ITプロフェッショナルは知財にどう対応すべきなのか?栗原潔の知財とITの交差点

情報システム部門などのIT担当者の多くは、“知財”という言葉に「関係ない」と思うだろう。しかし、実はIT担当者にとって実に関係が深いのだ。本連載では、弁理士でもある筆者が、“IT担当者が知るべき法律や知財”を対象に、キーワードを挙げながら分かりやすく解説していく。

» 2014年07月30日 07時00分 公開
[栗原潔,ITmedia]

 知財立国、知財経営などのキーワードが頻繁に聞かれている。

 企業のIT部門担当者等のITプロフェッショナルはこの課題にどのように対応すべきなのか。具体的な対応イメージが湧かないとお考えの方も多いのではないだろうか。このコラムでは、そのような疑問に対応すべく、ITプロフェッショナルの読者にとって関係が深い知財関連テーマについて書いていきたい。

ITプロフェッショナルが知財を知るべき4つの理由

 ものづくりを行なう研究開発・生産部門であれば、技術的アイデアの模倣を防ぐための特許権は重要だ。マーケティング部門であればブランドの模倣を防ぐための商標権が重要だ。

 これらの部門において、知財が重要であるのは容易に分かる。では、ITプロフェッショナルにとって知財はどのような意味を持つのだろうか? 自分には関係ない領域として無視するのは得策ではない。それには大きく以下の4つの理由がある。

理由1:知財の範囲は思ったよりも広い

 ITプロフェッショナルが知財は自分の仕事とは直接関係ないと考えてしまいがちな理由のひとつは、「知財」(知的財産)という言葉が限定的に解釈されがちな点にある。「知財」とは一般に考えられているよりも範囲が広く、特許や商標等だけに限定される概念ではない。

 ひとことで言えば、知財とは「財産的価値がある情報」である。「情報財」と言い換えることもできる。知財の中で、特に法律に基づいた権利が付与され、保護されるものを知的財産権と呼ぶ。知的財産権に相当するのが特許権、意匠権、実用新案権、商標権などだ。

 知的財産権によって明確に保護されていなくても、企業としては価値の高い情報財は多い。典型的には、様々なノウハウ(営業秘密)や顧客情報などのデータ資産だ。これらも知財である(知的資産という言葉を使うこともあるが、本コラムでは知的財産(知財)で統一していきたい)。

 そう考えてみると、企業が今までKM(知識管理)の名の下に取り組んできた対象であるナレッジと知財は重なる部分が多い。当然ながら、IT部門にとって企業経営に貢献するKMの基盤を構築することは重要な使命だ。このことからも、「ITプロフェッショナルにとって知財はあまり関係ない」という見方が適切でないと分かる。

理由2:知財制度の適切な理解は適切な契約管理につながる

 IT部門にとって、委託業者やベンダーとの契約管理は重要だ。特にソフトウェア開発においては、プログラムが著作権法により保護されることから、著作権法の基本を理解することが不可欠だ。この理解が欠けていたために重大な結果を引き起こした事例もある(そのような事例についてはこの連載で具体的に触れていくことにしよう)。

理由3:IT部門のプロフィットセンター化には知財制度の理解が不可欠である

 IT部門が本来的にものづくりの組織である点には注意すべきだ。昨今、企業におけるIT部門の役割を疑問視する見方がある。社外のソリューションプロバイダーとの単なる中継役になっているのではないかという批判だ。特にクラウドの普及により、ユーザー部門がIT部門をバイパスして、自前のソリューションを構築することが今まで以上に容易になっていることでこの問題はさらに深刻になっている。

 IT部門の存在価値を増すひとつの方向性が、積極的に情報システム構築を行ない、社内だけではなく社外に向けても販売することでコストセンターからプロフットセンターへの脱皮を図ることだ。実際、そのような経緯で成功したソフトウェアパッケージ製品もある。

 ものづくりを行なう上では、模倣からの保護が重要な考慮点である。そのためには、特許の活用が重要になる。特に、外部からアイデアがすぐに分かってしまうUIに関するアイデアの模倣を防ぐことは特許制度の活用なしには困難である。

 また、今後ウェアラブル端末やIoT(モノのインターネット)の普及により、企業系の情報システムでも画期的なアイデアが生まれる可能性も増している。これをうまくマネタイズしていくことも、IT部門の「生き残り策」のひとつとして検討に値するだろう。純粋な意味での企業IT部門ではないが、日本総研などの一部SIerは企業系情報システム分野での積極的な特許出願を行なっている。

理由4:特許文献は最新技術の宝庫である

 特許制度の目的は他者の模倣を禁止するためだけにあるのではない。特許制度の本質は、発明(技術的アイデア)の公開の代償として一定期間(20年)の独占権を与えることにある。特許制度がなければ、企業は模倣を防ぐために発明を秘匿化せざるを得なくなり、業界全体で多大な重複開発が発生してしまう。特許制度はこのような事態を防ぐための妥協的制度とも言える。

 特許出願の内容は自動的・強制的に公開されて誰もが閲覧可能になる。他社の(特にイノベイティブな企業の)公開された特許出願は、他のソースからは得られない貴重な技術文献となり得る。たとえば、Googleが特許文献で公開したサーチエンジンのランキングアルゴリズムに関するアイデアは、サーチエンジン市場全体にとって貴重な情報源となったと言えるだろう。


 ということで、今後は不定期に、知財制度の基本、知財間連ニュース解説、重要特許文献の解説、情報システム部門へのアドバイス等について書いていく予定です。よろしくお願いします。

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