ITを駆使する金融業界とセキュリティの課題ビッグデータ利活用と問題解決のいま(1/2 ページ)

保守的なイメージのある金融業界ではビジネスへのIT活用が急速に進み、大きな変革期を迎えている。こうした中では注すべきセキュリティの課題も伴うが、それは何だろうか。

» 2015年04月07日 08時00分 公開
[笹原英司ITmedia]

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世界が注目する「金融×IT」のオープンイノベーション

 本連載の第5回で、オープンイノベーションを活用して新規事業開発に取り組むグローバル企業の事例を取り上げた。最近、同様の動きが活発化しているのが金融業界だ。

 ユーザーの利用する端末が、PCからスマートフォン、タブレット、ICカード、ウェアラブル機器へと拡大し、GoogleやTwitter、Facebook、LINEなど、ソーシャルメディア系企業が電子決済サービスを本格化させつつある。こうした中で既存の金融機関は、オープンイノベーションを介して「金融テクノロジー」(Fintech)系のスタートアップ企業とエコシステムを構築し、競争力の強化を図ろうとしている。

 Accentureが3月26日に公表した「Fintechと金融の未来」と題するレポートによると、世界のFintechベンチャーへの投資額は2013年の40.5億ドルから、2014年は122億ドルへ約3倍に拡大している。地域別にみるとウォール街を抱える米国の市場規模が大きいものの、成長率ではシティを抱える英国やアイルランドに加え、北欧諸国やオランダ、ドイツなど、欧州の伸びが顕著になっている。

 Fintechを積極的に支援している例には、金融機関同士の通信ネットワークを運営する国際銀行間通信協会(SWIFT)が2009年に立ち上げた「Innotribe」がある。筆者が2012年に大阪で開催されたSWIFTの「Sibos」に参加した時、モバイルペイメントなどの新技術の紹介はあったものの、メインテーマはコンプライアンス対応であり、Innotribe自体は話題になっていなかった。それが、今や「SWIFT Innotribe Incubator」など、Fintech系スタートアップ企業向けのオープンイノベーションコンテストを企画運営する組織として、金融以外の業界からも注目を集めるようになった。

Innotribe

 欧米ではLending ClubOn Deck Capitalなど、Fintech系企業による株式公開が行われている。この他に英Barclaysグループ、米Citiグループ(米国)、スペインのBilbao Vizcaya Argentaria銀行やSantander Central Hispano銀行、ロシア貯蓄銀行(SBERBANK)(ロシア)など、既存の金融機関がFintech向けの投資ファンドを設立したり、Fintech企業を買収したりするケースも増えている。

ビッグデータで高まる日本発ベンチャーへの期待

 他業種と比較して元々金融業界は、高度な金融工学の手法を用いた市場取引データの分析・予測や顧客関係管理(CRM)システムに基づくマーケティング施策など、ビッグデータへの発展につながるアプリケーションの要素技術が多く使われてきた。

 ITの観点からは、自前でシステムを構築するよりも、既存のIaaSやPaaSを活用しながら、SaaSとして独自のサービスビジネスモデルを立ち上げ、ビッグデータ向けの「DaaS(Data as a Service)」へ拡張を図る流れが広まりつつある。

 このような動きは日本にも波及している。例えば、三菱東京UFJ銀行が2月に、ICTを活用した新たな金融サービスの創造を目的としてベンチャー企業や個人などから様々なアイデアを募集するオープンノベーションコンテストFintech Challenge 2015」の開催を発表した(プレスリリース参照)。

 3月3日に開催された金融庁の第34回金融審議会総会・第22回金融分科会合同会合では、金融グループの業務多様化や国際化を踏まえた制度のあり方についての検討が諮問され(金融庁「第34回金融審議会総会・第22回金融分科会合同会合議事次第」参照)、Fintech企業によるイノベーションの推進に向けた規制緩和とコンプライアンス対応が議論される予定だ。

 また、人工知能「IBM Watson」を活用したプロジェクトへの取り組みもみずほ銀行(関連記事)や三菱東京UFJ銀行(関連記事)から相次ぎ発表されている。今後はFintechのオープンイノベーションを通じて、革新的な金融ビッグデータのアプリケーションサービスが創出されるかどうか注目される。

Fintechへの取り組みを表明した三菱東京UFJ銀行
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