HP分社化はIT業界再編の引き金になるかWeekly Memo

HPが先週、エンタープライズ部門とPC・プリンタ部門を分社化すると発表した。この動き、新たな業界再編の引き金になるかもしれない。

» 2014年10月14日 08時00分 公開
[松岡功,ITmedia]

メガトレンドに向けたサバイバル競争のうねり

 米Hewlett-Packard(HP)が10月6日(現地時間)、エンタープライズ部門とPC・プリンタ部門を分社化すると発表した。企業向けと個人向けの事業を分社化することで、それぞれの市場に対応した迅速な事業展開を図るのが狙いだ。

 発表によると、同社の2015会計年度が終了する2015年10月までに、サーバなど企業向けIT機器やサービスが主体の「Hewlett-Packard Enterprise」と、PC・プリンタ事業を手掛ける「HP Inc.」に分割する。

HP社長兼CEOのメグ・ホイットマン氏 HP社長兼CEOのメグ・ホイットマン氏

 現HPの会長・社長兼CEOであるメグ・ホイットマン氏がHP Enterpriseの社長兼CEOおよびHP Inc.の会長に就き、HP Inc.の社長兼CEOには現HPのプリンティング&パーソナルシステムズ担当エグゼクティブバイスプレジデントであるディオン・ワイズラー氏が就任する。

 今年7月までの直近12カ月の売上高は、HP Enterpriseが584億ドルで、HP Inc.が572億ドル。分割してもそれぞれ日本円にして6兆円を超す規模だが、それでも従来よりは身軽に立ち回ることができるようになる。

 注目されるのは、ホイットマン氏が「今後、それぞれの会社で的を絞ったM&A(合併・買収)の機会を探っていく」と明言していることだ。HPをめぐっては先月、米EMCと1年近く合併交渉を進めていたが破談になったとの報道もあった。業界筋では、HPの分社化を前提に交渉が再開されるのではないか、との見方も出ている。

 だが、今回の動きはそれにとどまらず、とりわけ企業向けIT事業分野において、新たな業界再編の引き金になるかもしれない。なぜならば、今回の動きの背景には、同分野におけるクラウド、ビッグデータ、モバイルといったメガトレンドに向けた熾烈なサバイバル競争があるからだ。

 既に兆候は表れている。今年7月に発表された米Appleと米IBMの提携がそれだ。両社の提携は、IBMが持つビッグデータ分析のノウハウをAppleのスマートフォンおよびタブレット端末向けに提供し、ビジネスアプリケーションの新しいひな形を通じて、企業のモバイル利用を変革していこうというのが狙いだ。M&Aではないが、「独占的提携」を行ったところに、両社のサバイバル競争に向けた強い思いが感じ取れる。

注目されるMicrosoft、Oracle、Googleの動き

 では今後、企業向けIT事業分野において、売上高数兆円規模の企業同士によるM&Aが起きるとすれば、どのような再編が予想されるか。現状の提携の度合いや事業の相互補完などを踏まえて考察してみたい。

 対象となる企業は、先に挙げたHP(HP Enterprise)、EMC、Apple、IBMに加え、米国のMicrosoft、Oracle、Google、Dell、Cisco、SAPといったところだろう。それに日本の富士通、NEC、日立製作所、NTTグループがどのようにかかわってくるかも興味深いところだ。

 まず、上記に挙げた企業のブランド力を見ておこう。英ブランドコンサルティング企業のInterbrandが10月9日(現地時間)に発表したブランド価値評価ランキングによると、Appleが1位、Googleが2位、IBMが4位、Ciscoが14位、Oracleが16位、HPが17位、SAPが25位と、7社が30位以内に入っている。このブランド力は当然ながら、再編をリードする大きな要素になる。

 今後の業界再編の目玉になるのは、やはりHP(HP Enterprise)の動きだ。まずは合併交渉再開の可能性があるEMCとの関係がどうなるのか。事業の相互補完という観点からみると、SAPとの提携関係をさらに深める可能性もありそうだ。

 EMCの動きも注目される。EMCは株価が振るわず、株主から変革を迫られているとも言われる。さらなる存在感を示すためにどうするか。合併交渉については、HPとともにDellとも行ってきたとの報道もある。さらに、急成長中のグループ企業である米VMwareを生かした展開を図れるか。一方でVMwareの売却話も流れたりしており、内部でさまざまな動きが錯綜していることがうかがえる。

 MicrosoftとOracleの関係も気になるところだ。両社はクラウド分野で緊密な関係を築きつつある。また、MicrosoftはSAPやCiscoとも良好な関係を維持しており、例えばクラウドやビッグデータ事業においてIBMやGoogleとの対立軸が明確になってくれば、これらの関係が一層深まることも考えられそうだ。

 こうした中で、筆者が最も注目しているのはGoogleの今後の動きだ。というのは、ブランド力とともに、クラウド、ビッグデータ、モバイルといった分野に対して実績とポテンシャルをどこよりも兼ね備えているとみられるからである。Googleが企業向けIT事業を熟知する企業と組めば、Apple・IBM連合をはじめ、他のグループにとっても大きな脅威になるのは間違いない。

 さて、そんな中で富士通、NEC、日立製作所、NTTグループはどう立ち回っていくか。これから起こり得る業界再編のステージには、日本企業もぜひ対等の立場で上ってもらいたいものである。

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