「十数年前、奈良県生駒市の対話型情報案内システム『たけまるくん』で実証実験が行われました。生駒市北コミュニティセンターのサービスや施設を案内するシステムなのですが、利用者はそういう話題をあまり聞かずに『かわいいね』とか『今日は何してるの?』といったように、別の話をしてしまうことが多かった。少なくとも半分程度は雑談です。こうした背景から、最終的にはある程度雑談にも対応できるようにシステムの中身も変更する必要があったのです。
特にキャラクターを立てるなど、インタフェースを人間っぽくすればするほど、相手がシステムだと分かっていても、雑談などを通じて“人間関係”を作ろうとしてしまうことが分かっています。これは商用サービスの利用データを見ても同じ傾向であり、“メディアの等式”と呼ばれています」(東中さん)
人間が機械相手でも雑談をしてしまうのであれば、人間とコミュニケーションを取るおおよそ全てのシステムには、雑談機能がある方が望ましいといえる。雑談を仕掛けてみて、システムから「分かりません」と返されたら、それを使うモチベーションが下がってしまうし、妙な緊張感も生まれてしまうだろう。
東中さんによれば、雑談には「信頼感醸成」「嗜好の獲得」「思考喚起」「承認欲求の充足」といった効果があるという。特にユーザーの嗜好を自然に把握できる点は、雑談ならではの強みだ。
ここで1つの例を考えてみよう。Webの検索履歴などを基にした広告が表示されたり、商品をオススメされたりして、ある種の“気持ち悪さ”を覚えた人は少なくないはずだ。
しかし、これがロボットやスマホ内のエージェントキャラクターが相手だったらどうだろう。雑談をしているうちに、「そういえば、この間イギリスに行っていましたね」「家系ラーメンがお好きでしたよね。ここのお店はいかがでしょう?」と言われれば印象は変わってくるし、愛着も湧きやすい。本当の意味でユーザーの性格や趣味嗜好に合わせたシステムに近づけられるのだ。
「今、世の中にある対話型サービスの多くは、質問や要望への対応がメインですが、せっかく有用な知識や情報を持っていても、会話ができないシステムだと分かると、人は長く話すことができず、本題にたどり着けずに利用をやめてしまいます。雑談を織り交ぜることで、システムとの“関係性”を形成でき、顧客満足度を高められるのです」(東中さん)
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