世界の言語をつなぎ、国を越えて仲良く話せる人を増やしたい――金山博さん「自然言語処理」のプロに聞く(1/3 ページ)

人間の話し言葉を分析する「自然言語処理」が注目を集めている。耳慣れない言葉かもしれないが、Siriやしゃべってコンシェルなど、私たちは知らず知らずのうちにその恩恵を受けているのだ。そこで「Watson」のシステムを支える研究員に、自然言語処理の面白さと未来について聞いてみた。

» 2015年10月14日 08時00分 公開
[池田憲弘ITmedia]

 IBMの認知型テクノロジー「Watson」と言えば、読者の多くの方は知っているだろう。人間の話し言葉を理解し、膨大なデータを解釈することで自ら“学習”する――2011年2月に米国のクイズ番組「Jeopardy!」で同番組のチャンピオン2人を抑えてトップに立ったのは有名な話だ。

 番組関係者やIBMのエグゼクティブ、そしてWatsonに関わった研究チームのみが見守ったその会場に唯一参加した日本人がいる。IBM東京基礎研究所で“自然言語処理技術”の研究員として働く、金山博さんだ。自然言語処理とは、人間が日常生活で使う言葉(自然言語)をコンピュータに処理させることで、高度な検索・応答システムや予測変換などさまざまな技術の根幹にある。

 「幼い時から記号が好きで、言語についても、人とのコミュニケーションツールというよりも記号としての側面に興味があった」という金山さん。彼はなぜ自然言語処理の研究を始めたのだろうか。

人と機械の全く違う能力を共存させる

photo IBM東京基礎研究所に勤める金山博(かなやま・ひろし)さん。2000年4月に入社して以降、自然言語処理の研究を続けてきた

 金山さんが言語処理に興味を持ったのは大学2年生のとき。第二外国語でドイツ語を習得して以降、フランス語、中国語、スペイン語、イタリア語、韓国語と立て続けに外国語を学んだ。そのモチベーションの源泉となったのは「会話がしたい」といった類のものではなく、動詞の活用や語順といった文法の側面だった。

 「各言語に一定の規則があり、きちんと構造化されている点に魅力を感じました。その後、自然言語処理の本に出会い、簡単な文法で他の言語に翻訳する方法が分かったときは楽しかったですね。パズルを解くように言語の構造を解いていくのが心地良かったんです」(金山さん)

 言語が構造化されているなら、コンピュータでも理解ができるのではないか――。そう考えたことで、金山さんは自然言語処理の研究の道に進んでいった。当時から簡単な翻訳プログラムを試しに作っていたという。

 金山さんは、自然言語処理の面白さは「人と機械の全く違う能力を共存させる」ことにあると話す。「省略した言葉の論理関係を補完して把握するなど、人間が当たり前にしていることでも、機械にとっては難しいのです。逆に人が読み切れない量の文を機械は一瞬で読めます。この両者のいいところを組み合わせる。そんなアプローチに魅力を感じています」(金山さん)

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