「APT1のソースコード、再利用」の謎 韓国狙いの攻撃を解析したMcAfeeの見解はMPOWER 2018

McAfeeは、2006年から2010年にかけてAPT1が用いていたマルウェアのソースコードが、2018年5月に韓国などをターゲットにした攻撃キャンペーンに再利用されていたとするレポートを発表した。

» 2018年10月23日 07時00分 公開
[高橋睦美ITmedia]
Photo McAfeeのチーフサイエンティスト兼フェロー ラージ・サマニ氏

 McAfeeは2018年10月17日、年次カンファレンス「MPOWER 2018」において、2018年5月末から8月にかけ、韓国とアメリカ・カナダをターゲットにして展開された攻撃キャンペーンに関する調査レポートを公表した。

 同社のAdvanced Threat Researchの調査によると、一連の攻撃で用いられたマルウェアの一部は、2006年から2010年にかけて活動していた「APT1」(別名:Comment Crew)が用いたマルウェア「Seasalt」のソースコードを「再利用」しており、国家組織を背景に持つ2つの攻撃主体の間で「コード共有に関する合意がなされている可能性を示すものだ」と、McAfeeのチーフサイエンティスト兼フェローのラージ・サマニ氏は説明した。

 サイバー犯罪者がアンダーグラウンドで流通している攻撃ツールやインフラを共有したり、使い回したりするケースはこれまでにも報告されていたが、特定のターゲット、特定の環境を狙って執拗に攻撃を続けるAPTにおいて、攻撃ツールが異なるグループ間で共有されることは珍しい。

 APT1は、2006年から2010年にかけて、主に米国企業をターゲットに活動していた攻撃グループの総称で、141社以上がその被害に遭ったとされる。この攻撃キャンペーンについて報じたMandiantのレポートをきっかけに、国家主体をバックに持つ攻撃グループによる高度で継続的な攻撃――「APT」(Advanced Persistent Threat)という言葉が知られるようになり、一般化していった。

 McAfeeが「Operation Oceansalt」と名付けたこのキャンペーンでは、少なくとも5回に分けて攻撃が実施された。1度目と2度目は韓国の高等教育機関や公共インフラプロジェクトが、3度目は韓国をベースにする国際協力基金がターゲットとなり、4度目と5度目の攻撃は米国やカナダでも報告された。日本への攻撃は確認されていない。

Photo Operation Oceansaltの攻撃概要

 いずれも主なターゲットは韓国語の話者で、韓国語で書かれた公共インフラに関する調査結果などに見せかけたMicrosoft ExcelやWord文書が添付されたスピアフィッシングメールが最初のトリガーとなっている。

 もしこのファイルを開いてしまうと、韓国内にあった改ざんされたWebサイトからマルウェア本体がダウンロードされる。このマルウェアは外部のC2サーバと通信を行い、バックドアを作って継続的に活動し、リバースシェル経由で情報を盗み取る。こうした一連のプロセスは過去のAPTと同様であり、「ターゲットとなる人物や環境を入念に調査した上で攻撃が行われている」とサマニ氏は述べた。

 McAfeeがOperation Oceansaltで用いられたバイナリを解析したところ、中国人民解放軍の支援を受けたハッカーグループ、APT1が2010年に利用していたSeasaltと同じ文字列が見つかった他、コマンドハンドラやインデックステーブルにも共通点があった。さらに、リバースシェルを作成するコードも、SeasaltをはじめAPT1が使うものと同じであり、ソースコードの共有なしにこれほど多くの共通点を持つプログラムを開発するのは困難だという。

 「その上で、より新しい暗号技術を用いていたり、巧妙な難読化テクニックを用いていたり、またコンパイル時の環境変数も変更するなど、Seasaltよりもさらに進化していた」(サマニ氏)

 McAfeeによるとSeasaltとOceansaltには多くの共通点がある一方で、Seasaltのソースコードが公に流通した形跡も、アンダーグラウンドで売買された形跡も見つからない。ここから幾つかの可能性が考えられるという。

 1つは、「Operation Oceansaltの攻撃主体は、APT1のソースコードや開発環境へのフルアクセスを得ていると思われる」(サマニ氏)というもの。つまり2つの攻撃主体間で攻撃コードが共有され、再利用されている可能性だ。もう1つは、Operation Oceansaltのメンバーが個人的にOceansaltへのアクセス権限を得た可能性。そして「あくまで推測」としながらも、コードを再利用することで他者に罪を着せる、つまり今回の場合は中国と北朝鮮による攻撃に見せかける第三者の「偽旗作戦」の可能性も考えられるという。

 Operation Oceansaltの狙いは金銭目的、スパイ目的などが考えられるが、真の目的はまだ不明であり、McAfeeは引き続き調査を続けるとしている。

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