昨年9月、PeopleSoftの旧経営陣は、IBMを「鋼(はがね)のようなミドルウェアベンダー」と呼び、サービス指向アーキテクチャ戦略の中核にWebSphereを据えた。来るべきWebサービスの時代にはミドルウェアの役割が極めて重要になる。異種混在環境でビジネスプロセスをつながなければいけないからだ。「顧客の多様な環境すべてを支援するのがIBMの宿命」と話す日本IBMの三浦氏に話を聞いた。

ITmedia 2004年はソフトウェア事業担当への就任から始まりましたね。この1年を振り返ってください。

三浦 年初にソフトウェア事業担当となり、この1年で特に力を注いできたのは、品質向上とサポートでした。それまで私はトヨタ自動車を担当しており、顧客サイドからソフトウェアはこうあるべきだという話をしてきました。しかし、まだまだ不十分でした。

 新しいソフトウェアが開発されたり、既存製品が改善されて性能値が前年より良いといっても、顧客にしてみれば、「そんなの知らない」ということになります。顧客がやりたいことにきちんとミートしていることが重要なのです。顧客の視点が大切なのです。

 製品の価値をきちんと伝えるための社内のバリューチェーンも整えました。開発ラボが「顧客にメリットをもたらすはず」と考えた製品でも、顧客のところまで行くと形が変わってしまいがちです。


「落合ドラゴンズは2005年も日本一」と中日ファンの三浦氏。IBMソフトウェアも「試合をやるアーキテクチャは出来た。次は個々の構成要素を強くしたい。人が重要」と話す。

 コミュニティーづくりにきちんと取り組んだ年でもありました。どんなに優れた製品でもそれをきちんとシステムとして届ける技術者の数とスキルが整っていなければ、顧客に満足してもらうことはできません。しばしばIBMは自前主義だといわれますが、それではとても市場のスピードに追いつきません。

ITmedia 顧客の視点が重要だということですが、顧客サイドでは今年、どんな動きが見られましたか。

三浦 従来から使い続けてきたアプリケーションと新しいアプリケーションが混在しており、顧客はとても不安を感じているというのが現状でしょう。これはシステムだけでなく人やスキルにも言えることです。今まで以上に経営層が問題意識を持った年でした。大手企業を中心にEA(Enterprise Architecture)の導入や検討が進んでいるのもそうしたことを反映していると思います。システムをできるだけ長期間にわたって利用していきたいと考えれば、基盤であるミドルウェアがカギを握ります。

ITmedia アプリケーションを新世代型に移行させるうえで、ミドルウェアには大きな期待が掛かっています。昨年9月、PeopleSoftがIBMとの提携を強化し、WebSphereをバンドルすることを発表したのは象徴的な出来事だと思います。

三浦 国内でもISVからはオープンなミドルウェアに移行したいというニーズが寄せられています。昨年は、例えば、中堅および中小企業向けのパートナープログラムである「ISV Advantage Agreement」に内田洋行(SuperCocktail)、エス・エス・ジェイ(SuperStream)、日本アイテックス(ePro_St@ff)、住商情報システム(ProActive)らが加わり、WebSphereやDB2で稼動するソリューションが拡大しました。これまではERPが主流だったのですが、今年はSCMや生産管理へと幅が広がりそうです。

顧客の環境すべてを支援するのがIBM

ITmedia しばしば競合他社は、IBMのミドルウェアはばらばらで統合されていないと批判します。

三浦 メーカーとしては統合されていて、市場に強力なメッセージを伝えられることが望ましいと思います。しかし、実際の製品は完璧にはいきません。新しい機能を追加したり、新しい技術を買収して取り込もうとするからです。

 統一されたフレームワークの下にさまざまな機能を部品化し、それらを組み合わせることによって顧客が望む機能や性能を発揮するのがIBMのソフトウェア戦略です。しばらくは製品による統合と、人による統合が並存していくことになるでしょう。

 また、ソフトウェアにも部品と素材があり、両者の境界線で素材に近いところは人が介してやっていくことになります。例えば、Tivoliは対象が自社製品だけでなく、世の中に出ているさまざまな製品、例えば、Windowsも複数のバージョンが対象となります。

ITmedia それがIBMの宿命ですか。

三浦 IBMがその意義を認められるためには、そういうところまでやらないといけません。実際、これまでやってきましたし、今後も顧客からはそれを期待されています。期待にこたえられる会社であり続けたいと思います。

市場の動きに合わせ新しい芽を育てる

ITmedia IBMがPC事業を売却しました。ソフトウェア事業を統括する立場からお話をうかがいたいと思います。

三浦 ソフトウェア分野でも米Candle買収を受け、昨年11月に日本キャンドルを統合しました。補完的なベンダー、将来成長が見込める。ソフトウェア業界においては、買収や合併が日常茶飯事ですし、長期的なトレンドです。

 一方、寡占が進むとLinuxのようにそれをブレークスルーしようという動きも出てきます。ハーバードビジネススクールのクレイトン・クリステンセン教授が『イノベーターのジレンマ』に書いているのですが、市場の動きにきちんと対応していくことがわれわれにとっては重要なのです。しばしば技術の進歩は顧客の実際のニーズを遥かに超えてしまいます。ところがそこへ、より安く単純で、高機能を必要としない顧客から見れば必要かつ十分な性能を持つ製品を新興企業が提供してくるのです。それによって優秀な企業が足元をすくわれた例はたくさんあります。

 これはコンピュータ業界にも当てはまると思います。パソコンはどんどん高機能化しますが、電子メールだけで十分という人たちもたくさんいて、もっと軽い環境、例えば、Linuxのような選択肢への需要が出てきます。われわれは、市場の動きに応じて、こうした新しい技術の芽を育てて市場に導入していくことが求められています。

ITmedia 例えば、どんな技術の芽があるのでしょうか。

三浦 エンベデッドソフトウェアやパベイシブコンピューティングです。特に前者について言えば、日本は家電製品については世界の開発センターといっていいくらい、豊富な開発陣がそろっています。自動車産業もそうですね。

 エンベデッドソフトウェアはすり合わせが必要で泥臭い世界ですが、できるだけすり合わせの部分を少なくしていくことが、コストを抑え、さらに管理やメンテナンスも容易にします。ここでもきちんとアーキテクチャを用意し、ブロックダイアグラムでつくることができるようにしないといけません。

 私は、自動車メーカーに対してブレーキを供給するのではなく、ネジやボルト、あるいはブレーキパッドを供給するティア2のサプライヤーにIBMソフトウェアがなるべきだと考えています。そうすれば、複数の自動車メーカーに対して同じ製品を供給でき、水平的な広がりが期待できるからです。

読みたいと思って買い込んだ本が「積読」になっている。塩野七生さんの『ローマ人の物語』の最新刊もそうですね。洋の東西を問わず、歴史小説は好きです。深川の江戸情緒も好きですね。東京勤務になってから、まだゆっくりと観ていませんので、正月休みに訪ねて歩くのもいいかもしれませんね。

[ITmedia]

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