「第3の電子マネー」の立ち位置 神尾寿の時事日想

» 2005年11月30日 08時23分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 11月29日、セブン&アイ・ホールディングス(セブン&アイ)が2007年春を目処に独自の電子マネーサービスを発行することを発表した。これが実現すれば、全国規模で展開するビットワレットの「Edy」、JR東日本の「Suica電子マネー」など公共交通系マネーに続く、第3の電子マネー勢力になりそうだ。

 この中で、JR東日本の「Suica電子マネー」は公共交通乗車券とのセットで提供され、地域に根ざした電子マネーという傾向がある。例えば、四国松山市の伊予鉄道「ICい〜カード」など地域電子マネー化の展望を持っており、JR西日本の「ICOCA電子マネー」も地域密着型だ。先に掲載したJR東日本のインタビュー(11月16日の記事参照)でも、東京圏ではパスネットの電子マネーと相互乗り入れを検討しているという話があった。

 一方、ビットワレットの「Edy」は地域や業種は問わずに使える電子マネーだ。セブン&アイの電子マネーも、セブンイレブンをはじめとする同社の全国ネットワークを足がかりにした全国展開が前提になる。その点で、Suica電子マネーなど交通系マネーではなく、Edyと競合する事になるだろう。

系列店舗は強みか弱みか

 セブン&アイの電子マネーにとって、最大の背景は全国1万1000店以上のセブン-イレブン店舗と、系列のイトーヨーカドーなどスーパーマーケット店舗だ。どちらも電子マネーの「日常利用」を促す上で強力なアプリケーションであり、それだけ普及を後押しする。同社が初年度の発行数1000万という強気な数字を打ち出すのも、これだけ大規模な店舗導入が自前でできるからだ。

 さらにセブン&アイは、セブン銀行やアイワイ・カード・サービスなど金融部門も持ち、店舗網にはATMが設置されている。電子マネーをとりまく「上流から下流まで」をすべて自前で提供する事が可能だ。同社が、手数料のかかる他社の電子マネーではなく、独自方式を導入したのも当然の流れだろう。

 しかし、セブン&アイ電子マネーの強みは、同時に弱みとなる可能性がある。

 電子マネーは囲い込みのツールであると同時に、それを広めるには公共性・公平性が必要になるからだ。セブン&アイが提供する電子マネーは、同社がコンビニとスーパーマーケットの強力なプレーヤーであるが故に、公共性・公平性の点で不利になる。言うまでもないが、他のコンビニエンスストアやスーパーマーケットなど小売業者では採用されにくいだろう。

 その点で、ビットワレットの「Edy」は出資会社の多さと、ビットワレット自身が利用先事業を持たないことが、公共性・公平性の担保になっている。だから、am/pmとサークルK/サンクスという競合する企業が同じEdyを採用できる。

 JR東日本のSuica電子マネーなど交通系マネーは、最大のアプリケーションが「公共交通」であり、NEWDAYSなど関連会社で採用されていても同業者に与える影響は軽微だ。少なくとも、言い訳は立つ。利用事業者のレイヤーで競合関係は起こらず、電子マネーの公平性が担保される。

 セブン&アイの巨大な店舗網を持ってすれば、単独利用の電子マネーでも影響力と市場規模は大きい。しかし、電子マネーとしての普及を考えると、他事業者がどれだけ採用するかが試金石になる。サービス開始初期の段階で、どれだけ他事業者の採用を取り付けられるかが、セブン&アイ電子マネーの将来のポジションを決める上で重要な課題になるだろう。

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