データベースのインメモリ化がIT市場にもたらすインパクトWeekly Memo

ビッグデータの活用などに向け、データベースをインメモリ化して高速処理を実現した製品が相次いで登場している。この動き、IT市場全体にも大きな影響がありそうだ。

» 2014年07月28日 08時00分 公開
[松岡功,ITmedia]

業務処理を100倍から1000倍以上高速化

 「データベースのインメモリ化は、クラウド化やビッグデータ活用が進む今後のIT市場に大きなインパクトをもたらすだろう」

 日本オラクルの杉原博茂社長兼CEOは7月23日、同社が開いたインメモリデータベースの新製品発表会でこう強調した。

左から、日本オラクルの杉原博茂社長兼CEO、米Oracleのティム・シェトラー バイスプレジデント、日本オラクルの三澤智光専務執行役員 左から、日本オラクルの杉原博茂社長兼CEO、米Oracleのティム・シェトラー バイスプレジデント、日本オラクルの三澤智光専務執行役員

 日本オラクルがこの日発表したのは、主力のデータベース製品「Oracle Database 12c」のオプションとなるインメモリ機能「Oracle Database In-Memory」。Oracle Database 12cの処理性能をインメモリ技術によって飛躍的に向上させることができるという。

 インメモリデータベースとは、データをメインメモリ上の領域に格納するよう設計されたデータベースで、それを構築・運用できるデータベース管理システム(DBMS)製品も合わせた総称だ。従来のハードディスクなどのストレージ上に構築されるデータベースに比べ、データの読み書きを桁違いで高速に行えるのが最大の特徴である。

 データベースのインメモリ化を図った製品は、オラクルと競合するIBMやSAP、マイクロソフトなども力を入れているが、データベース市場ではグローバルで半数近くのシェアを持つオラクルが本格的に動き出したことで、市場競争は新たなステージへと移りそうだ。

 オラクルが満を持して投入したOracle Database In-Memoryの最大の特徴は、ロー(行)とカラム(列)型の処理を最適に組み合わせた「デュアル・フォーマット・インメモリ・アーキテクチャ」により、分析やデータウェアハウス、レポート生成におけるデータベースの処理性能を飛躍的に向上させるとともに、オンライントランザクション処理(OLTP)の高速化も図れるようにしたことだ。

 さらに、Oracle Database In-Memoryの機能は、Oracle Database上で稼働する既存のすべてのアプリケーションで容易に利用できるのも大きな特徴だ。プログラムの追加やアプリケーションの変更を行うことなくカラム型インメモリ処理のメリットを自動的に利用できることから、大幅な高速化を実現。Oracle Databaseのスケールアップ、スケールアウト、ストレージ階層化、可用性、セキュリティの技術が完全に統合されているという。

 Oracle Database In-Memoryはこうした特徴から、社内検証の結果として、同社の業務アプリケーションが100倍から1000倍以上高速化したとしている。

インメモリデータベースが当たり前に

 発表会見では、日本オラクルでデータベース事業を統括する三澤智光専務執行役員がOracle Database In-Memoryについて、「これは激増するデータをスピーディーにビジネス価値に変換するテクノロジー。いわばスーパーコンピュータ級の超並列インメモリデータ処理をOracle Databaseで実現したものだ」と説明してみせた。

 では今後、データベース市場においてインメモリ型が主流になっていくのか。それともインメモリ型はあくまでハイエンドレベルの利用領域に限られるのか。米国本社でプロダクトマネジメントを担当するティム・シェトラー バイスプレジデントはこの質問に対し、「私たちはインメモリデータベースが主流になっていくと見ている。この見方は有力な業界アナリストとも一致している」と答えた。

 ただ、ユーザーにとっては当然ながらコストが気になるところだ。オラクルの場合、インメモリ機能自体はオプション製品なので、「新規導入となる競合製品と比べるとはるかに低コスト」(三澤氏)と言うが、それでもOracle Databaseの旧バージョンユーザーはまず「12c」にアップグレードする必要がある。

 とはいえ、中長期で見れば、ビッグデータの活用ニーズがますます増大する恵まれた市場だけに、データベースのインメモリ化は当たり前のものになっていく可能性が高い。

 そうした中で、この動きはIT市場全体にも大きな影響を及ぼすことになりそうだ。ベンダー側からすると、まずインメモリデータベースのメリットをさらに生かせる高性能サーバの新規需要が見込める。これまで一部のハイエンドユーザー向けにとどまっていたハイパフォーマンスコンピュータ(HPC)の需要も高まってくるだろう。HPCを手掛けるベンダーは好機到来とばかり手ぐすねを引いている。

 ベンダーにとってもユーザーにとっても注目されるのは、インメモリデータベースのメリットを生かす形で、アプリケーションがこれからどのように進化していくかだ。これはすなわち、ビッグデータをどう活用するかということだろう。

 Oracle Database In-Memoryに関していえば、システムインテグレーション(SI)業界にも大きな影響がありそうだ。三澤氏によると、「新しいアーキテクチャを採用したことで、情報系データベースからインデックスという概念が基本的に消えた。これによってSIのコスト構造が大きく変わる」という。関係するSI事業者はすでに対応策を検討しているだろうが、その変化がどんな形で表に出てくるのか、注目したいところだ。

 最後に、データベースのインメモリ化によって今後の動向が注目されるのは、PaaS型クラウドサービスの市場がどのように変化していくかだ。といっても、PaaS市場はまだ黎明期ともいえるので、これからどのように形成されていくのか、と捉えたほうが正しいのかもしれない。オラクルが提唱する「DBaaS(ディバース)」もまもなく目に見える形になってくるだろう。そう考えると、データベースのインメモリ化は、IT市場の新たなステージの始まりを表した動きといえそうだ。

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