MSが提唱する「インテリジェントクラウド、インテリジェントエッジ」とは何か Microsoft Focus(1/2 ページ)

「Microsoft Build 2017」で、「インテリジェントクラウド」「インテリジェントエッジ」という新コンセプトを掲げ、大規模分散データベース「Azure Cosmos DB」などを発表したMicrosoft。同社が見据える新たなクラウド戦略とは?

» 2017年05月20日 11時00分 公開
[大河原克行ITmedia]

 Microsoftのクラウドビジネスが急成長を遂げている。

 米Microsoftが発表した同社2017年度第3四半期(2017年1〜3月)の業績では、クラウドビジネスを中心とするインテリジェントクラウド部門の売上高は前年同期比11%増の67億6300万ドル。同社が掲げる2018年度通期200億ドルの売り上げ目標は確実に射程内に入ってきた。なかでも、「Microsoft Azure」は前年同期比93%増、法人向けの「Office 365」も45%の大幅な成長を遂げているのが際立っている。

 一方、現地時間の2017年5月10日から、米シアトルで開催された「Microsoft Build 2017」では、「Azure Cosmos DB」をはじめとする、クラウドに関連のさまざまな発表が行われ、同社のクラウドビジネスがさらに大きな歩みを進めていることを示した。

 来日した米Microsoft クラウド&エンタープライズ事業マーケティング担当の沼本健コーポレートバイスプレジデントの来日にあわせて行った本誌独占インタビューを通じて、同社のクウラドビジネスを俯瞰(ふかん)してみる。今回は、前編として、Build 2017で明らかになったクラウド関連の発表内容をお届けする。

Photo 米Microsoft クラウド&エンタープライズ事業マーケティング担当の沼本健コーポレートバイスプレジデント

次世代のキーは“インテリジェントなクラウドとエッジ”の有機的な連動

――米Microsoftが開催した開発者向け年次イベント「Build 2017」では、クラウド関連の発表が相次ぎました。どこが一番のポイントになりますか?

沼本:Build 2017では、これまでのBuildに比べて、クラウドの比重が高まったことは明らかです。開催初日に、サティア・ナデラCEOの講演に続き、クラウドやAIに関する話を持ってきたことも、この分野への関心の高まりと、Microsoft自らもそこにフォーカスしていることを裏付けています。

 また、Buildはずっとサンフランシスコで開催されていましたが、2017年はクラウドシティーと呼ばれるシアトルで開催した点も意味があるのではないでしょうか。シアトルには、MicrosoftやAWS(Amazon Web Services)の本社のほか、FacebookやGoogleもオフィスを構え、多くのクラウドエンジニアが集まっている場所です。その点でも、クラウドを重視したイベントであったことが分かると思います。

 なかでも注目すべきは、「インテリジェントクラウド」に加えて、「インテリジェントエッジ」という新たなコンセプトを打ち出した点ではないでしょうか。これは、サティアの基調講演で時間を割いて説明した部分でもあります。

 これまでMicrosoftでは、「モバイルファースト」「クラウドファースト」という言い方をしていましたが、それを進化させたものと捉えることもできます。

 もともとMicrosoftが言っていたモバイルファーストとは、デバイスのモビリティのことを指すのではなく、マルチデバイスによるユーザーエクスペリエンスのことを指していました。それを実現するために、モバイルファースト、クラウドファーストが表裏一体で存在したわけです。

 その世界をさらに踏み込んでいくと、インテリジェントクラウドとインテリジェントエッジが「対」になって位置付けられ、新たなコンセプトとして重要な意味を持つことになります。

――インテリジェントクラウドとインテリジェントエッジが「対」になっている点が重要であると?

沼本:これまでは、全てのデータをクウラドに上げるという話が多かったのですが、現実問題として、世の中にあるデジタルデータのうちの9割以上が過去2年に生成されたデータであるといわれるように、増え続ける膨大なデータの全てをリアルタイムでクラウドに送り込むことは難しいといえます。

 コネクテッドカーは、1秒間に100GBのデータを生成しているといわれますが、これを活用するには、クラウドとエッジを有機的に連動して動かすテクノロジーが必要になります。だからこそ、インテリジェントクラウドとインテリジェントエッジを「対」になった形で考えることが大切です。言い方を変えれば、ハイブリッドという表現ができるかもしれませんが、それをモダンな形で捉えたのが、インテリジェントクラウドとインテリジェントエッジです。

 モバイルファーストでは、iOSやAndroidでも、Microsoftのアプリケーションが動く世界を実現してきましたが、エンドポイントのデバイスでは、それだけにとどまらない環境になります。その点でも、インテリジェントエッジの考え方は、モバイルファーストの考え方を進化させたという捉え方ができます。Build 2017では、インテリジェントクラウドと、インテリジェントエッジによる新たな世界観を、実際のデモストレーションを交えて紹介しました。

――具体的にはどんなデモストレーションですか?

沼本:米MicrosoftのAzureチームからサム・ジョージが登壇し、北欧の工作機械メーカーが大規模なドリルや研磨機材の予兆保全を行うためにAzureによるIoT活用を導入した事例を紹介しました。

 従来、ベアリングの温度や振動などの情報を基にした機械学習によって、クラウドでモデルを作り、予兆診断をしていたのですが、データを収集して障害を察知し、緊急停止をしようとすると、約2秒かかっていました。この2秒でドリルが壊れてしまったり、作り上げている製品を破壊してしまったりといったことが起こる可能性がありました。2秒という時間が、機器や生産品への被害及ぼすだけでなく、作業者の安全面にも影響が出かねなかったわけです。

 そこで、データはクラウドに集めて、Azureが提供している最新のGPUを活用した潤沢なコンピュータリソースでAIや機械学習のテクノロジーを使い、DNN(ディープニューラルネットワーク)でモデルを生成。そこで出できたモデルを、Build 2017で新たに発表した「Azure IoT Edge」を使ってローカルのデバイスにデプロイすることで、ローカルで判断できるようになります。同じシナリオにかかる判断が、わずか0.02秒と、100分の1にまで短縮できます。より精度が高く、迅速な予兆保全ができるようになるのです。

 優れたコンピューティングパワーと、大量のデータを処理できる膨大なリソースを活用できるインテリジェントクラウドと、それをローカルにデプロイし、エンドポイントで判断するインテリジェントエッジが組み合わさり、それが何度も繰り返されることで進化していくということが大切です。クラウドとエッジが有機的に連動することで、これまでできなかったアプリケーションパターンが生まれ、それがこれからの標準になっていくという世界観を、Build 2017で新たに提示したのです。

 Microsoftはこれまで「Azure IoT Gateway SDK」を提供してきましたが、Azure IoT Edgeではそれを製品として提供することで、開発していだたくのではなく、より多くの方々に活用していだたけるようにするというステップに進化したともいえます。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