顧客らは革新的なITシステムを求めているとサンのミラー社長
飛ぶ鳥も落とす勢いだったSunもバブル消失後は厳しい決算が続く。しかし、「われわれが実装で守勢に回ることはない」とサンのミラー社長は話す。次なる飛躍に向けた革新的な取り組みに怠りはないと自信を見せる。

1990年代後半のインターネットブームを演出し、大型のSMPサーバ、いわゆる「ビッグアイアン」で利益を叩き出したSun Microsystemsだが、バブル消失後は売上高が10四半期連続で減少するなど、その陰りは明らかだ。しかし、昨年7月、日本法人の社長として着任したダン・ミラー氏は、「この2年、Sunは次なる飛躍に向けて革新的な作業を続けてきた。実装で守勢に回ることはない」と自信を示す。

ITmedia 調査会社の最新のレポートを見ても、2003年のUNIXサーバ市場は引き続き縮小傾向にありました。サンにとってはどんな年でしたか。

ミラー UNIXシステムだけを見れば、確かに企業は支出を削減しています。しかし、大きく成長しているLinuxは、基本的には同じ枠組みのUNIXオファリングだと考えています。

 われわれのサーバ向け基盤ソフトウェアセット、「Java Enterprise System」(コードネーム:Project Orion)は、ミドルウェアに革新をもたらすものです。これはSolaris(SPARC版およびx86版)だけでなく、Linuxもサポートしていきます。また、Linuxをベースとした、Windowsに代わるセキュアなデスクトップ環境、「Java Desktop System」(コードネーム:Project Mad Hatter)も信じがたい革新をデスクトップにもたらします。


Sunは革新的な「システム」カンパニーだと強調するミラー氏

 Linuxは安価な32ビットコンピューティングに適しており、成長しています。われわれもそれを認め、x86サーバを投入しました。これはDellと比較しても低価格な戦略製品となっています。さらに、われわれは顧客らのニーズにこたえるべく、ローコストコンピューティングへの移行を積極的に進めています。昨年11月のCOMDEX/Fallでは、32/64ビット互換の「AMD Opteron」を搭載したSun Fireサーバも発表し、さらに今春にはSPARCのロードマップを前倒しして製品化する予定です。Sunには、ローエンド、ミッドレンジ、そしてハイエンドのすべてに革新をもたらす選択肢があります。

 ただ、改めてお話ししたいのですが、こうしたコンポーネントも重要ですが、われわれはスタンダードをベースとした革新的で性能に優れた「システム」を構築し、顧客に提供することに最もフォーカスしています。ピストンやワイパーといったコンポーネントを単体で見ても自動車産業のトレンドは見えてきません。われわれの顧客は、ベストのプライスパフォーマンスが得られるシステムを求めているのです。

ITmedia 顧客にとってベストなプライスパフォーマンスが得られるシステムとは、具体的にはどういうものでしょう。

ミラー それは単にハードウェアに限ったことではありません。例えば、SolarisはSunにとってまさに「Crown Jewel」(冠の宝石、極めて重要なもの)ですが、その高い信頼性をもたらす機能をミッドレンジやローエンドでも提供していきます。顧客にとってはソフトウェアが最も重要で守るべきを資産です。われわれはSPARC/Solarisでシングルバイナリ互換を一貫して保証してきましたが、ソフトウェア資産の保護もベストなプライスパフォーマンスを得るためには重要なことだと考えています。

 本当にカギを握っているのは、実装(インプリメンテーション)です。この点で、ほかのライバルたちに対してわれわれが守勢に回るようなことはありません。

 x86版のSolarisも顧客らのニーズにこたえて再び力を注いでいきますし、SPARCのインプリメンテーションも富士通がハイエンド領域で優れたパフォーマンスを提供してくれています。顧客らはベストなアーキテクチャを選択できると思います。

