ITリーダーが押さえておくべき「2017年以降のIT人材に関する展望」――ガートナー見解

2020年末までに日本のIT人材は質的に30万人以上の不足に陥り、また国内のIT部門の10%が組織の「一員」としてロボットやスマートマシンを採用するという。

» 2017年01月26日 08時30分 公開
[ITmedia]

 ガートナー ジャパンは1月24日、2017年以降のIT人材に関する展望を発表した。

 同社は、デジタルビジネスへの関心の高まりを受けてより機敏・柔軟・的確にITを活用できる人材がますます必要になるとみており、そうした状況を受け、ITリーダーが押さえておくべきIT人材を取り巻く環境と活用状況を取り上げている。

 同社が発表した展望は次の4点。

  1. 2020年末までに、日本のIT人材(ITサービスプロバイダーの技術者もしくはユーザー企業の情報システム担当者)は質的に30万人以上の不足に陥る
  2. 2020年までに、日本のIT部門の10%がIT組織の「一員」としてロボットやスマートマシンを採用する
  3. 2020年までに、オフショアリングを実施する日本のIT部門の50%が、コスト削減ではなく人材確保を目的とする
  4. 2020年までに、非IT部門が単独で進めるITプロジェクト(開発・運用・保守)の80%以上が、結局はIT部門の支援・助力を求めざるを得なくなる

 1つ目のIT人材の質的人材不足に関しては、多様な産業でデジタル化が進展する結果、IT人材をめぐる激烈な競争が生まれることを指摘。既に国内のIT人材の不足は深刻で、同社2016年12月に実施した国内調査では「IT人材が不足している」と回答した企業は全体の83.0%に上り、さらに全体の20.4%が少なくとも現状の1.5倍の人数が必要と考えていることが判明したという。

 今後はデジタル技術を用いた新分野での人材需要が増加するものの、既存のIT人材のスキル転換は容易ではないため、ミスマッチに起因する質的な人材不足が顕在化すると同社は予測している。

 IT人材が不足すると、IT部門が企業成長に貢献するITを実現できなくなり、企業競争力の低下も懸念される。そのため、ITリーダーは人員の確保に優先的に取り組むと同時に、「能力(ケイパビリティとキャパシティー)の確保」という観点からソーシングを見直す必要があると、同社は提示する。また、運用などの適合性の高い分野に関しては「人」にこだわらず、スマートマシンテクノロジーやオフショアリングを選択肢に含めることが重要としている。

 2つ目のロボットやスマートマシンの利用に関しては、深刻な人材不足の問題とデジタル化への取り組みがIT部門にIT組織設計の見直しを迫ることになると指摘。その中で、ロボットやスマートマシンをIT組織の「一員」として採用する企業が徐々に増加すると同社は予測する。特にコグニティブ技術を活用できる分野や、プログラム可能なプロセスなどが有望としている。

 ロボットやスマートマシンの採用は、代替対象となる定常業務に従事している技術者にとっては脅威となり得るが、IT人材市場においては、既存システムとの連携やソリューションの調整など、新しいスキルの需要が増加することにつながると指摘。また、技術者の育成にもポジティブな効果が予想されると同社はみている。

 従来は優秀な技術者ほど現場での引き合いが強く、新しい役割へのシフトやステップアップが難しい傾向があったが、優秀な技術者のノウハウや行動特性をソリューションによって再現できるようになれば、IT人材の健全な育成を阻んできた構造的な障害を排除する可能もあるとしている。

 3つ目のオフショア利用目的の変化に関しては、システム開発需要が急増した結果、国内でのIT人材調達が困難になったIT部門の一部がオフショアリングによる人材調達に本腰を入れて取り組み始めていると指摘。特に企業の認知度が低いなど、人材市場へのアピール力に欠けるIT部門や、グローバルにIT拠点を保有し、日本向けタスクもグローバル拠点に集約可能なIT部門を中心に、人材獲得を目的としたオフショアリングの活用が進んでいるという。

 一方、コスト削減を主目的としたオフショアリングは、現地におけるコストの急増、日本と比較した場合の品質と生産性の低さや改善スピードの遅さ、IT部門側の管理負担の大きさといった原因により、伸び悩んでいると推察。同社と顧客企業の対話でも、疲弊したIT部門がオフショアリングの縮小を検討するケースが見られたという。

 オフショアサイトで一定量以上のリソース規模を維持し、IT部門側にプロジェクト管理スキルを備えたバイリンガル担当者を配置するといった前提条件を満たせないIT部門は、コスト削減効果を得ることが難しくなるため、コスト削減を目的とするIT部門の割合は急速に低下し、人材獲得を目的とするIT部門の割合が急速に上昇すると、同社は予測している。

 4つ目の非IT部門によるITプロジェクトに関しては、マーケティング/営業、商品企画、製造などの非IT部門がIT部門を関与させずに社外のITベンダーと組んでデジタルビジネス関連プロジェクトなどを推進するケースが見られるようになってきたと指摘。2016年に同社が実施した日本企業のIT部門を対象にしたアンケート調査では、IT部門を介さずにデジタルビジネスを推進している企業は既に3割を超えていたという。

 同社では、この傾向は今後も増えると予想しているが、その一方、こうした非IT部門の取り組みの危うさを指摘するITリーダーも少なくないと指摘している。

 ガートナー ジャパン リサーチ部門マネージング バイス プレジデントの山野井聡氏は、「CIOやIT部門が懸念する通り、非IT部門が単独で進めるITプロジェクトはさまざまなリスクをはらんでいる」と解説。一般に非IT部門はITプロジェクト管理の経験に乏しく、ITセキュリティの観点から、専門的立場による監視・指導が必須になると指摘した。加えて、「IT部門が確固たる安定したアーキテクチャやデータ基盤を提供してこそ、その上でさまざまなデジタルビジネスにチャレンジできる」と強調。IT部門は、非IT部門との相互信頼を高めながら、デジタルビジネス関連プロジェクトにも早期から主体的に関与すべきと提言している。

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