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» 2014年09月08日 08時00分 UPDATE

Weekly Memo:「エンタープライズ」を使わなくなったGoogleの深謀遠慮

Googleが企業向け事業を「Google Enterprise」から「Google for Work」に改称した。この動きにはGoogleの深謀遠慮がありそうだ。

[松岡功,ITmedia]

名称変更で「新しい働き方の提案」を訴求

 米Googleが9月2日(現地時間)、企業向け事業を「Google Enterprise」から「Google for Work」に改称すると発表した。これに伴い、例えば「Google Apps for Business」が「Google Apps for Work」になるなど、企業向け各種サービスの名称も変更された。

 同社のエリック・シュミット会長は、今回の名称変更について次のように語っている。

 「Googleが企業向け事業を始めた約10年前に比べて、今やクラウドは一般的なものとなった。さらにモバイルデバイスの活用によって働き方も変わりつつあるなど、仕事を取り巻く環境は大きく変化してきている」

 「そうした中でGoogleの企業向け事業は、従来ながらのエンタープライズサービスとしてビジネスを円滑に進めることだけを目指してきたわけではなく、すべての人々に対して新しい働き方を提案したいと考えてサービスを提供してきた。仕事を取り巻く環境が大きく変化しつつある今、そうしたわれわれの考えをより鮮明に打ち出すために名称変更することにした」

 また、同社のエンタープライズ部門を率いるアミット・シン プレジデントによると、「エンタープライズというと、ほとんどの人は大企業を思い浮かべる。しかし、Googleの企業向けサービスはあらゆる規模の企業に対応しており、エンタープライズという名称ではそぐわない面もある。そこで今回、エンタープライズ改め“ワーク”を前面に押し出すことにした」という。

 確かに、エンタープライズというと、大企業のイメージがつきまとう。Googleの今回の名称変更は、そうしたイメージに縛られるのを避け、「新しい働き方の提案」を前面に押し出して、企業だけでなく仕事をする個人にも訴えかけることで多くのユーザーを獲得しようという狙いのようだ。だが、今回の動きには、今後の企業向け事業におけるGoogleの深謀遠慮があるように思えてならない。

 では、Googleにどんな思惑があると考えられるか。今回の名称変更における同社のユーザーへのメッセージは、まさしくシュミット氏やシン氏が語った通りだと思うが、同社の今後のビジネス展開を考えると、非常に大事な点が1つ浮かび上がってくる。それは、企業向け事業におけるエコシステムの拡大である。

名称変更されたGoogleの企業向けクラウドサービスサイト 名称変更されたGoogleの企業向けクラウドサービスサイト

Apple・IBM連合への対抗策であり融和策

 Googleの企業向け事業における今回の名称変更は、ユーザーへのメッセージに掲げた狙いとは別に、事業戦略としてエコシステムの拡大に向けたメッセージが込められているようにも受け取れる。それは、同社が今後、直接エンタープライズ市場へ積極的に打って出ることはない、というメッセージだ。

 その狙いは、エンタープライズITベンダーと手を組んで協業しやすい環境を作ることにあるのではないだろうか。対象は、エンタープライズ市場で確固たる地歩を築いているシステムベンダーやシステムインテグレータだ。Googleはこうしたベンダーと幅広く協業することで、エコシステムによるエンタープライズ市場への攻勢を目論んでいるではないか、というのが筆者の見立てだ。

 Googleがこうした動きに出た背景にあるとみられるのが、先頃発表された米Appleと米IBMによる企業向けモバイルサービス分野での戦略的提携である。両社の提携は、モバイル端末で確固たる強みを持つAppleと、エンタープライズ領域をはじめとした企業向けシステムに強みを持つIBMが相互補完する形で、両社ならではの企業向けモバイル利用を促進するのが狙いだ。しかも提携内容において独占的なパートナーシップを締結したことから、業界内には大きな衝撃が走った。

 この両社の提携に対し、筆者は特にモバイル端末のOS、すなわちプラットフォームでAppleと市場を二分しているGoogleがどう動くかに注目していた。その第1弾が、今回の事業およびサービスの名称変更ではないか。

 Googleの深謀遠慮を感じるのは、Apple・IBM連合への対抗策であると同時に、融和策にも受け取れるからだ。対抗策は、先ほど述べたエコシステムの拡大である。分かりやすく言えば、IBM以外のエンタープライズITベンダーと密接な協業を行うことで、Apple・IBM連合に対抗できる企業向けサービスを提供していこうというものだ。

 では、融和策とは何か。Googleは今回の名称変更およびそこに込めた意図によって、エンタープライズ領域でIBMと真っ向からぶつかるのを避けたように受け取れる。これによって、IBMはGoogleの各種クラウドサービスを必要に応じて取り込みやすくなったのではないだろうか。これまでのエンタープライズを標榜したままのGoogleならば、そうはいかないはずだ。

 一方のAppleも、Googleとはモバイル端末のプラットフォームで激しく競合しているが、企業向けのクラウドサービスで真っ向からぶつかっているわけではない。つまり、Googleは今回の名称変更で、Apple・IBM連合にも取り入れる可能性を開いたのではないだろうか。

 そう考えると、Googleの今回の取り組みは、ただの事業およびサービスの名称変更ではないことが鮮明になってくる。まさに深謀遠慮のしたたかな戦略である。

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