるオラクルとして競合を追撃する考えはないのか。会見終了後の記者懇談会で、杉原氏に聞いてみた。以下、一問一答で記しておく。

―― オラクルは激戦区となっているIaaS市場に参入しないのか。

杉原 今、話題に上ることが多いIaaSの領域については、既にMicrosoftやAmazonのサービスを通じてオラクルの技術を利用することができるので、ユーザーから見れば選択肢に入っている。オラクル自身が参入することは、ビジネス上の観点からも今のところ考えていない。

―― パブリッククラウドにはあまり力を入れないようにも受け取れるが。

杉原 そんなことはない。パブリッククラウド全体からいうと、オラクルはSaaSの領域において世界で2位のサービスプロバイダーだ。さらに、これからはデータベースをはじめとしてPaaSの領域が大きく広がっていく。ただ、大事なのは、パブリックでどう、プライベートでどうというより、ハイブリッドを合わせたクラウド環境全体をシームレスにつなげて、ユーザーにどのような価値を提供していけるかだ。

 ―― その価値が明確でなければ、クラウドへ一足飛びに乗り換えることを勧めないと。

杉原 例えば、コスト低減を図ろうとパブリッククラウドへ一気にシフトするケースが見受けられるが、パブリッククラウドも長く使えばオンプレミスより高くつく場合がある。オラクルはそうしたさまざまな状況に応じた選択肢があることを、企業向け事業に長年携わってきた立場でユーザーに訴求していきたい。

 今回の本題である「オラクルはクラウドサービスの低価格競争に参戦するか」については、「今は考えていない」というのが杉原氏の答えだ。同氏は米国本社グローバル事業統括のシニアバイスプレジデントでもある。従って、同氏の発言は、グローバルなオラクルのクラウドに対する考え方を反映したものといえる。

 とはいえ、筆者はIaaS市場の激戦が今以上にクラウド市場全体へ多大な影響を及ぼしそうな気配になってくれば、エリソンCEO率いるオラクルは一転して追撃態勢に入るような気がしてならないのだが……。

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