突出する中国のフィンテック投資、日本では巨大な貿易金融に革新の期待がFintech Innovation Lab AsiaPacific Investor Day 2016 Report(1/2 ページ)

トランプショックが世界を駆け巡った9日、香港では新興のフィンテック企業を育成するプログラムの「卒業式」が行われた。アジア太平洋地域では、中国におけるフィンテック投資が突出しているものの、貿易立国の日本では輸出入に伴う貿易金融でさらなる革新の余地があるという。

» 2016年11月10日 08時30分 公開
[浅井英二ITmedia]

 「このスマホで出来ないの?」

 この素朴な問いに端的に表れているように、デジタルテクノロジーによって顧客の価値観は多様化し、厄介なことにGoogleやApple、あるいはAmazonのような巨大なデジタル企業が提供する優れた顧客体験にすっかり慣れ親しんでしまっている。当然のことだが、ほかの業界のサービスにも同じ水準の体験を期待し、そして、特にミレニアル世代以降は不満を抱き始めている。デジタルテクノロジーは、企業を取り巻く環境を顧客中心へと大きく変えようとしているのだ。

 こうした「デジタル経済」とも呼ばれる新たな経済環境では、新興企業が既存企業のビジネスを破壊し、瞬く間に世界有数のプレーヤーへと成長を遂げるのをわれわれは目の当たりにしている。非上場ながら企業価値10億ドル超のベンチャー企業が「ユニコーン」、つまり伝説の一角獣ともてはやされ、その代表格はよくご存じのUber Technologiesだ。しかし、実はこのユニコーンにはスマホ決済やオンライン融資仲介などの金融ベンチャー企業、いわゆるフィンテック企業が多い。多額の投資を呼び込んでいるユニコーンのリストも20社を下らないという。ほかの業界に比べてテクノロジーに依存しており、デジタル化が進みやすいからだろう。

 破壊ではなく、既存の金融機関との共生を模索するフィンテック企業が多いのも金融業界の特徴といえるだろう。実際のところ、共生型フィンテック企業への投資は伸びているという。既存の金融機関からすれば、より柔軟な着想で魅力あふれるサービスを生み出していくには、彼らの力を借りる「オープンイノベーション」は避けては通れない取り組みといえる。

大手金融20社がフィンテック企業の育成に参画

香港政府が運営する巨大なテクノロジーハブ、Cyberport内のシネコンが会場に

 ドナルド・トランプ氏の米大統領選勝利という「トランプショック」が世界を驚かせ、株式市場も混乱した11月9日、ニューヨークやロンドンと並ぶ国際金融センターの香港では、Accentureが「Fintech Innovation Lab AsiaPacific Investor Day 2016」を開催した。

 フィンテック企業の育成を目的とし、ニューヨークやロンドンに続き、2014年にAccentureが香港に開設したFintech Innovation Lab AsiaPacificでは、今年も100社を超える応募から8社が選ばれ、9月から育成プログラムが実施されてきた。米最大手のBank of America/Merrill Lynchを筆頭とするグローバル金融機関の幹部らから直接助言を受けるなど、その内容はユニークなものだ。日本からは三井住友フィナンシャルグループと野村グループがアソシエイトパートナーとして参画している。このInvestor Dayは、3カ月間にわたって行われた育成プログラムの「卒業式」ともいえる。

Accentureのジョン・アラウェイ氏

 「金融はテクノロジーに依存しており、もし導入を怠れば、これから顧客の柱となるミレニアル世代を中心に3割の顧客を失うだろう。金融機関もわれわれもフィンテック企業と協力して変化していかなければならない」

 そう話すのは、Fintech Innovation Lab AsiaPacificの責任者を務めるAccenture 金融サービス本部グループテクノロジーオフィサーのジョン・アラウェイ氏だ。

 Accentureの最新の調査によれば、アジア太平洋地域におけるフィンテック企業への投資は、年初から9月までの累計で前年比倍増の106億米ドルに達し、初めて欧米の合計を上回った。Alibaba Groupなどへの大型案件が続いた中国がその9割を占めて突出しているが、アラウェイ氏によれば、中国のフィンテック企業はスマホ決済やオンライン融資仲介に力を注いでおり、貿易立国の日本であれば、輸出入に伴うトレードファイナンス(貿易金融)は価値の高い領域であり、また、その基盤としてブロックチェーン技術を活用していくなど、まだまだイノベーションの余地が残されているという。

 「中国におけるフィンテック投資も大半は政府や国営企業からのもの。政策や規制緩和、さらにはファンドでも日本政府の後押しが求められるだろう」とし、ブロックチェーン技術に経済成長の牽引役を期待する日本政府にもエールを送る。

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