CSIRT小説「側線」 第6話:海にて(前編)CSIRT小説「側線」(1/5 ページ)

あなたは「今の日本に本当に必要なセキュリティ人材」って、どんな人だと思いますか? サイバー攻撃のことなら何でも知っている人? プログラミングが得意な人? それとも……。夏休みスペシャルの今回、ひまわり海洋エネルギーのCSIRTメンバーがビーチで語る、意外なようで実はとっても「リアル」なお話。

» 2018年08月17日 07時00分 公開
[笹木野ミドリITmedia]
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この物語は

一般社会で重要性が認識されつつある一方で、その具体的な役割があまり知られていない組織内インシデント対応チーム「CSIRT(Computer Security Incident Response Team)」。その活動実態を、小説の形で紹介します。コンセプトは、「セキュリティ防衛はスーパーマンがいないとできない」という誤解を解き、「日本人が得意とする、チームワークで解決する」というもの。読み進めていくうちに、セキュリティの知識も身に付きます


前回までは

メタンハイドレート関連の貴重な技術を持つ、ひまわり海洋エネルギーのCSIRT。ベテランに育てられながら奮闘する若手メンバーの潤とつたえは、ランサムウェア攻撃に対応しようと独断で動いた結果、かえって攻撃を助長してしまう。ベテランに叱責されて落ち込む2人は、チームに必要な戦力になろうと決意を固めるのだった。

これまでのお話はこちらから


@バー チャタムハウス

 オーナーの大河内(おおこうち)とママの山賀(やまが)が話をしている。

 「山賀っちゃん。2号店もできたことだし、ここでパーっとBBQ大会でもしない? 大山のママも誘ってさ。それと、ここによく来ているCSIRTのメンバーにも声掛けたら? そうしよう、それがいい、今決めよう、すぐ決めよう。電話しよう」

 大河内は電話をかけ始めた。

 「サーフ・マツカータ? あー、俺。そう、いつもの感じでBBQ予約したいのだけど。空いている? ああ、その日なら大丈夫? オッケー。じゃ、押さえといて、10人くらいかなー。じゃ、よろしく」

 とっとと決めてしまった。まだ、CSIRTのメンバーに声すら掛けていないのに。山賀は、いつものことながら大河内のせっかちさにあきれた。

 「じゃ、山賀ちゃん、あとはよろしく」

 大河内はうれしそうに言って帰った。

@サーフ・マツカータ

Photo 本師都明:先代のCSIRT全体統括に鍛え上げられた女性指揮官。鍛え上げられた上司のすばらしさと比較すると、他のメンバーには不満を持っている。リーガルアドバイザーを煙たく思い、単語や会話が成立しないリサーチャー、キュレーターを苦手としている

 本師都明(ほんしつ メイ)は夏の日差しの中、海岸沿いの海水浴客や沖合のサーファーを横目に見ながら歩いている。駅から15分ほどかかって目的の店に着いた。店から眺める海の色が、夏を強く主張するように青い。

 ――これはタクシーで来た方が良かったわね。あ、もう誰か来ている。

 メイは店の奥を見た。

 赤銅色の肌にタンクトップを着た、ゴム草履の男だ。とても堅気には見えない。

 「あ、大河内さん、早いですね」

 メイがあいさつする。

 「今日はどなたがいらっしゃるのですか?」

 「山賀っちゃんが案内していたみたいだけど、メイちゃん、つたえちゃん、かおるちゃん、志路(しじ)さん、虎舞(とらぶる)ちゃん、潤ちゃん、見極(みきわめ)さん、深淵(しんえん)さん、折衷(せっちゅう)さん、山賀ちゃん、大山さん、と俺。の12人だよ」

 ――結構集まったな。メイは思った。

 タクシーが着いたようだ。ガヤガヤと声がする。志路、見極、宣託(せんたく)、折衷が降りて来た。もう1台着くと、虎舞、潤、深淵、つたえが降りてきた。

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