第37回 人工知能がセキュリティ対策にもたらす未来・前編日本型セキュリティの現実と理想(1/3 ページ)

どんどん進化する人工知能は、既にニュースなどでも取り沙汰されることが珍しくなくなった。この人工知能の進化が今後セキュリティ対策に何をもたらすのかについて述べる。

» 2016年12月15日 07時00分 公開
[武田一城ITmedia]

進化を続ける人工知能

 人工知能(AI)は、これまでもチェスや将棋など勝敗が分かりやすいゲームにおいて、既にトップクラスの人間と対戦しても優勢となる状況だ。もう、このような盤上で勝敗が決する分野では囲碁ぐらいしか残っていない。囲碁は、キングや王将を取れば勝ちというような明確な勝敗基準がないことに起因して、まだ人間がそれなりに優勢なのだろう。白と黒の碁石をお互いに陣地を作って広い方が勝ちという特殊なルールで、碁盤のマス目もチェスや将棋に比べて広い。このような特性から、現時点では人間がAIに対して一日の長がある――はずだった。

 その囲碁も先日(2016年11月23日)に開催された「第2回囲碁電王戦」の最終局で、趙治勲名誉名人が2勝1敗で日本製AIの「DeepZenGO」に勝利したという結果だった。2勝1敗だが、人間側の圧勝だったらしい。しかし、この1敗が実は大きい。2016年3月にGoogleの「アルファ碁」がトッププロに勝利した以外では初めてAIが勝利したケースだ。

 今回の結果によって、「人間 vs AI」という戦いは、人間がかなり有利なルールであったはずの囲碁でさえもどんどん人間側が不利になってきていることが明確になった。この状況は、今後あらゆる分野で見られるようになり、人間の作った技術が人間そのものを超えてしまう状況に近づいているのだ。

 その状況を生む原因とは、人間はミスをするが、コンピュータであるAIは、ロジックとプログラミングが正しければ絶対にミスをしないという点がやはり大きい。人間はその時の判断が体調や精神状態などに大きく左右される。絶対数という観点では訓練や事前準備などを積み重ねることで、ミスは少なくはなるが、ゼロにすることは不可能だ。ミスをしないことが勝敗に直結するような分野では、今後はAIがますます有利になるだろう。AIはデータが増えれば増えるほど、それだけ精度が向上し、どんどん強力になっていくのだ。

AIとはなにか?

 そもそもAIとは、コンピュータで処理されるプログラミングの1つに過ぎない。そのプログラミングに、「学習」「推論」「認識」「判断」など人間のような特性を持たせたものだとされる。通常のコンピュータは、与えられたプログラミングの指示に沿って動作しているだけに過ぎないが、AIを備えたコンピュータはデータによって蓄積したパターンを基に、状況に応じた適切な対応ができる。なお、後述する機械学習はAIの1つの分野であり、これは具体的な学習方法のことを述べているものだが、同じものを別の角度から見た特定の分野と理解すればよいと思われる。

 AIの研究は世界中で続けられているものの、(特定の分野に特化したものを除いて)現時点で人間と同じレベルの学習能力を持つコンピュータはまだ出現していないという。しかし、これはあくまでも“現時点”という話だ。

 AIが人間の知能を超える「シンギュラリティ(技術的特異点)」が近い将来に訪れるといわれ、これは「2045年問題」とも呼ばれる。30年先にも満たない比較的近い将来の話だ。そうなると、科学技術の進歩なども人類の想像力が及ばないレベルになってしまうかもしれない。コンピュータが人間の知能を超える――コンピュータが人間の全てを圧倒し、支配するSF映画のような時代はすぐそこにあるかもしれない。

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