ITmedia しかし、顧客らはコスト面で有利な、いわゆるコモディティー化されたITを求めているのではないでしょうか。

ミラー 最近も幾つかの顧客やパートナーらを訪問しましたが、だれ一人として「IT Doesn't Matter」(ITなんて重要でない)と言う人はいません。

 もし、その「IT」が古い定義、つまり、中央集権的で、セキュアでなく、情報へのアクセスが難しく、定型的なレポートしか出してくれないものだとすれば、そんなITはもはやどうでもいいかもしれません。しかし、われわれが投資しているソリューションは、コストと複雑さを軽減し、Webベースのサービスを迅速に展開でき、そして、セキュリアなモビリティです。

 SunはそうしたモダンなITの最前線にあり、われわれの取り組みが戦略的に重要だと彼らは話しています。

ITmedia セキュリティの高いモビリティ実現への近道は、「Sun Ray」の普及だと思っています。エンタープライズだけでなく、コンシューマーの市場でも可能性がありそうですが、いまだ広く受け入れられていません。

ミラー Sun Rayは、Sunでは3万人の社員によって利用されています。JavaCardさえあれば、世界中、どこにいても自分のオフィスにいるかのように仕事ができます。これこそわれわれのネットワークコンピューティングです。夢ではなく、既に実現されているものです。

 Sun Rayは社内のさまざまなテクノロジーの組み合わせです。われわれは個々のテクノロジーを進化させると同時にそれらの統合の度合いも高め、Sun Rayとして政府や教育機関に提供してきました。米国では国防総省のような導入事例もありますし、日本でも幾つかの大学で導入が始まっています。JavaCardによるセキュリティの高さから先ず官公庁で採用され、企業にとっても有効なソリューションだということが理解されれば、しだいに普及が広がっていくと思います。

 Sunは常に夢を実現してきました。しかし、そのためにはボリュームが必要で、そこに到達するにはある程度の時間がかかります。

 われわれはは1982年、世界で初めてTCP/IP機能をビルトインしたバークレー版UNIX(BSD)ワークステーションを出荷し、それまで高価だったUNIXマシンをだれでも自由に使えるものにしました。1995年にはOS環境を超えて動作するネットワークプログラミング言語としてJavaをデビューさせました。どちらも最初は夢物語だと言われました。しかし、今やすべての機器がグローバルなネットワークに接続し、300万人のデベロッパーがJavaを支持してくれています。

 Sunはこの2年、データセンターの可用性を高め、顧客自身が簡単に管理できるシステムを提供すべく、N1をはじめとする革新的な作業を進めてきました。昨年12月のOracleWorld Tokyoでは、世界初となる128ノードの大規模グリッド環境の稼動にも成功しています。われわれは、次なる飛躍に向けた良いポジションにあるといえます。

2004年、今年のお正月は?
米国コロラド州出身というミラー氏。クリスマスを祝うため、ひと足早くコロラドに帰り、家族と休暇を過ごすという。昨年7月に着任したばかりなので、日本の新年会は初めて。「新年早々にも東京に戻る予定。新年会をとても楽しみにしている」とミラー氏。カスタマーやパートナーらと有意義な時間を持ちたいと話す。

2004年に求められる人材像とは?
コミュニケーション/サービスプロバイダー市場での戦略開発に大きく貢献し、2000年にはSun社内のリーダーシップ賞を受賞したミラー氏は、「パッションと革新的な考え方」を重視する。「単にコストを下げるだけではなく、革新性を顧客は求めている。技術を牽引し、拡張できる人を業界から募りたい」とミラー氏。

関連記事
新春インタビュースペシャル2004
世界初、OracleWorld Tokyoで128ノードのデータベースグリッドをデモ
Gartner Column:第121回「もはやITは戦略的ではない」との主張に理論武装しておこう
Interview:「Sunはこれからも革新を続ける」とマクニーリーCEO
IT市場活性化を狙うJava Enterprise Systemが国内デビュー
レビュー:SunのクライアントOS「Java Desktop System」を検証する
セキュアなモビリティを実現するSun Ray、ラボでは「Soft Ray」も開発中
SunNetwork 2003 Report
サン、N1構想初のソフト製品「N1 Provisioning Server 3.0 Blades Edition」を発表

関連リンク
サン・マイクロシステムズ

[聞き手:浅井英二,ITmedia]